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第25話 相手の戦隊が負けを認めないんだけど、どうすればいいと思う?

 “イエロー・サンダー”が炸裂して数十秒後。

 意外と【クロス戦隊】は耐久力があってまだ動けていたのだが、流石に武器がない状態だと何も出来ず。

 そのまま追撃の2発目を喰らって全員倒れ──


『は〜い。【クロス戦隊】全滅ー、【ジャスティス戦隊】の勝利。お疲れ様〜』

「はっ、やったわ」

「ん、お疲れ」

「頑張ったッス!」


「み、みんなお疲れ〜……」

「お疲れー」


 ブルー、グリーン、イエローがそれぞれ一言ずつ呟いて戻ってくる。

 その佇まいはとても戦いの終了した直後で、疲れたようには一切見えなかった。

 ピンクは恐る恐るの声で出迎えていたが、ひとまず3人ともスッキリしたようだった。


『とりあえず、これで“ランキング入れ替え戦”の結果で、【ジャスティス戦隊】と【クロス戦隊】の順位を入れ替えるよ〜。【ジャスティス戦隊】78位、【クロス戦隊】は83位にー』


「な、納得出来ん!?」


『ん〜?』


 神矢長官がそう通達しようとすると、【クロス戦隊】の1号がそれを遮って来た。

 “イエロー・サンダー”を2発も喰らっているのに、また立ち上がってくるのは流石に予想外だったが……

 それはともかく、放送の内容に対して反論をして来た。


「い、今の勝負は我らの実力を全然発揮出来なかっただけだ!? が、合体技さえ使えれば、こんな簡単にやられる事なんてなかった!?」

『合体技の妨害を乗り越える事も、戦いでは重要だと思うよ〜』

「う、うるさい!! ヒーロー同士の戦いには見栄えも大事だろう!? この戦いは配信されているという事を分かっているのか!? そもそも相手の武器を取り上げる事自体卑怯だろう!? 無抵抗の相手を一方的に痛ぶって、それでもヒーローか!?」

「グリーンさん、あなためっちゃディスられてるわよ」

「ん、何故?」


 相手のリーダーの言葉に対して、グリーンは本気で、本気で意味が分からないように顔を傾げていた。

 あれはグリーンをディスられている事なのか、もしくは“武器を取り上げるのが卑怯”という部分が本気で共感出来ないのか。


 ……そもそもグリーンさんは、元々【ライト・ガジェット】の適性がギリギリで特殊技が使えないハンデを背負っていた。

 だからこそ、鍛えられる範囲で自前技術を上げ、敵の隙を一切逃さぬよう実戦で鍛えた対応力で、相手の弱点を付く事を躊躇わない性格だ。

 そんな彼に、戦術的な方法で卑怯などという言葉は根本的に理解出来ないんだろう。


「と、とにかく! 再試合を要求する!! 今度はヒーローとして、ちゃんとした試合を求める!!」

『えー? もう順位入れ替え決定しちゃったから、再試合とか無理なんだけどー』

「な、ならもう一度こちらから“入れ替え戦”を申し込む!! 83位になった我らが78位になったそちらに挑む! これなら文句あるまい!!」

『んー、まあルール上はそれなら出来るんだけど〜……』


「……まだ心折れてないのね。分かったわ」


 ごねる1号に対して、意外にもブルーが前に出て答える。

 その答えは試合要求の肯定だった。


「新しくなった順位で再試合。それがお望みなんでしょう? いいわよ、やるわよ。しかも今度は武器狙撃グリーンさん抜きで」

「ん。分かった」

「はっ? ……は、はっはっはっ!? まさか受けてくれるとはな! 馬鹿なやつだ、我らの真の力を見せられる状態で、勝てる気でいるとは!! いいだろう、今度こそ吠え面をかかせてやる!!」


 ブルーが本気で受けてくれるとは思っていなかったのか、一瞬虚を突かれたような表情。

 しかしすぐに調子を取り戻し、ブルー達に対して再度宣戦布告をし……


「ところで、今すぐでいいわよね?」


「……お?」


 そんな事を、ブルーは言い出した。

 こっちが圧勝して? あっちはイエローの攻撃で大ダメージ喰らって疲労中に? 

