「でね、あえなくともくんのブーメランパンツは、異世界に転送されちゃったってわけ」
「へー、そうなんだー」
「それは大変だったな」
「いや適当なことぶっこかないでよまーちゃん!?」
まったく、まーちゃんの冗談は洒落になってないことが多いんだよね!
今日は珍しくバスケ部の練習が休みだというので、ついついいつもの四人で放課後の教室で話し込んじゃったけど、そろそろ帰らないとな。
もう僕達しか教室に残ってないし。
「あ、私ちょっとお花摘みに行ってくるねー」
「あ、うん」
トイレのことをお花摘みって……。
まーちゃんも意外と乙女なところあるんだな。
が、そんな乙女まーちゃんが教室から出て行くのを見計らったように――。
「フッ、探したぞモルモット――もとい我が弟子よ」
「コ、コーチ!」
っ!?
変公がマッドな笑みを浮かべながら、教室にゆらりと入ってきたのだった。
この展開つい最近も見た!?
しかもまたモルモットとか言ってるし!!
今度は篠崎さんを何かのモルモットにするつもりなのか、このミス不祥事は!?
「実は新しい発明品が今し方完成したところでな。是非篠崎にこれを飲んでもらいたいんだ。いいか?」
不祥事は曇りのない瞳でおっぷぁいの谷間から錠剤のようなものを取り出し、それを篠崎さんに手渡した。
いいわけねーだろッ!?
お前は倫理観ってものを母親の腹の中に置いてきたのかッ!!?
「はい! もちろんです、コーチ!」
「篠崎さん!?」
これまた篠崎さんも曇りのない瞳を輝かせながら、大きく首を縦に振った。
篠崎さんの不祥事への盲信ぷりがヤバい!!
そんなやつを神と崇めて、ホントにいいのかい篠崎さん!?
そいつは神ってよりは、邪神寄りだよ!?
「おい勇斗、お前はいいのかよ」
自分の彼女が変な宗教にのめり込んで、怪しい薬を飲まされても。
「ん? 別に美穂がいいって言うんなら、俺が口を出すのも変な話だろ。それに、梅先生が作ったものなら、害はないさ」
「勇斗……」
お前の器は底無し沼なのか?
僕はお前の将来も若干心配だぞ……(親目線)。
「では、いきまーす! んがぐぐ」
「篠崎さん!?」
篠崎さんは旧バージョンのサ○エさんの次回予告時の擬音を発しながら、一切の躊躇なく薬を飲み込んだ。
また今の若い子には通じないネタを!?
君ホントに高校生!?
「うっ! ぐ、ああああッ!!」
「美穂!?」
「篠崎さん!?」
途端、篠崎さんは胸を押さえながら苦しみ出した。
ホラ見たことか!!!
だから僕は言ったんだ!
い、いや、今はそれどころじゃない!
早く薬を吐き出させないと!
「フッ、案ずるな。この反応も想定の内だ」
「えっ!?」
どういうこと!?
「――この薬の名は『クツガエール』。さあ見ていろ、これから覆るぞ」
「覆る……?」
何が?
「あ、あああああああッ!!!!」
「美穂ッ!!」
「篠崎さんッ!?」
絶叫を上げた篠崎さんは、大きく身体をのけぞらせた。
すると――いつもは関東平野の如くなだらかな平面を描いている篠崎さんの胸が、エベレスト並みの爆っぷぁいになっていたのだった。
ニャッポリート!?!?!?
「なっ!? コ、コーチ、これはッ!!?」
「フッ、どうやら実験は成功のようだ。言ったろ? この薬はクツガエール。この通り、お前の胸のサイズを覆したのさ。まあ、今回も30分の制限時間付きだがな」
「ハラショー!!!」
何故ロシア語!?(すまねぇ、ロシア語はさっぱりなんだ)
「ありがとうございますコーチこのご恩は一生忘れませんありがとうございます夢が叶いましたありがとうございます生涯ついていきますありがとうございますありがとうございますうううう!!!!!」
「フッ、礼には及ばんよ」
お礼言いすぎじゃない!?
篠崎さんはすぐお礼言うッ!!(それは良いことでは?)
……まあ、どうやら篠崎さんは、ちっぱいなことがずっとコンプレックスだったみたいだからな、無理もないか。
ましてすぐ横に、常にまーちゃんという魔乳の持ち主がいたんだしな……。
それにしても、急に爆っぷぁいになったものだから、制服のシャツがギッチギチで、今にもボタンが弾け飛びそうだ。
これは目のやり場に困るな……。
「見て見て勇斗くんッ! 私、こんなになったんだよッ!!」
「あ、うん……」
「えいえい! えいえいえいッ!!」
「美穂……」
篠崎さんは嬉々として、いつもまーちゃんが僕にやってるみたいに、勇斗の腕に自らの爆っぷぁいを押し付けた。
――が、篠崎さんとは対照的に、勇斗の顔色は曇っていた。
「……美穂、馬鹿にしないでくれよ」
「え……? ゆ、勇斗くん?」
おもむろに勇斗は篠崎さんの両肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で篠崎さんを見つめた。
「俺は美穂がちっぱいで嫌だなんて思ったことは、ただの一度だってねーよ。……むしろ俺は――ちっぱいな美穂が好きなんだッ!」
「ゆ、勇斗くん……!」
篠崎さんは口元を両手で抑えながら、目に涙を浮かべた。
オイオイオイ、相変わらずイケメンムーブカマしてんな勇斗は!(嫉妬)
「勇斗くん……、ありがとう勇斗くんッ!」
「美穂ッ!」
勇斗と篠崎さんは、僕と不祥事の目もはばからず、熱い抱擁を交わした。
お安くないぜッ!!!(軽減税率対象外)
……まあ、感動のシーンに水を差すようで悪いが、要は勇斗はちっぱいにしかリビドーを感じることができない、生粋の紳士なのだということだけは、ここに明記しておく(裏切り)。
「フッ、これにて一件落着!」
不祥事は右手でおっぷぁいの谷間から扇子を取り出し、それをパンッと小気味良い音をさせながら広げた。
何というマッチポンプッ!!
