『みんな〜!! 【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”の“簡単、よく分かるヒーロー対策”の時間がはーじまーるよー!!』
:わー!!
:始まった!
:待ってました。
いつもの時間帯。
俺は自宅で、いつものようにティアーの配信を覗いていた。
とは言っても、まさに今日の昼間【クロス戦隊】との騒動があったばかりだったからか、配信越しでも分かるくらい疲労が隠せないような表情をしていた。
その事に自覚があるのか、ティアーも申し訳なさそうに切り出す。
『とは言っても、ちょっと謝らなくちゃいけなくて……そのー、最近個人的にちょっと疲れる事があったから、疲労が溜まっちゃってるの。そのせいで、今日の分のヒーローの情報まとめるのが間に合ってないの! ごめんなさい!』
:大丈夫ですー!
:むしろティアー様こそ、大丈夫ですか?
:というか、そんなに大変だったんですか?
:そんな大規模な事件最近あったっけ? この間のショッピングモールの爆発くらい?
:たまには、ゆっくりしても良いですよ
『うう、みんなの優しさが目に染みるわ……ありがとうー! というわけで、今日は軽く質問コーナーをやって、終わろうと思うの。みんな、何か質問あるー? なんでも良いよー』
:質問ですか……
:特定のヒーローの事じゃないやつでも良いって事ですよね?
:ティアー様以外の幹部の事とか聞いても良いですか?
:【ライト・ガジェット】の適正って、あればどんなガジェットも使えるんですか?
:アジトの前にポカリが大量にあったんですけど、あれなんですか?
:ティアー様のスリーサイズはー?
質問コーナーに入って、リスナーから早速いくつかのコメントが送られていた。
俺も【ダーク・ガジェット】に関して質問しようとしたけど、出遅れたな……
まあけど、ティアー以外の幹部? についての質問は、俺も興味が……
って、おい。このポカリの件、どう考えてもカイザーだろ。ちょっと笑っちまったじゃねーか。
『うんうん、今回もいろんな質問が来て嬉しいわー。けどちょっと大変だから、取捨選択させてもらうね。もちろん、スリーサイズは教えないわよー』
:くそあッ!!
:めっちゃ悔しんでて草
:当たり前だろーが
:アイリス様は公開してくれてるんだよ!?
:ティアー様には関係ねえだろうが
:レイズ様や、ミクス様のサイズも知りたーい。
:ミクス様はともかく、レイズ様には殺されない?
:私女だし平気ー
一瞬でコメント欄がごっちゃになりやがった。炎上とまでは行ってないけど、どんだけスリーサイズ知りたいんだよ……
『はいはい、みんな落ち着いてねー。それじゃあ、そうね……この“【ライト・ガジェット】の適正”について説明しましょうか。私が知ってる事、話していくわねー』
:わーい!
:ワクワク
:適性検査行ったけど、低すぎて弾かれたんだよなあ……
:ここに裏切り者がいるぞー!!
:ここにいるやつら、大体そんな感じばっかだろーが!
:テへ♪
……!! コメント欄を見たら、少し見過ごせない情報があった。
少なくとも、ティアーの配信にいる奴らは、一度は適性検査に行った事あるやつら。
つまり、ヒーロー志望だった奴らって事か……?
……ヒーローとヴィランについて考えている俺にとっては、それを知って少し複雑な気分になっていた。
それはそうと、画面の奥でよいしょっと、とホワイトボードを準備していた。
それが終わったのか、画面に向き直ってティアーは説明を開始する。
『それじゃあ、ヒーローの持つ【ライト・ガジェット】について簡単に説明していくわねー』
:よろしくお願いします!
:お願いしまーす
:オネシャス!
『まず、質問にあった“【ライト・ガジェット】の適正って、あればどんなガジェットも使えるんですか? ”についてなんだけど……結論から言うと、“出来ない”。特定の専用ガジェットしか使えない、が答えね』
:え? そうなんですか?