 ……まあ、卑怯とは言えないよな、うん。


「……ま、待て。待とうか。流石に一日に連続は疲れるだろう? ここは日を改めてだな……」

「ピンクちゃーん、お仕事いい? “ピンク・ヒーリング”あっちにお願いー」

「え? う、うん。いいよー」


 あ? と1号の疑問の声を他所に、ピンクが前に出て彼らの上空に向かって弓を向ける。

 そして……


「“ピンク・ヒーリング!!”」


 その掛け声とともに矢が放たれ、その矢は弧を描いて【クロス戦隊】の中心に落ちた。

 その矢を中心として、周囲に癒しの波動が湧き起こる! 


「こ、これはぁ!? か、体の傷がみるみる回復していく!?」

「すっげえ!? はは、マジか!? すっげえええ!?」


 1号と5号が興奮したように騒ぎ出す。他のメンバーも大なり小なり驚いているようだ。


「これで体力回復したわよね? もう今すぐやらない理由は無いわよね?」

「く、くく! くはーっはっはっは!? 敵に塩を送るとはまさにこの事よ!! いいだろう、【ジャスティス戦隊】!! お望みどおり、我らの本気を見せてやる!!」


 そう言って、【クロス戦隊】は全員生き生きとした表情で再度所定の位置に戻っていった。

 あいつら回復したとは言え、たった今ボロ負けしたのによくやれるな……

 それだけは素直に関心だった。


「にしても、ブルー。お前わざわざ回復掛けさせてやったんだな、意外だった。そこまでサービスする必要あったのか?」

「いやねえ、レッド」


「だって、ちゃんと言い訳の余地がないようにしてあげないと、心が折れ切らないじゃない」


「あ、うん」


 あ、なるほど。ブルーまだ怒ってると。

 全然スッキリして無かったなコレ。


「はーい。というわけでもう一回再試合。レッドとピンクちゃん、ついでにグリーンが待機メンバー。イエローちゃん、連続頼めるー?」

「問題無いッスー」

「あ、ピンクちゃんも今のうちに休んでおいてね。“多分何度も回復してもらうことになると思うから”」

「うん……え? それって、どういう……?」

「おい、ブルー。まさかお前……」

「よーし、それじゃあ行っくわよー」


 俺の質問を遮って、ブルー達が所定の位置に向かって行き──


 ☆★☆


 『それじゃあ、バトルスタート~!!』


「よし、3号!! 出し惜しみは無しだ、初手からいくぞ!!」

「ああ、了解だ!」


「【フレア・ガジェット】!!」

「【サンダー・ガジェット】!!」


 そうして、1号の筒状のガジェットと、3号の何かのバッテリー状のようなガジェットが空中に放り投げられる。

 そして光を放ち、ガシャーン、ガシャーンと互いに変形して行き……


「“ブルー・ショット”」


 おい、今ボソッとブルー何か発射したぞ。

 普通に水の弾丸合体中のあれにブチ当てたように見えたんだけど。

 おかげであいつらのガジェットビショビショなんだけど。


「ふはは!? 無駄だ!! 合体を阻害しようとしたのだろうが、そんな水鉄砲で止まるわけなかろう!!」

「コレが我らの合体武器!」


「合体ガジェット!! 【フレア・サンダー・バズーカ】!!」


 ドーンッ!! と効果音付きで、巨大バズーカが現れる。

 それを1号と3号が抱えて、発射態勢に入っていた。


「イエローちゃん、まだ。まだよ」

「了解ッス」


「チャージ開始!! ふはは! ここまで来たら貴様らに防ぐ術は無い!! 最大火力までチャージし終わったら、貴様らなど葬り去ってくれる! ほら、あと5秒!! ヨーン、さーん……」


 そうして、1号がわざわざカウントダウンを始め……


「にーい、イーチ! ぜー……」


「今よ」

「“イエロー・サンダー!!”」


 そのブルーの指示に従い、イエローの雷が再度落ちる。


「ぬおぉ!? また雷か!? しかし今度はチャージなどしていなかったようだな!? そんな大したダメージには……」

「あんたらじゃ無いわよ。──狙いはバズーカよ」

「ひょ?」


 イエローの雷が直撃したのは、人ではなく……構えていたバズーカだった。

 チャージ限界まで溜まっていたそれに、雷が直撃する。

 更に、元々ブルーの水鉄砲でびしょ濡れの状態のところでそんな事をしたら、より効果的にダメージが伝わり。

すると当然、溜まってたエネルギーが……


 ドかあああああアアあんッ!!! 


