ダーク・ガジェットについて説明があったんだけど、どうすればいいと思う?
『……新世代ヴィランの象徴となってしまった【ダーク・ガジェット】を放っておく理由は無かった。ヒーロー連合は、血眼になって【ダーク・ガジェット】を回収して、処理することに力を入れた。それは現代でも変わらない』
ティーカップでポカリを飲んだカイザーが、そう話を続ける。
『ま。実際、理由はどうあれ“魔が差した”連中が出たんだ。国が管理していない力など、危険極まりないことは変わりない。もはや【ダーク・ガジェット】は所持するだけで罪となり、一般人の所有は禁止されることとなった』
:……言いたい事も、理由もわかる。
:けど……けれど、【ダーク・ガジェット】。いや、【レプリカ・ガジェット】が有用な道具な事には変わりは無いはずだ。
:個人の所有を禁止するのはまだしも、それなら国の管理する団体。それこそ警察や、ヒーロー組織の追加武装として渡す案があってもおかしくないはずじゃ?
俺はこの話を聞いてから、ずっと疑問に思っていたことをカイザーに質問する。
国が管理されていない力が危険なことは大いに同意だ。しかし、だからこそ逆に国が管理する組織に、有用な追加装備として一切配られないのもおかしい話じゃないか? そう思っていた。
それこそ、ちゃんとしたヒーロー組織の“追加メンバー”に配ったら、ここまでの問題に対していろいろ収まりがいいだろう、と。
『そうだな。我も大いに同意だ。……しかし、君も知ってるのではないか? 一般人に告知された、【ダーク・ガジェット】が禁止の理由について』
『【ダーク・ガジェット】は、所有するだけでも精神を蝕む危険な道具。見つけ次第、速やかにヒーロー連合に回収を……という宣言を』
:…………
ああ、知っている。
そう言った理由で、【ダーク・ガジェット】が禁止されている理由があったのは分かっている。
けれど、ここまでの話を聞いて……わざわざ【ダーク・ガジェット】に、【レプリカ・ガジェット】にそんな機能をつけるとは、思えなかった。
:実際、どうなんだ? カイザー、お前は【ダーク・ガジェット】を使っているんだろ? 精神を蝕む機能なんて、本当に付いているのか?
『ふむ? 少なくとも、我はそんな機能が付いてるとは聞いた事が無いな。ティアーに聞いても、「そんなの付いてないわよ!」と言われたしな。我自身、いくつか【ダーク・ガジェット】を使用しているが、精神がおかしくなった感覚など無いし』
:じゃあ……
『……けれど、それを証明する手立てが我には無い』
:っ!!
『既に幼い頃から、【ダーク・ガジェット】を振り回しておったのだ。気づかない間に、徐々に徐々に精神を汚染させられ、今こうして話している自我も【ダーク・ガジェット】に洗脳された後だ、と指摘されてしまっては、我にはそれを否定する客観的な証拠が無い。結局、我自身の自意識の話でしかないしな、正気を保っているという宣言など』
:…………
『これを証明するには、【ダーク・ガジェット】を一切使用しておらず、信頼出来る技術者が解析した結果を発表するしかないのではないか? ──そう、それこそヒーロー連合所属の技師が、洗脳効果があると発表した時の様に』
……つまり、話は振り出しに戻ってしまうと。
【ダーク・ガジェット】に洗脳機能が無いと言い張るには、信頼出来る技師が解析して発表するしかない。
そして、世間一般的に信頼出来る技師など、ヒーロー連合所属の技師という肩書きだろう。
つまり、そんな人たちが発表したのだから、一般人はそれを信じるしかないと。
……この報告を疑うことはつまり、ヒーロー連合を信頼していない事に繋がってしまう
…………。
『そもそも、【ダーク・ガジェット】はあまりに簡単に強力な力が手に入り過ぎる。そんなものを一般人に渡したら、力に溺れて調子に乗るものなど大量に現れるだろう。実際、我もその高揚感は否定しないしな。この“力に溺れている状態”を精神が蝕まれていると定義するならば、まあある意味否定は出来ないだろうな』
:つまり、“ヒーロー連合が嘘をついていると断言するにはまだ早い”、と?