きっとこういうやつが戦争を引き起こすんだ!!
「あれ? どういう状況なの、これ?」
「っ!」
そしてお約束とばかりに、良いタイミングでまーちゃんがお花摘みから戻って来た。
こ、この流れは……!
出るぞ、まーちゃんの名推理が……!
「――ああ~、なるほど、なるほど。大方峰岸先生の発明品で爆っぷぁいになった美穂が、田島君に『えいえい! えいえいえいッ!!』したけど田島君は『スン――』って感じで、『俺は美穂がちっぱいで嫌だなんて思ったことは、ただの一度だってねーよ。……むしろ俺は――ちっぱいな美穂が好きなんだッ!』『ゆ、勇斗くん……!』みたいなオチだね」
「見てたでしょ!?」
最早それは推理の域を超えてるよッ!!
怖い怖い怖い!!
ここまでくると完全にホラーだよまーちゃんッ!
……もちろんそんなつもりは毛頭ないけど、仮に僕が浮気したら、コンマ一秒でまーちゃんにはバレそうだ。
「フッ、相変わらずの洞察力だな足立。――そんなお前にもクツガエールをドーン!」
「「「「!!」」」」
不祥事はまたしても谷間からクツガエールを取り出すと、それをサイドスローでまーちゃんの口に寸分の狂いなく放り込んだ。
こいつの制球力何なのッ!?
ストラックアウトとか得意そう(小並感)。
「んがぐぐ」
「まーちゃん!」
んがぐぐはデフォなんだねッ!
ホントはみんな昭和生まれなのかな!?
「うっ! ぐ、ああああッ!!」
「まーちゃあああん!!!」
「茉央ちゃんッ!」
「足立ッ!」
待てよ!?
篠崎さんが爆っぷぁいになったってことは……、まーちゃんが覆った場合は……!
「……あ、あああああああッ!?!?」
「……まーちゃん」
案の定、まーちゃんのマウント富士は、見る影もなく更地にされてしまったのであった……。
……ちっぱりーと。
「――胸が、胸がぁ~!」
「……」
ちーちゃん(※ちっぱいまーちゃんの略)は、某名作アニメ映画の大佐ばりに、自らの更地を押さえながら呻いた(見ろ!! 胸がゴミのようだ!!)。
……ううむ、何だかんだ言ってちーちゃんにとってマウント富士は、ある種の拠り所だったのかもしれないな。
何かにつけて僕に富士を押し付けていたのも、富士さえあれば僕を繋ぎ止めておけるという、自己暗示の一種だったのかもしれない。
「……う、うぅ。……見ないで。――見ないでともくんッ!」
「まーちゃん」
ちーちゃんは今まで見せたこともないほど怯えた表情で、その場にうずくまってしまった。
……まったく、それこそバカにしてもらっちゃ困るよ。
「ふふ、まーちゃん」
「――え?」
僕はちーちゃん――いや、まーちゃんに歩み寄って目線を合わすと、そっとまーちゃんを抱きしめた。
「っ! ……と、とも、くん……?」
「心配しないでよまーちゃん。たとえまーちゃんがちっぱいになろうが、坊主になろうが、病気になろうが、車椅子生活になろうが、しわくちゃのおばあちゃんになろうが――何があろうと僕のまーちゃんへの愛は、微塵も変わらないからさ」
「――! ふ、ふえ……、ふええ、ふえええええぇぇ」
まーちゃんは僕を抱きしめ返しながら、子供みたいに泣き出した。
僕は赤ちゃんをあやすように、よしよしとまーちゃんの頭を優しく撫でた。
ふふふ、まーちゃんも意外と可愛いところがあるんだな。
別に僕は、まーちゃんが富士だから好きになったわけじゃないよ(まあ、富士は嫌いではないけどさ!)。
僕はまーちゃんがまーちゃんだから好きになったんだ。
それ以上でも以下でもない。
だからまーちゃんがどんな姿になろうと、僕のまーちゃんへの想いが変わることは、決してないんだよ?
「フッ、これにて一件落着ッ!!」
不祥事は今度は左手でおっぷぁいの谷間から二本目の扇子を取り出し、それをまたしてもパンッと小気味良い音をさせながら広げた。
お前のことは一生許さないからなッ!!!
精々綺麗な字で辞表を書くために、今の内からペン字教室に通っておくんだなッ!!!!
「――さてと、私はこの素晴らしい実験結果を、早速レポートに纏めねばなッ!」
「……」
不祥事は鼻歌交じりにスキップを踏みながら、教室から出て行った。
お前は二度と人里に下りてくるなよッッ!!!!!