「「「「「ぎゃあああアアアアアッ?!!」」」」」


『は~い。【クロス戦隊】全滅ー、【ジャスティス戦隊】の勝利。お疲れ様~』


「はっ、やったわ」

「頑張ったッス!」


 さっきと全く同じセリフを吐きながら、ブルーとイエローが戻って来ていた。

 こいつ、敵のエネルギー逆利用してワンターンキル狙いやがった……


「あのバズーカ形態、元々チャージ中に本体にダメージ食らったら、暴発する危険性があってね。そこを容赦なく利用させてもらったわ」

「ホエー。ブルー先輩博識っすね〜」

「まあね。ヒーローの知識では負けるつもりないわよ」


 ああ、そう言えばティアーで毎度ヒーローの事紹介してたっけな……

【クロス戦隊】の事も紹介してたし、そりゃあ弱点把握してるよな……

 というか、以前紹介した内容とは違う弱点だったよな。まだ知識いろいろあるな実は? 


「くそおおおおおおおッ!??」


 1号が地面にダンッ!! っと、拳を叩きつけていた。


「もう一回やる?」

「と、当然だ!?」

「ガッツだけは凄いわねー。じゃあ、はい。ピンクちゃん、回復お願いー」

「う、うん。“ピンク・ヒーリング!!”」


 ぱあああああっ。


「今度こそ、今度こそだ!? 我らの合体技の真骨頂を見せてやる!!」

「あらそう。今度はイエローちゃんもお休みー」

「分かったっスー」

「他のメンバーは?」


「私一人で十分でしょ」


 そうして、準備をし始めてー


 ☆★☆


 『それじゃあ、バトルスタート~!!』


「くそう! こうなったら3人技だ!! 2号、3号!! 準備は──」


「“ブルー・バブル”。五連打」


 今度は開幕直後に、ブルーが必殺技を放っていた。


「っ?! な、なんだコレは!? あ、泡!?」

「シャボン玉だ!? 巨大なシャボン玉が、全員の頭をスッポリ覆いかぶさってるよ!」

「こ、コレは……!? 素手では割れませんね!? 素通りしてしまいます! 何の意味が……!?」


「わあっ! おっきいシャボン玉だあ! 凄ーい! あれやってみたい!」

「あー、子供心にワクワクするよなあ、あれ」


 そんな会話をピンクとしながら、俺は冷静に観察していた。

 ブルー、今度はあいつも隠し効果、“性質変化”を使ってやがる。

 あれで【ブルー・ガジェット】の攻撃の水を性質変化させて、シャボン玉を作れる粘度を再現していたのだ。

 もちろんシャボン玉自体特殊で、簡単には割れないようになっている。

 あれ、やっぱり目的は……


「あらあらぁ? 合体技を放たなくていいのぉ?」


「っ!! そ、そうだ! こんな泡なんか気にする必要は無い!!」

「い、1号! やろう!」

「うむ、1号やるぞ!!」


「【フレア・ガジェット】!!」

「【アクア・ガジェット】!!」

「【サンダー・ガジェット】!!」


「合体ガジェット!! 【フレア・アクア・サンダー・ガトリング】!!」


「はえー、ガトリングガンに変形しちゃったわね」

「調子に乗っていられるのも今のうちだ!! 食らえ、連続攻撃だ!!」


 その言葉ともに、ハンドルを回して炎、水の弾丸を交互に放っていく一号たち。

 それをブルーはその場から走って逃げ、意外にも立ち向かわずそのまま逃げて行った。


「っは!? ハッハッはっはっは!! とうとう我らに恐れを成したか!! あの一番ムカつくクソ女が!! 逃すかあ! 4号、5号!!」


「ええ!」

「あいよー」


「【リーフ・ガジェット】!!」

「【ウィンド・ガジェット】!!」


「合体ガジェット!! 【リーフ・ウィンド・ブーメラン】!!」


「おっらあ!!」


 5号が巨大な草で出来たブーメランをぶん投げて、風の刃が周囲に発生した状態でブルーに襲い掛かる!! 