『そういう事にしておいた方が回収が容易、という理由も考えられるがな。実際は大した事ないかもしれないし、本当に我らの予想以上にヤバい物かもしれない。深読みすればするほど、実体の真意など分からんさ。──ただ一つ確かなのは、よっぽどヒーロー連合は【ダーク・ガジェット】を使わせたくないのだろうな、という事くらいさ』
:……まあ、そんな発表をした以上、そんな危険なものを公的な組織に持たせたくは無いわな
つまり、【ライト・ガジェット】と【レプリカ・ガジェット】の共存は不可能、と。
そうヒーロー連合は判断した。
精神汚染の危険性があるものなど、百害あって一理無し。
──本当に? ブルー/ティアーが関わったものが?
『……そんなわけで、【ダーク・ガジェット】が受け入れられることは無かった。……流石にティアーも落ち込んでいたよ。当時幼い身でありながら、ここまで歴史の転換期を作り上げた少女。……そして、新世代ヴィランを作り上げてしまった黒幕と言える存在となった少女』
:…………
『……そんな彼女に、我は……私は、当時こう声を掛けた』
『──そんなもの、“世界を支配すれば関係なくなるだろう”、とな』
:……ッ!!
『だってそうだろう? 旧世代とか、新世代とか。ヒーローとかヴィランとかヴィジランテだとか。ヒーロー連合の思惑だとか、悪の組織同士の連携だとか。【ライト・ガジェット】、【レプリカ・ガジェット】、【ダーク・ガジェット】とか。ティアーが歴史を変えた救世主だとか黒幕だとか。全部、全部面倒臭い』
『──そんなもの、全部支配すれば関係なくなる。ヒーローも、ヴィランも。旧世代も、新世代も! 全て、全て!!』
『ああ、そうだ。この宣言こそ、【カオス・ワールド】がハッキリと始動した瞬間。世界支配を目標とする、新たな悪の組織の誕生だ』
『そして、その組織の長こそ我、カイザーであり。それに付き添うのが我が組織の幹部、コバルト・ティアーだ』
『全部、ひとかためにする。それこそ、我の真の目的であり、我の夢である』
:────────
……俺は、言葉が出なかった。
これが、カイザー。世界を本気で支配しようとする、悪の組織のボス。
自らをティアーの傀儡だと卑下していた、【カオス・ワールド】のボスの本当の姿勢、姿。
──何が傀儡だ。馬鹿馬鹿しい。こんな中身の伴ったカリスマ持ちの傀儡がどこにいる。
:……その宣言、当時のティアーに取っては救いになっただろうな
『……さあな。当時の我の言葉が彼女にどこまで響いたかなど、我には分からんよ。それに、私はティアーを救うためにこの組織を立ち上げたわけでは無い』
:……?