:てっきり、【ライト・ガジェット】全部使えるのかと……
:へー?
『そもそも、ヒーロー連合所属のヒーローが使うガジェットを、全部まとめて【ライト・ガジェット】って呼んでいるけれど……あれ、正確には5000個近くあるガジェット、全部別物と考えた方がいいわよ。“ガジェット毎に適正判定が発生してるから”』
:へええ!?
:全部別物!?
:あんなに数あるのに、全てユニーク産って事!?
『もちろん、共通規格の部分もあると言えばあるんだけど……シリーズ物で別れているように見えても、適正判定は個別だから“同じ戦隊内でも貸し出し不可能”なのが普通よ』
そう。ティアーの言うとおり、【ライト・ガジェット】は全て個別適正判定がある。
例えば【ライト・ガジェット】の中でも、俺の使っている【レッド・ガジェット】と呼んでいるもの。
これは俺、佐藤聖夜が使えているが、仮にグリーンさんに渡したとしても、うんともすんとも言わなくなる。
つまりただの置物の剣になってしまう。以前試したから分かる。
他にも、ブルーの【ブルー・ガジェット】をピンクやイエローに渡しても、同様に使えない。
基本的に、“他人のガジェットは使えない”と言うのがヒーロー内での共通認識だ。
……もちろん、少なからず例外はあるが。
『もちろん、例外はあるわ。二つ以上のガジェットの適性を持つ、よっぽどレアな体質。私は“デュアル適正”と呼んでいるけれど、そんな人材が歴史上いない事も無かったらしいわ。まあ、けれど2つ以上適性があるとしても、どっちか片方だけのガジェットを選んで使わされるらしいけどね』
:そうなんですか?
:まあ、ただでさえヒーロー側人数限定されてるんだから、自分から数減らすような事はねえ……
『ガジェットの適性は選ばれたものだけ。と言うけれど、世界規模で探せば、特定の一つのガジェットに対して適合者は“数十人”は最低いるわ。じゃないと、今まで受け継ぐ事が出来ないしね。だからこそ、負傷者や引退者が出た際、引き継ぎの交代要員が用意されているわけだし』
:そう考えると、意外と適正多いですね。【ライト・ガジェット】の適正者
:思ったより、一人だけ選ばれたと言うかレア感が無かった
:けど、今世界人口82億とかじゃ無かったっけ?
:その中で数十人と考えると、やっぱり少ない。
そうなんだよな。予備候補者という意味では、常にヒーロー連合は2,3人は用意しようとしているらしい。
現役ヒーローに万が一何かあった時、速やかにその予備候補者の誰かに、【ライト・ガジェット】を引き継ぐ事になっている。
とは言っても、候補者が必ず全てのガジェットに見つかっているわけじゃない。
俺の【レッド・ガジェット】とか、先代が引退してから俺以外他の予備候補者がいなかったらしいし。
【ジャスティス戦隊】のメンバーだって、割と近年ブルー、イエロー、ピンクの候補が見つかって参入したから、久々に5人集まったらしいしな。
それまでは俺とグリーンさんの二人体制だったし。
『もちろん、適合者が数十人いると言っても、その中でも適合率の高さの差はあるらしいわ。【ジャスティス戦隊】のグリーンだって、適合率が結構ギリギリだったから、特殊能力が使えないらしいし』
:そうなんですか?
:結局ヒーローの弱点説明今回もあったしw
おいティアー、さらっとグリーンさんの弱点バラしてんじゃねえよ。
まあ、別に良いけどね! あの人の強さ、能力の有無じゃねえし!! むしろ、それ以外の部分を努力で補ってる人だし!
『適合率自体については、ヒーロー連合側も把握してるらしいから、専用の計測機械を使ってどのガジェットの適正が高いか判別出来るようにしているわ。これが適性検査ね。この検査の結果によって、その人がヒーローの適性があるかどうか運命が決まる……』
:そうなんだよな……
:全部の適性無かった時、ショックだった……
:俺、昔からヒーロー志望だったのに……
……。
選ばれなかった者たちの、身近なコメントを見て、俺は内心複雑な気分になっていた。
『あとは、ここだけの話なんだけどね。……【ライト・ガジェット】の適合者って、ガジェット自身が選んでいるんじゃないかって、噂よ』
ん?