「おっと、危ないなあ」

「くっ、避けられましたか!!」

「大丈夫だって、もう一回投げればいい! 1号、ガトリングもよろしくー」

「当然だ!! 食らえええ!!」


 そうして、ガトリングとブーメランがブルーに向かって放たれ続ける。

 それをブルーは逃げ続ける事しかできない。


「あわわ!! ブルーがピンチだよ!? 助けにいかなくていいの!?」

「あいつら調子に乗ってるッスけど、ブルー先輩一人だけしか相手していないの気付いてるんスかねえ?」

「ん。もはや一人でも落とす事に夢中」

「ピンクー。悪いんだけど、ちょっと今のうちにジュース持ってきてくれねえ? 本部に自販機あったろ?」

「え? 今!? なんで……?」

「いいからいいから。今すっごく飲みたくなっちゃって。お願いだ」

「う、うーん……? ま、まあいいよ……?」


 そうお願いした甲斐があって、ピンクは一度本部に戻って行った。


「ん。レッド、なんでピンクをお使いに行かせたの?」

「レッド先輩、自分で水分補給用の飲み物事前に用意してたっスよね? ピンクちゃんを離したかったんスか?」

「いや、だって、さあ……」


「この後の光景って、夢いっぱいだったピンクに見せるものじゃ無いじゃん……」



 ──そうして、数分が経ち。異変が起きる。


「……っはあ、っはあ。な、なんだ? 息苦しい……」


 1号が、だんだん呼吸がしずらそうにしていたのだ。いや、1号だけでは無い。


「い、1号。こ、呼吸が。呼吸が、苦しい〜……」

「さ、酸素が! 酸素が薄いぞ!?」

「コレは、まさか……?!」

「あちゃー、コレが狙いだったかー……」


 2号から5号まで、同様に異変に気づく。

 ブルーの真の狙いが、ようやく果たされた。


「あら、ようやく気づいたかしら? 私の作戦に」


「き、貴様あ!? この泡、ただ付けただけじゃ無いな!? こっちの呼吸を阻害するためのものだったのか!?」

「単純に袋を被せられた状態と同じですね……!? 空気の循環がなくなり、ただ同じ息を吸って吐いて、二酸化炭素だけがどんどん溜まって行きます!?」

「嘘だろ!? 窒息させるつもりか!? コレがヒーローの戦い方か!? 武器を取り上げるより最悪では無いか!?」

「と、取れないー!? 武器で殴ってもシャボン玉が素通りして、全然割れないー!?」

「おいおい、どうやったら割れるんだコレ?!」


 ブルーの作戦に気づいた瞬間、【クロス戦隊】は全員大慌てだった。

 それはそうだろう、怪我とは別に、直接生命の危機に晒されてしまった状態なのだから。

 見た目に反して最悪の戦い方である。


「あらー? 取れないのかしらー? 実はそれ、“電気系統の技”を食らったら取れやすいのよねー」


「なんだと!? 3号、電気だ!! 電気を放て!!」

「それだと、我々も感電してしまいますよ!?」

「構わん! 多少のダメージは覚悟の上だ!! 3号、やれえ!!」

「くっ、分かった! “サンダー・スパーク!!”」

「「「「「ぐがガガガがががッ!?」」」」」


 合体技では無い、単騎の技。

 それを味方全員に放って、電気の痺れが発生する。

 ダメージは受けたが、しかしコレでバブルは解かれ──


「──て、無い!? まだ泡が残ったままだと!?」

「貴様ああああ!? 嘘ついたなあああ!?」


「えー? 嘘じゃ無いよー? ちゃんと割れてたよー?」←(ちゃっかり二個目のバブルを発射してた女)


「い、息が!? 息が本当にもう限界!?」

「き、貴様!? くそう、取れろ、取れろおおおおお!!」


「どうしたの? 早く取らないの? その程度の泡、上位ヒーローやヴィランなら簡単に対処するわよ」

「き、貴様ぁ……っ!?」


「くふ、ふふふ、あーっははははは!!! 苦しみなさい、逃げ惑いなさい!! そして絶望なさい!! 自分の実力の至らなさを! レッドを引き抜こうとする馬鹿な事を考えた自身の小さなおつむを!! 身に染みなさい、後悔なさい!! 2度と私たちに挑もうなんて思わないように!! あは、あはは、あーっはっはっは!!! 」