『前にも話したな、私のありきたりな生活のことを。公園のガキ大将を倒したり、遊具を占領する他校の高学年を倒したり、イジメを行っている中学生を倒したりと。……ああ、そうさ。私のやることは変わらない』
『その対象が、ヴィラン、ヒーロー、新世代、旧世代、ヒーロー連合。それらに変わって行っただけだ。ティアーは、その為の都合の良い戦力に過ぎんと言える』
『──私は、私の気に入らないものを全て倒す。昔から本当にやりたい事は変わらなかった。たとえそれが、相手が世界になろうとも』
:────
『そして、その力が。──“世界を支配でき得る力が、自身にある”。ならば、挑戦しない理由は無いだろう──?』
……以前放った言葉。それと似た言葉が、カイザーの口から放たれる。
けれど、その時感じたものとは、全く違う印象を俺は感じていた。
『……さて、ここまで話をしたが、これがティアーのやってきた事だ。新世代ヴィランを作り上げた、時代の黒幕の真相』
『……ちなみにだが、【カオス・ワールド】は以前も言ったように、【ダーク・ガジェット】の製作、販売は今も行っている。ティアー主導でな。……ただし、販売相手は“ティアーが厳選した者だけ”になっているが』
:…………
『この行為だけでも、ティアーは立派な悪の幹部と言えるが……敢えて、君に問おうか』
『──ティアーのこれまでの行動は“悪”と言えるか? それとも、“正義”と言えるか?』
……その問いかけに対して。俺は──
☆★☆
「──よお」
「ん? なんだお前? 持ち場はどうした?」
「いや、ちょっと指示変更があってな。それを伝えに来た」
「指示変更? 通信機ごしには何も無かったが」
「軽いものだ。ちょっとあっちの方面を見てくれるか? あそこのショップあたり」
「あ? 何がある──」
ズバッ!! ← (一瞬レッド・エッジ展開、発動)
ドサッ ← (声も出さずに倒れる音)
「……よし、8人目クリア。縛ってその辺の試着室に放り込んでおこう」
『あまりにも堂々とした暗殺すぎて逆に尊敬するわ……』
無線イヤホン越しに
最低でも通信機は使えないように軽く分解してバッテリーを取り外し、それだけを回収する。
命を奪うまではしてないから、万が一復帰したとしても壊れていない筈の通信機で連絡を取ろうと少しでも四苦八苦する時間を稼ぐためだ。
最初から壊れてたり、紛失に気づいたら直接連絡に動く判断をすぐされてしまうからな。
『私、時々レッドの天職別だったんじゃ無いかって思っちゃうわ……とりあえず、これで一階までの開放が完了ね。
「ああ、とりあえずここまでバレずにやれてそうで良かった。順調順調」
最初に地下駐車場を開放し、今は一階の敵の掃討が完了した。
これでこの範囲の一般人は、みんな一旦地下駐車場に隠れてもらう事になっている。
本当はそこから全員建物外に脱出させたいが、流石に店の外に出始めると相手も気付くだろうから、敢えて駐車場の外にいるだろう敵はまだ倒していない。
一般人を可能な限り地下駐車場に集めてから、改めて俺もそこに向かって全員で脱出する予定だ。
「けど、問題はここからだ。このショッピングモールは屋上もある5階建で、後4階分……上にいる奴らが下の階に降りてこないとは限らねえし、監視カメラで敵の階移動があったらすぐ知らせてくれ。異常に気づかれる前に片付ける。こっからは時間との勝負だ」
『了解、慎重にね』
「ああ。けど、見通しが少し甘かったか……? 思ったより他の階の一般人の避難まで余裕が出せねえ。この格好じゃいちいち説明する時間も面倒だし、誘導を
ちなみにこの格好だと一般人を怖がらせるだけなので、救出した人達の誘導については
しかし、ただでさえ相手にバレるまでの時間との勝負なのに、いちいち
『あー、それなんだけど……なんとかなるかもしれない』
「お、本当か?」
『うん。いやー、実は……このショッピングモール内の一般人に、私の“友達”も何人かいてね』
「トモダチ」
『うん。そっちも巻き込まれちゃったんだって。今私が連絡して、ある程度自力で行動出来るから、レッドは配下倒すのに集中していいよ。周りの人たちも一緒に誘導してもらうから』
「……ちなみにだけど、まさか敵の配下を自力で倒せる人たちだったりする?」
『あはは、何言ってるのレッド? 流石に友達はヒーローってわけじゃ無いわよ……レッドと違って、目立っちゃうから今は無理そうだし』ボソッ
ボソッと小声で言った部分、聞こえたからな。
けどなるほど、“友達”か、“友達”。なるほどなるほど、
割と言いたい事は色々あったが、結果的に助かるので敢えて指摘せずに良しとした。
「よし。じゃあ心配事は大きく減った。残りの階もさっさと開放しに行ってくる!」
『頑張って! 気をつけてね!』
──そうして、数十分後。
俺は3階の開放も丁度完了した所だった。
「よし! この階も全員倒したな!」
『ええ! 監視カメラに映っている敵配下はいなさそうよ! カメラに映っていないなら分からないけど……』
「大体目視である程度確認してる。多分大丈夫だ。……にしても、“他のヒーローがくる様子が無いな?” そこそこ時間掛かったから、とっくに上位ヒーローが来てもおかしく無いのに。
『え? ちょっと待ってね…………ん? 【ガリオ・リベンジャー】が暴れているニュースはあったけど……“場所が違う?” あ、これ敵組織が先に別のところで騒動起こしてる!! これ2箇所以上同時に襲ってるわ! そっちに先にヒーロー向かっちゃってる!』
「はあ!?」
なんで!? じゃあこの建物を襲った意味は!?
