「──貴様らに、“ランキング入れ替え戦”を申し込む」
……グリーンがそう発言してから一時間後。
俺たちは【ジャスティス戦隊】本部の外にある、訓練場に到着していた。
そのうちの模擬戦用スペースで、対面側に【クロス戦隊】が待機しているのがここからでも見える。
「……と、言うわけで“ランキング入れ替え戦”よ」
「ん。みんな、気合入れるように」
「はい、先輩!」
「何かしらイエローちゃん」
「そもそも“ランキング入れ替え戦”ってなんでしょうか!? ランキングって普段の行いで評価されるものじゃなかったッスか!!」
「良い質問ね、イエローちゃん」
試合の準備を進めている傍ら、イエローの質問に対してブルーが答え始める。
「確かに、“ヒーロー戦隊ランキング”は人気度、実力、実績、売り上げなど様々な観点から総合的に決定されるわ、これは基本ね。だから、普通は大幅にランキングが更新されるって事はよっぽどの人気の変動とかがない限り行われないんだけど……」
「ん。けど、そのランキングの順位を、“直接的に入れ替える”手段がある」
「それが“ランキング入れ替え戦”!! 戦隊同士が直接対決して、勝利したチームが下位順位だった場合、上位チームとそっくりそのまま順位を入れ替えることが出来るって訳!」
「これは、さっきのランキング要素で言う“実力”の一部として考慮される扱いになる。ちなみに上位チームが勝った場合は入れ替えは行われないけど、“実力”の評価が上がって、自動的にランキングの上昇の可能性が高くなるから、無駄じゃない」
「結局のところ、ヒーローって実力主義だから、悪の組織に適う実力が無いと根本的にお話にならないからねえ。こうして戦隊同士で戦い合わせる事で、実力の上昇と特訓意識を上げさせようって言う訳」
「なるほど! よく分かったっス!!」
うんうん、とイエローが二人の話を聞いて頷いている。ピンクも話は聞こえたのか、ほえ〜と感心していた。
「そして、今回はグリーンさんの言葉によって【クロス戦隊】と入れ替え戦が行われる事になったわ。これは勝っても負けても直接的な要求は無いけれど、暗黙の了解としてレッドの所属が掛けられていると言っても過言じゃ無いわ。ついでに配信はされているからどちらの戦隊が強いのか世間に示される事になる。それを後ろ盾と根拠にするつもりね、あいつらは」
「自分たちのチームの方が強いから、レッドが移る理由になる……そう言い張るつもりだと思う。入れ替え戦を受け入れたのも、それが理由の筈」
「……へえ、なるほどッス」
……軽いノリで始まった説明会のように見えて、だんだんと俺とピンクを除いた他のメンバーは薄々と殺気が隠し切れていない。
ピンクもそれに気付いてちょっと震えていた。
「と言うわけで、私たちがやるべき事は……」
「分かったッス! 試合に勝って、レッド先輩が取られないようにするんすね!」
「ん、それじゃ足りない」
「え? ッス」
「そう……」
「あいつらのプライド粉っ々に砕き切って、2度とレッドを取るという馬鹿なことを考えないように矯正する必要もあるわ」
「ん、その通り」
「そうでした、考えが浅かったッス! すみません!」
「みんなが怖いよー!?」
「おお、よしよし……」
泣き出しそうなピンクに対して、俺は頭を撫でて慰める。
こいつら……俺のために戦ってくれる事自体は嬉しい。嬉しいけど……その殺気はなんとかしようぜ、とは思う。
けどなー……俺もまあ、例えばブルーやイエローが、同じように引き抜きの話をされたら、似たような事するだろう自覚があるせいか、強く言えないんだよなー……
正直俺自身、他のメンバーを足手まといって言われてイラついていないって言うのも嘘になるし……
もはやリーダーである俺を差し置いて、代理リーダーのように話を進めていくブルー。
そして……
「と言うわけで、作戦を考えて来たわ」
「ん」
「了解ッス! どんな作戦ッスか?」
「必要なのは、圧倒的勝利。それも心を折るようなものを……」
「私、折られちゃう!?」
「ココロじゃ無いから、安心しろ。な?」
素で勘違いしたココロ、もといピンクをなだめ、それを気にせずブルーは話を続けた。