「レッド先輩レッド先輩。すみません、ブルー先輩って、悪の女幹部か何かっスか?」

「よく分かったな。バリバリ現役の悪の女幹部やってるぞ、あいつは」

「マジスか。パネエッスねブルー先輩。ところでそんな事言って、ブルー先輩にあとで怒られません?」

「話題振ったのお前だろうが。お前こそ怒られろ」


 そんな事実100%(真実)の会話をイエローとしながら、俺たちは見学していた。

 やっぱピンクに見せなくてよかったなコレ。シャボン玉綺麗ーで憧れてたあの子に変なトラウマになっちゃうだろうが。

 そもそもあのブルーのノリノリな言葉自体、教育に悪いし。


 そんなこんなで、【クロス戦隊】は酸欠でバタバタと倒れていき……


『は~い。【クロス戦隊】全滅ー、【ジャスティス戦隊】の勝利。お疲れ様~』


「はっ、やったわ」


 全く同じ言葉、3回目を繰り返してブルーが帰ってきた。

 おかえり、悪の女幹部様。演技する気あった? 


「ただいまー、飲み物持ってきたよー。あれ、終わっちゃった?」

「おう、おかえりー」


「くそう!! くそう!!! くそおおおおお!!!!!」


 ダン、ダン、ダンッ!! とさっき以上に拳を叩きつけていた1号だった。


「ピ、“ピンク・ヒーリング!!”」


「ま、まだ、まだだ……5人技だ! 5人技さえ使えば、使えば……!!」


「ん、まだ折れ切ってないっぽい……」

「逆にある意味精神的タフッすね、あいつら……諦めが悪いってレベルじゃないッス」

「ブルー。薄々思ってたけど、本当に心全部折れるまで繰り返す気? 一体いつまでやるつもりだ?」

「え? 何言ってるのよ、レッドー」


「それじゃあ、私が心を折るのにトドメを刺すような言い方じゃない」


「うん……うん?」


 あれ、どういう事? 

 ブルー、マジでどういう事? 


「ま、まだだ!! 再再々試合を申し込、うぐ、申し込む……!!」

「良いよー。けど……」


「……今度は、本気の本気の、全力で来なさい。最強の技で。出し惜しみなんてしたら許さないから」


「っ……と、当然だあ!!」


『えー、まだやるのかい? もう疲れたんだけどー』


「大丈夫よ長官。多分、次で最後だから」


 さて、とブルーが声を掛けてきた。


「最後の作戦を説明するわね。最後は──」


 ☆★☆


「くそう、くそう、くそう……!!」

「り、リーダー……」

「……今度は、出し惜しみなしだ。体の負担など知るか。5人技、それを最初にぶっ放すぞ!!」

「「「「りょ、了解!!」」」」


 『それじゃあ、バトルスタート~!!』


「【フレア・ガジェット】!!」

「【アクア・ガジェット】!!」

「【サンダー・ガジェット】!!」

「【リーフ・ガジェット】!!」

「【ウィンド・ガジェット】!!」


「究極合体ガジェット!! 【フレア・アクア・サンダー・リーフ・ウィンド・バスターソード】!!」


【クロス戦隊】の5人全員のガジェットが、合体する。

 全てが合体し、巨大なソードとなって全員が持ち上げていた。


 今度は正真正銘、妨害行為は一切何もしていない。

 このまま本来のあの巨大な剣のスペックが、そのまま俺たちに振り下ろされるだろう。


「コレこそ、我らの真の究極の力!! 誰にも負けない、究極の合体技!! 発動したが最後、もはやコレまでの小細工は通用しない!! 全てを叩き切ってくれるわあああ!!」