:ガジェット自身が?
:どう言う事ですか?
:意味が分からない……
『言葉通りの意味よ。適合者が複数人いても、その中で実際にガジェットを使えるようになる人は、“ガジェット自身が選んでいるんじゃないか”って。今【ライト・ガジェット】を使えてる人達は、どれもその時点で最高に使いこなせる人達なのよ。運命レベルで、自分を最高に使いこなせる人を探して、使い手になるように仕向けているんじゃないかって、噂よ……』
ま、眉唾だけどね。と、ティアーは冗談を言うかのように最後を茶化した。
『それに比べて、見なさい! この【ダーク・ガジェット】を! 適合者とか、何それ? 的な状態で、誰でも使えるこの武器を! 誰でも簡単に特別になれる、“ある意味誰でも選ばれた存在になれる”このガジェットを! みんな、オススメよ!!』
:急に自社武器宣伝し出して草
:けど、本当にその通りだ。
:これがあったからこそ、今の私がいます〜
:【ダーク・ガジェット】最高ー!!
うんうん、とティアーは嬉しそうに頷いていた。
『そうそう! 【ライト・ガジェット】が、神様からもらったと言われる特殊な神秘の塊の武器なら、【ダーク・ガジェット】は人の手で作られた量産品の武器の側面が強いわ。だからこそ、誰でも使える訳なんだけどね』
ティアーは、自分が関わった武器のことを嬉しそうにそう紹介していた。
あとねー、と続けて……
『私、結構量産品って好きよ。結局個別のユニーク品って、いざ無くしたり、壊したりした時取り返しがつかない事が多いじゃない? 修理とかのメンテナンス面で考えても、【ダーク・ガジェット】は遥かに優秀よ〜』
それに……と、
『──自分が失敗しても、もう一人後を引き継げる存在がいるって、大分安心するらしいわよ?』
……そう、しんみりとした表情で、そう言っていた。
その顔は、いつものティアーとも、ブルーとも違うような表情で。
『……ま! 私にはそんな存在いないんだけどね! そもそもティアーちゃんは私一人! 私こそ、ユニークの象徴!! みんな、崇めて崇めて〜!!』
:ティアー様ー!!
:その通り!!
:ティアー様はたった一人の、我らの象徴です!!
話を切り替えるように、急に明るく振る舞ってそう宣ったティアー。
その様子には、先ほどのしんみりした空気など一切感じられなかった。
『って、あ~。そろそろ時間だ。それじゃあ、今日はこの辺で。じゃ~ね~!』
:じゃーねー
:じゃーねー
:じゃーねえええええ!!
そう言って、ティアーは配信を終了する。
……俺は椅子に座ったまま、今日のティアーの配信した内容を振り返っていた。
「運命、ねえ……」
俺は【レッド・ガジェット】を取り出して、それを改めて見つめる。
「……なあ。何のために、お前は俺を選んだんだ? 他に使い手はいなかったのか?」
「──俺じゃなきゃ、ダメだったのか? だとしたら、何の為に?」
ふと、そんな問いかけをして。
「……ま、答える訳ないか」
そんな自分の行いを、馬鹿らしいと直ぐに気づいて止めた。
……ヒーローとは、“ただ【ライト・ガジェット】に選ばれたかどうかの存在”。
それを改めて突きつけられて、俺は……
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
ヒーローとは何か。
ただ、【ライト・ガジェット】に選ばれたかどうかの存在でしかないのか?
だとしたら、俺は……
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
女
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
ちゃっかり【ダーク・ガジェット】の利点について宣伝していた女。
……彼女の計画の中に、バトンを託せるものはいなかったのだろうか?