「まずは、レッド! ピンク! 二人には重要な作戦を与えるわ!」
「な、何ー?」
「なんだ?」
「それはね……」
☆★☆
「──やりましたね、リーダー」
「ああ、流石に一筋縄ではいかなかったが、直接対決の機会を得ることが出来た。これに勝てばより話はスムーズになるだろう」
【クロス戦隊】の4号、1号がそう会話する。
レッドの引き抜きの話が本人に断られた直後だったが、この試合を通じて【クロス戦隊】の実力を示す事が出来れば、周りが我らの話を考慮するだろう。
「で、でも勝てる? 俺達、そもそも勝てるのかな?」
「いや、ランキング上は既に我々が上だ。確かに、そこまで大幅な差は無いだろうが、我々の方が総合力は上という保証にはなっている。そこまで心配しなくて良いだろう」
「けどさー? 相手にあのレッドがいるんだろ? あいつ一人で普通に戦えねえ? 実質一人戦隊みたいなもんだろ? そんな状態で他のメンバーもいるとなると、結構キツくねえか?」
2号、3号、5号がそう会話する。
そう、そもそも欲しい対象であるレッド自体が、一人であれだけの実力を持っている。
ぶっちゃけ、5号はあいつ一人だけで【クロス戦隊】と同等じゃ無いかと心配している。
しかしその心配に対して、リーダーの1号は不適に笑う。
「クックック、逆だ。5号よ。その“他のメンバーが奴らの弱点”となるのだ」
「と、言うと?」
「4号、今回の試合のルールを説明してやれ」
はい。そう言って4号が前に出て説明する。
「“ランキング入れ替え戦”は、場合によって様々なルールがあります。殲滅戦、拠点防衛戦、ターゲット撃破数戦など。今回は一番オーソドックスな、殲滅戦を選ばせてもらいました。これは文字通り、相手チームを全滅させた方の勝ちです」
「む? しかしそれならレッドを撃破も必要になるのでは無いか? 無理とは言わないが、かなり骨が折れるぞ?」
「そ、そうだよ、返り討ちに……」
「心配は入りません。制限時間は15分です。その上で、もし互いのチームが全滅しなかった場合、どうなるとおもいますか?」
「え、えっと……?」
「正解は、“残り人数の多い戦隊が勝利”となります。つまり、例えばタイムアップで【ジャスティス戦隊】がレッドのみ、【クロス戦隊】が5人生き残っている場合だと、【クロス戦隊】が勝利となります」
「あ、分かった。要は“レッドを倒す必要は無い”って言いたいんだろ。他のメンバーを全員倒して、残り人数差で勝利する気だな?」
「その通り!! その為の殲滅戦だ! 足手まといが複数いるチームが相手なら、これほど楽勝な話は無い!」
5号のその言葉に、1号は大正解と肯定する。
その返答に対し、5号はまだ心配のようで。
「へー。……そう簡単に上手くいくのかねえ?」
「そもそも、あんな10歳の幼女のピンクがいるような部隊だ!! あんな幼そうな子を戦隊に入れてるとかふざけているだろう!? その時点で、メンバー一人既に脱落しているようなものだ!」
「察するに、【ジャスティス戦隊】はそこまで実動の実力に力を入れているわけでは無いでしょう。宣伝用のマスコットに近いピンクを入れている時点で、人気特化の戦隊と言って良い。実力重視の我々の敵ではありません」
「あんなダサいスーツで、人気重視なの……?」
「そのためにピンクを入れている、苦肉の策だろう。可愛らしさで人気取りだ。哀れなものだ」
いいか! と1号がリーダーとして通達する。
「戦隊は、全員が実力者であることこそ戦隊である由縁なんだ! つまり、レッドのように一人が特化して強くても意味が無い!! 我々は、全員が平均して高い実力同士で固まっている! 我々のような形こそ真の戦隊のあり方だと、この戦いで知らしめてやれ!!」
「「「「了解!」」」」
そうして、【クロス戦隊】は配置に着く。
真向かいに【ジャスティス戦隊】のメンバーも並んでいるのが見えた。
配信用のドローンも飛んでいるのが見える。我々の活躍がさぞ綺麗に映ることだろう。そんな事を1号は考えていた。
『それじゃあ、ただいまより【ジャスティス戦隊】対【クロス戦隊】の公式ランキングバトルを開始するよ? 準備はいいかい〜?』