 そうして、全員の掛け声とともにズウウウンと振り下ろされる、巨大な剣。


「「「「「いっけえええええええええええ!!!!!」」」」」


 その最大の攻撃に対して、【ジャスティス戦隊】は。俺は──




「“レッド・ツインギフト”」



──最後の作戦を説明するわね。最後は──レッド。あなたが叩っ斬りなさい



「“レッド・ウルトラエッジ”」



 ☆★☆



『は~い。【クロス戦隊】全滅ー、【ジャスティス戦隊】の勝利。お疲れ様~』


「────は。あ。あれ。ま。え。え?」

「────い、いや、えと、その、え?」

「────あ。お、い。いの、ん、あ?」

「────は、い? えと、その、え?」

「────あちゃー……」


 ──【クロス戦隊】の大半が、今起こった事実を受け入れられないでいた。

 自分たちは、間違いなく究極の、最強の技を発動した筈だ。

 妨害もなく。体力もマックスで。予想できる最高のコンディションと状況で。


 その状態で放たれたにも関わらず。──何故、自分たちの敗北アナウンスが流れているのだろうか?


「……結局“希望”ってね。一つでも折れない“支え”が残っている限り、無くならないのよ」


 ブルーがゆっくりと歩きながら、そう解説し始めた。


「【クロス戦隊】にとってはね。それが“5人の合体技”だったのよ。どんな状況に追い込まれても、最強の技さえ発動出来ればこっちが勝つ。それこそが最後の支えとなっていた……」


 じゃあ、心を折るためにはどうすれば良いか。

 ブルーがそこで足を止める。


「簡単な話。──支えとなる、最後の柱を粉々にしてあげるのよ。言い訳の余地なく、コテンパンに」


 そのためにはどうすれば良いか。ブルーは両手を広げて大袈裟な身振りをする。


「5人合体技という“王道”。それを潰すのに、何が一番最適か分かる? ……そう、もう一つの“王道”よ。小細工などせず、妨害などせず、ただただ、シンプルに攻撃性能が高いスペックを持つ私たちのリーダー」


 さて、とブルーは振り返る。その視線の先は、【クロス戦隊】。


「──自分たちの5人の合体技を、レッド一人に叩き伏せられた気分はどうかしら? 【クロス戦隊】?」


「────ああああああああああああああああああアアアアアッッッッッ!!???」


 ──1号は、逃げ去った。


 2号も、3号も。……4号も。

 5号が、それを追いかける。


 自分たちの、【ライト・ガジェット】が地面に落ちていることにも気づかずに。


「──ふ。勝ったわ」

「おい。コレ……おい。やりすぎじゃねえのか?」

「何かしら、トドメを刺したウチのリーダーさん?」

「それ言われると何も言えねえんだけど……」


 あー……、と俺は頭をポリポリ掻きながらそう答える。

 実際、まあ相手の5人技の発動を見た瞬間、「あ、コレ普通にいけるな」って思っちゃったんだよなあ……

 何気に実践で、“レッド・ウルトラエッジ”をなんの変化も無い素撃ちする事ってまだ無かったから、めっちゃ最高のシチュエーションだったんだよなあ……


 ブルー、多分そこまで考えてセッティングしたなコイツ……


「いやー、レッド先輩最後美味しいところ持ってったッスね。流石“王道”。一番戦隊ヒーローらしいシンプルなアタッカーなだけあるッスね!!」

「褒め言葉として、受け取っておくよ」

「ん、最後すっごくすっきりした。あいつらにはちょっと同情はするけど」

「ねえ、コレどうしよう? あの人達の【ライト・ガジェット】が残っちゃってるよ?」


 ピンクが地面に落ちたままの【クロス戦隊】の武器を指差して、そう言った。

 そうなんだよな、どうしようかそれ……


「うーん……仕方ないわね。私がひとまず全部預かって、あとでアイツらに返しておくわ。武器に罪は無いし、せっかくだし綺麗にクリーニングしておこうかしら。……まあちょっと、やりすぎちゃった部分もあったし」

「自覚あったのかお前……」

「まあ、コレに懲りてレッドに関わってくるのは流石に辞めるでしょ、アイツ等。あと多分3日くらい経てば復帰するタイプらしいし」

「鳥頭か何かかよ、あいつら……」


 じゃあ、あんまり深く心配しなくても良いのか? 