という事は……まさか片方誘導か!?
この建物が囮……いや、普通に考えればヒーローを誘導した、今言ってた方の場所が囮か!?
じゃあまさか、こっちの建物が本命!?
「この建物に関してのニュースは!?」
『ちょっと待ってね……ねえ、この建物についてのニュースってある? ……あ、一切無い。あっそう、分かったわ。……今調べたけど、一切流れていないみたい! あんな爆発あったのに! もしかしてこれ、爆発の音が外に出ていない? 変な技術で消音とかされてた?』
あ、ちょっと待って、と
『ねえねえ。普通のケータイって今つながる? ……あ、やっぱり繋がらない? ありがとう。……レッド、大変!! “この建物内、普通のケータイじゃ外に連絡できなくなってる”っぽい!! 私たちのケータイが特殊だったから、今まで気づかなかった!』
「マジか、連絡対策もバッチリか……それが本当なら、ちょっと敵組織舐めてたかもしれない」
建物内の爆発音を響かせたのは、一般人をビビらせていうことを聞かせるためか?
わざわざなんの変哲もないショッピングセンターを襲うような組織だ。
そこまで大層な目的が無い、せいぜい金目のもの目当ての強盗系か何かかと思っていたが……
わざわざ陽動と、爆発の消音をするくらいだ。本気でこの建物に何か狙いがあるとしか思えない。
「ちょっと本気で急いだ方がいいな。
『っ!! 待ってレッド! 誰か降りてくる!』
「っ上の階の配下か!?」
『違う、もっとヤバい格好! これまさか……』
「──クン、クン。匂う、匂うぞぉ」
上の階の止まったエスカレーターから、誰か一人降りてきた。
そいつは、“獣の頭”をした格好で、狼のような頭と、爪を持っていた。
明らかに一般人では無い。そして、敵の配下の格好でも無い。という事は……
「多少騒がしいから下がってきて見れば……格好はウチのものだが、“その中身、嗅いだ事のない匂い”だなぁ」
「……っ」
「なあ、ちょいとその服を脱いでくれよ。いや、いや、別にいいな。……俺自身が刻んでやるからよぉ!!」
「ちぃっ!!」
その言葉とともに、巨大な爪が変装したレッドに対して振りかざされる。
咄嗟にバックステップで回避したが、ズバッ!! っと、服に大きな切れ目が付いた。
「はっはっはぁ! なんだその中身は! 明らかに変わった格好だなぁ!」
「生憎、ちょっと寒がりなもんで! お前も暖まるか? “レッド・フレイム!!”」
「ぬうおっ!?」
目の前の狼の獣人に対して、レッドはこれ以上誤魔化すのは無理と判断して必殺技を放つ。
相手が怯んだすきに、狼の幹部が降りてきたエスカレーターを使って上の階にダッシュする。
「
『どうするの!? まだ4階も5階も開放しきれてないわ!!』
「こうなったらサブプランだ!!」
俺はそう言いながら、奪った敵の通信機を起動する。そして大声で全員に通達する。