アナウンスで、審判兼【ジャスティス戦隊】の長官の声が流れてくる。
審判が相手戦隊の長官というのが些か不安要素だが、贔屓目の判定を出したとしても配信用のドローンがある。
あれで実際の戦闘の様子を配信されるなら、いくら贔屓目判定をしたとしても、世間はどちらが真の実力者か分かるだろう。
これで心配の要素は無くなった。
あとは普通に戦うだけだ。レッド以外のメンバーをすべて先に倒し、残り時間でレッドから逃げ切り、可能なら撃破。これが我々の作戦だ。
1号は内心そう振り返る。我ながら完璧な策だ、と。
あとは戦って証明するだけだ。どちらが真の強者なのかと
そうして、【クロス戦隊】は全員ガジェットを構え──
『それじゃあ、バトルスタート〜!!』
──その宣言とともに、【クロス戦隊】の全員が“武器を失った”
「──は?」
1号も。他のメンバーも。何があったのか一瞬分からなかった。
気がついたら、全員手元になんらかの衝撃があって。それが“武器を弾かれた事”だと気づけなくて。
ただ離れた位置で、“グリーンがスナイパーライフルを既に構えていた事”くらいしか分からなかった。
「……必殺技を使う必要すら無い」
グリーンのその呟きは、【クロス戦隊】には届かなかった。
ガシャガシャンッ! と、【クロス戦隊】の武器が落下した音で、ようやく我に振り返っていた。
「──っ?! な、何が……?!」
「ひ、拾え!? とにかく、自分の武器をひろ──」
「“ブルー・スパイラル!!”」
「「うわああああっ?!!」」
「「ひ、引き寄せられる……?!」」
「き、貴様あああーッ?!!」
混乱から復帰しようとした【クロス戦隊】に対して、ブルーがいつもの強制移動技を発動して敵を集める。
そう、ただいつもの行為をしただけ。ブルーの活躍を知ってる人なら、当たり前のように知ってる技で。
さらに、ブルーのこの必殺技には追加効果がある。
「ゲホっ! ごほっ! み、水が……!?」
そう。それは当たった敵が、“ずぶ濡れ”の状態になる事。
まあ、水属性の必殺技で敵を集めているのだから、当然といえば当然だ。
それを考えると、“ずぶ濡れ”状態の敵に対して火属性の“レッド・エッジ”、“レッド・フレイム”を撃っているのがいつものパターンなのだが、そう考えると相性が悪いように思える。
しかしそれは単純な話だ。レッドの攻撃は、“ずぶ濡れ”状態で半減状態でも、十分ダメージが通るというだけ。
それ以上に敵を一か所に固めるのがメリットが高かっただけなのだ。
それを考えると、属性的な相性が真に合っているのはレッドではなく……
「“イエロー・チャージ”」
その言葉とともに、イエローは自分の鞭をぶんぶん振り回す。
それに伴い、バチッ、っと静電気が発生する音が響いてくる。
だんだんバチッ、バチチッ! っと音の響く頻度が多くなり……鞭の先に電気が“帯電”した。
「な、なんだそれは……?!」
「これこそ、レッド先輩の“レッド・ギフト”に当たる私の技、“イエロー・チャージ”ッス」
レッドの【レッド・ガジェット】。あれが火属性と、もう一つの隠し効果が“
対して、イエローの【イエロー・ガジェット】は雷属性、もう一つの隠し効果が“
【クロス戦隊】が一番求めた理由である、“レッド・ギフト”に並び得る技を、イエローは発動したのだ。
ちなみに【ピンク・ガジェット】は無属性、かつ隠し効果は“憩い(リラクゼーション)”である。それを悪用して幻覚効果として使っている。
閑話休題。
それはともかく、“イエロー・チャージ”の効果だ。
帯電、その名の通り、電気をチャージする技。自分の次に発動する雷属性の技の威力をアップする能力だ。
“レッド・ギフト”に並び得る理由は、“イエロー・チャージ”の特徴として“チャージ限界が理論上ないこと”。
やろうと思えば、時間を掛ければ掛けるだけ次の技の威力がアップし続ける。と言っても、使用者本人の耐久性があるため本当にどこまでもとはいけないが。
イエローは、現時点で可能な限りチャージしている。
そんな状態で放つ電気属性を、ずぶ濡れ状態の敵に放ったらどうなると思う?