 そう言ってブルーは【クロス戦隊】の武器をガチャガチャ拾っていった。

 近くにいたピンクも手伝っている。


「──これで追加5つ」


 ……ボソッとブルーが言った言葉は、一応覚えておく事にしておいた。

 あとでクロス戦隊にちゃんと武器が戻ったか確認しておこう……


「やあーやあー、みんな本当にお疲れ様〜。コレで本当に“ランキング入れ替え戦”は終了だよ〜」


「あ、長官」


 いつの間にか、放送席越しではなく長官が直接俺たちのところまで来て労っていた。

 長官も、審判何度もお疲れ様。


「おかげで、君たちのランキングも反映されたよ。ほら、見てごらーん?」


 そう言って、長官は端末の画面を俺たちに見せてきた。



【ジャスティス戦隊】83位 → 78位 → 65位


「おお!? 83位から、一気に65位までッス!?」

「あれー? 【クロス戦隊】って78位じゃなかったっけ?」

「入れ替え後も何度も戦ったから、その分評価されてるんでしょ。“実力”で反映されてるって言ってたし」

「ん。一気に上がった、嬉しい」


 みんなが思い思いに喜びの声をあげている。

 まあそうだな。いろいろ大変なことがあるだろうけど、ランキングが上がる事自体は嬉しいと思うもんな。


 ──けど、コレ、多分……


「まあ、週末の更新時に70位台に下がるだろうけどね!」

『え!? なんで?!』


「“人気度”かなあ」


 長官の言葉に驚きの声を上げるみんなに対して、俺は冷静に考えを告げる。

 いや、だってさあ……


「お前ら、ヒーローらしい戦いした? 特にブルー。お前あの高笑い放送されてたんだからな」

「あー。今確認したら、ネットの配信動画でプチ炎上中ッスー」


 :コレはエグい

 :ブルー、実はヴィランだった……!? 

 :めっちゃ高笑いしとる

 :相手絶望してんじゃん……

 :スカッとした

 :可哀想

 :もっと普段から本気出せよ、【ジャスティス戦隊】


「────てへぺろ♪?」


 舌を出して、可愛い顔で誤魔化したブルー。

 おい、真実流出してんぞ、おい。


「ヒーローのランキングは、総合的に見られてるからねえ。“実力”が一番重視されているとは言っても、他の分野も見られないわけじゃ無いからね」

「うわああん!! せっかくランキング上がったと思ったのにー!!」

「それでも83位から70位代なら普通に進歩だろ」


 俺は泣き喚くブルーに対して、そう慰める。

 ま、今日はこれくらいで良いだろ。


 こうして、俺たちの初となるランキング入れ替え戦は終わったのだった……



 ★佐藤聖夜さとうせいや


 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男


 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。


 エースアタッカー。一番戦隊ヒーローっぽい事をしている。

 なんやかんやでレッドこそ王道の戦隊ヒーローなのだ。



 ★天野涙あまのるい


 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善

 女


【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。


 思う存分暴れられてスッキリ。誤魔化す気ある? 

 得意のヒーロー知識で、実質参謀も出来る。

 レッドとは違うまとめ役が出来る。


 ブルー状態でもある程度戦える事を今回証明した。 



 ★空雲雷子そらくもらいこ

 21歳

 167cm

 黄髪

 秩序・善


【ジャスティス戦隊】のイエロー。

 レッドの後輩。


 ブルーの指示をよく聞く良い子。

 タイミングバッチリ行動してくれる。



 ★大地鋼だいちはがね


 34歳

 184cm

 緑髪

 秩序・善

 男


【ジャスティス戦隊】のグリーン。


 一戦やったら禁止カード扱いにされてしまった男。

 他のメンバーは隠し効果を使えるのに、実はグリーンだけ適性なくて使えないというハンデがある。



 ★大地心だいちこころ


 10歳

 130cm

 ピンク髪

 秩序・善

 女


【ジャスティス戦隊】のピンク。


 さらっと回復効果技も初披露。

 というか、本来はこっちが主な役割な筈だった。

 何故か幻覚作用技も使える不思議少女なのです。



 ★クロス戦隊


 合体技が特徴な戦隊。


 今回みっともなく連続して挑んで、最終的に一度心が本当に折れた。

 けど2週間後本当に全員ヒーロー復帰したらしい。

 流石に三日は無理だったとのこと。自分達を見つめ直して、再度特訓し直すらしい。


 ちなみに5号に至っては、途中からもう負け続ける事は分かっていたが、逆にどこまでコテンパンにされるんだろうかと【ジャスティス戦隊】の技を見てだんだん楽しんでいたらしい。


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