「全員に報告!! “建物内でヒーローが見つかった!!” 屋上にダッシュで向かってる模様! 至急全員で集まり対処せよ!!」
『なあっ?!』
俺はそう敵組織に通達した後、敵のヘルメットを脱いでいつものレッドのヘルメットを展開する。
変装も走りながら無理やり破いて解き、あっという間にいつもの格好になった。
これで誰が見ても、ヒーローと判別するだろう
『ちょっと何考えてるのレッドぉ!? 自分からバラしてどうするの!?』
「見つかった以上、こうなったら逆に大目立ちして囮になる!! 俺自身が敵を可能な限り引き付けるから、
『駐車場の脱出はどうするのよ!? レッドが最終的にみんな引き連れて外にいる筈の敵排除するんでしょ!?』
「
『ガジェット無いんだけど! 本当に私がガジェット無しで戦えると思ってる!?』
「ああ! その通りだ!!」
『っ!!』
「
『ちょ、ちょっとレッド……』
「いたぞ、あっちだ!!」
「さあ、こいよ!! “レッド・エッジ!!”」
俺はここにいると目立つように。
そのまんま、目についた敵をなぎ払いながら、俺は上へ上へと走って行った……
☆★☆
「レッド!? レッド!! ああ、もう!!」
私は繋がらなくなったレッドとの通話を切り上げて、“他のメンバー”に連絡を取る。
「4階、5階にいるメンバー!! 状況が変わったわ! もう遠慮はいらない、存分に武器を展開して暴れなさい! ただし一般人は傷つけないように! レッドがいるけど無視しなさい!」
『了解!』『了解ー』『了解でーす!!』
「後、他の階にいるメンバーと建物外にいるみんなに聞くけど、“例の物”についての調査はどう!」
『C班、3つ見つけましたー!!』『D班、二つです!』『A班、4つ見つけて内2つ解除中〜』
「よしっ! みんなそのまま続けて! 私はちょっと用事が出来たから、一旦離れるわね!!」
そうして、みんなへの指示を終わらせた後、私は一息つく。
……全く、レッドも酷い無茶振りをしてくる。
彼自身もヤバイ状況に陥っているのに、私にガジェット無しで人質みんな逃せだなんて、とんだ無理難題ね。
……レッドは、私の“正体”なんて知らない筈なのにね。
「──ええ、やってあげるわよ。ただし、さっさと片付けてね。そのあとはレッド、覚悟しなさい……」
私は、管理室を飛び出して駐車場に向かう。
その手には、私の“愛用の武器”を携えて……
☆★☆
「……出た! 屋上!!」
俺は屋上に転がり出る。
そこはまだ誰もいない状態だった。一般人もいない、これはある意味好都合だ。
「まずは異常を知らせないとな! “レッド・ギフト!!”」
俺は右腕に、チャージのエネルギーを貯める。
利き腕は、まだ消費出来ない。負担を掛けれるのは左だ。
そのエネルギーを、左腕に付与して準備を完了。
「からの、“レッド・メガフレイム!!”」
そして、火力強化したフレイムを、空に向かって放った!!
ゴオオオオオウッ!! っと、以前放った強力な火力が天に向かって遡る!!