「ま、待て!? 待てえ!?」
「くっそ、まだ水が纏って……!?」
「ぬ、抜け出せねえ?!」
「そりゃそうよ。“ブルー・スパイラル”はまだ発生中なんだから。逃さないわよ」
「チャージ臨界!! 落ちろ!! “イエロー・サンダーッ!!”」
ピシャアアアアアアアアァァァァアアアアアアアンッ!!!!!
「「「「「ぐぎゃああああああアアアアアッ??!!!」」」」」
答え:普通に死ねる。
本来レッドに次ぐアタッカーの役割であるイエローの攻撃が、ブルーのサポートを受けて更に強力となって放たれた。
これがモロに直撃。並のヒーローやヴィランではどうしようもない。
「イエロー、おっきい雷ー?!」
「あちゃー、派手にやってんなー」
離れた位置でそれを見ているピンクとレッド。
二人は攻撃に参加すらしていなかった。というのも……
☆★☆
「それはね……」
「何もしないで。以上」
「了解」
「えっ? えっ?!」
ブルーの言葉にレッドが了承すると、ピンクがめっちゃ狼狽えていた。
いや、だって、ねえ……
☆★☆
「……俺たちが参戦する必要、全然ねーもん」
俺は3人の戦いぶりを見て、そう呟いていた。
いやだって、本当に必要ねーもん。“武器落とし”と“ずぶ濡れ強制移動”と“強化電気”だけで、大抵カタがつくもん。
普段の悪の組織とのドローン配信の時は、見栄え重視でそこまでガチで戦ってたわけじゃねえしな、あいつら……
ぶっちゃけ、自分自身大分強くなったと自負しているが、それでも俺対【ジャスティス戦隊】だったら、勝つの微妙に無理だもん。
そもそもギフトの暇すら与えてくれねえだろうし。
ぎゃー、うわー、と叫びながら【クロス戦隊】がやられていくのを見て、俺はしみじみとそんな事を考えていた……
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
今回見学。
ぶっちゃけ【ジャスティス戦隊】のみんなの実力は大体把握している。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
女
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
今回既存の技のみ使用。
【クロス戦隊】、まさかこれで終わりと思ってる?
★
21歳
167cm
黄髪
秩序・善
【ジャスティス戦隊】のイエロー。
レッドの後輩。
切り札、“イエロー・チャージ”を初披露。
チャージ時間が必要で“レッド・ギフト”以上に隙だらけだが、時間さえあればそれを凌ぐ威力となる。
そもそもサポート要員だらけの【ジャスティス戦隊】の中で貴重なサブアタッカー。
★
34歳
184cm
緑髪
秩序・善
男
【ジャスティス戦隊】のグリーン。
必殺技すら使わなかった男。
そもそも、ガジェットの特殊能力に頼れず、おかげで自前の能力だけを鍛えに鍛えた男。
精密狙撃能力ならブルーを凌ぐ。
ある意味ただ銃としての使用なら自分の体のように扱える。
★
10歳
130cm
ピンク髪
秩序・善
女
【ジャスティス戦隊】のピンク。
今回見学。
いかにも実力者じゃありませんよー、と言った雰囲気だが、普通に“催眠能力”持ちはガチでヤバイ。
★クロス戦隊
合体技が特徴な戦隊。
そもそも合体技どころか、何もさせてくれねえ。
次回更なる苦情出す予定。ゲーセンで連コインしようとするタイプ。
まだ心が折れきったとは言えない。