建物の屋上からこれだけ強力な炎が湧き出たんだ。最低でも目撃者が出て、ニュースになる筈。
狼煙がわりに必殺技を使って、誰かに気付くようにそう祈る。
「──っ。よし、これくらいでいいだろ……」
俺は左腕が完全に使えなくなる直前で技を切る。
負担ゼロとは言えないが、ギリギリ剣を握れる程度の握力は残っている。
あとは……
「っ! よっしゃ! 配信用のドローンだ!!」
想定通り、配信用のドローンが来てくれた。
ヒーロー連合のよく使う、信頼出来るドローン。
俺はそれに対して声を上げる。
「〇〇ショッピングセンターが、ヴィランに占領された!! 至急上位ヒーローの応援をくれ! 繰り返す! 〇〇ショッピングセンターが……」
「──逃すかよお!! ヒーローぉ!!」
「ちぃっ!!」
カメラに向かって声を上げていると、追いついた狼の幹部がレッドに襲いかかってくる。
それを剣でギリギリ防ぎ、互いにズザーっと距離を開ける。
「見慣れないヒーローだなあ……弱っちい戦隊か? にしては、散々暴れまくってくれたじゃねえか……」
「さあ? そっちが情報収集怠ってるだけじゃ無い? お前が今回の騒動を引き起こしたリーダーか?」
俺は時間稼ぎを兼ねて、目の前の狼の幹部に声を掛ける。
悪の組織の行動は、基本幹部がリーダーとなって騒動を起こすことが多い。
つまり、目の前の狼の幹部が今回の騒動のトップならば、こいつを倒せれば自体は大幅に収束する筈。
「(さっきのぶつかり合い……ギリ、今の俺でもなんとかなるレベルか? 隙があるならさっさと倒すのがベストだけど、素直に上位ヒーローを待つために時間稼ぎも……)」
そう心の中で思考していると、目の前の狼の幹部がニチャアっと笑う。
「おあいにく様だがなあ……今回の騒動のリーダーは、俺じゃねえのよ」
「何……っ?!」
「ロケット、パァアアアンチッ!!」
「あっぶねえ!?」
俺の背後から、文字通りロケットパンチが飛んできて咄嗟にそれを躱す。
過ぎ去ったパンチはグルンと戻っていって、俺の背後にいたロボット状の形態をした誰かにくっ付いた。
「ビビィ、ガーっ。外れました」
「幹部二人……っ!!」
前後に挟まれた状態。さすがに厄介だなと思っていたら……
「ぬうううううんッ!!!」
「んな!?」
俺の上空から、巨体な誰かが降ってきた。
それをギリギリで転がって躱すと、ズッシイインッ! と屋上の一部が凹んだ。
3人目……!?
そう思っていると、ふと自分の真横にカチカチとした音が……
ドカァアアアアアアンッ!!!
「うわあああああっ?!」
「キキ、ヒ〜はっはああっはは!! どうだ、ワタシの開発した爆弾は!!」
爆発に吹っ飛ばされながらも声のした方を振り向くと、白衣を着たいかにも科学者な風貌な存在がいた。
これで屋上に、狼、ロボット、巨体、科学者の4人がいることになる。
「嘘だろ、幹部級勢揃いかよ……!?」
こんなただの街中のショッピングモールで、まさか一組織の幹部がこんなにも揃って出てくるとは思わなかった。
さすがにこれは……
「──幹部だけでは無い」
……そして、追い討ちをかけるようなその声が。
恐る恐る振り返ると、いかにも全身黒づくめの威厳たっぷりの洋装をした存在が。
「──我が【ガリオ・リベンジャー】のボス。プルガトリオである」
「……ははっ、は……これはこれは、皆さん勢揃いで……」
俺は自然とから笑いをするしか無かった。
ヒーロー戦隊ランキング83位、レッド一人。
それに対して、最低50位以上が対処する悪の組織が、幹部とボス勢揃いで襲って来た──
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
「街中でこんなの相手にしろと!?」
しかも大技使うと、逆にヒーローの技で街中に被害が出てしまうため、実質封じられた状態で絶体絶命中。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
女
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
ただいま爆速で移動中。
連絡不可。
★カイザー
22歳
172cm
紫髪
混沌・悪
【カオス・ワールド】のボス。
ティアーの幼馴染み。
「……さあ、君の答えはどうなんだろうな?」
画面の向こうの“君”への答えを、ワクワクしながら待っている。
悪か、正義か。どちらを答えたとしても、納得はするだろう。
──そう思っていた。