「ねえみんな、今からみんなでこれに参加しない?」
「「「え?」」」
とある放課後、まーちゃんから差し出されたスマホの画面を覗くと、そこには『肘川駅前ハロウィンイベント』と銘打たれたサイトが表示されていた。
ああ、そういえば今日は10月31日――ハロウィンか。
まーちゃんからスマホを借りて内容をざっと確認した限りでは、肘川の駅前でハロウィンに因んだ仮装イベントを催すとのことだった。
しかもそれだけでなく、玄関の扉にジャックオランタンのシールが貼ってある家に訪ねると、お菓子まで貰えるというオマケ付きらしい。
今のご時世に、よくもこんなイベントを開催できたものだな。
肘川ってそんなに平和なの?
異星人が襲来したりしてるのに?
「フッ、そういうことなら、仮装衣装は私が用意しよう!」
「うふふ、もちろん私も参加させてもらうわよ」
「「「っ!?」」」
教室の扉をスパーンと豪快に開けて、変公と優子が入ってきた。
って言ってるそばからその
しかもその異星人を捕獲した人間と一緒にッ!!
お前ら実は仲良いのか!?
つい先日殺し合いを演じた間柄とは思えない!
変態同士、気が合うのだろうか……?
「キャハハハハハッ! ともくんの血、吸っちゃうぞー!」
「や、やめてよまーちゃん! まーちゃんが言うと冗談に聞こえないよ!」
そしてやってきた肘川駅前。
まーちゃんは貴族風の衣装に裏地が赤い黒マントを翻し、口からは長い牙を生やしていた。
所謂吸血鬼スタイルってやつだ。
まーちゃんは
「んふふー、でもともくんの仮装も可愛いよ」
「そ、そうかな……」
僕は全身にモコモコした毛を生やし、頭と鼻にはそれぞれ狼の耳と鼻を付けて、狼男になっている。
まさか高校生にもなってこんな格好をすることになるとは……。
「勇斗くんもカッコイイよ!」
「お、そうか美穂。何か照れるな」
勇斗の仮装はフランケンシュタイン。
まあ、確かにこれはハマってるな。
ガタイのイイ勇斗に、「ベストマッチ!(小林○也)」って感じだ。
「で、でも、美穂も凄く可愛いぜ」
「あ、あんま見ないでッ! 恥ずかしいから……」
そう、そして篠崎さんは、何と全身を包帯でグルグル巻きにして、ミイラの仮装をしているのだった!
ボディラインがハッキリとしているので、中に服は着ていないものと思われる……。
これは勇斗のフランケンが、シュタインしちゃうぜッ!!!(?)
「フッ、やはり私の見立ては間違っていなかったようだな」
「っ!? 梅先生!!?」
着替えから戻った変公を見て、僕は目を丸くした。
変公はデカデカと『金』と書かれた赤い腹掛けを着ており、頭をおかっぱにしていたのだ。
金太郎!?!?!?
何でお前だけ世界観違うんだよッ!!?
そこは合わせろよッ!!
し、しかも……、普通金太郎って、後ろは何も着てないものだけど……、まさか……。
「フッ、どうした智哉? 私の後ろ姿が気になるか?」
「い、いえ……、別に」
怖くて確認できない……。
「うふふ、みんな準備はオッケーみたいね。それじゃ行きましょ」
「優子!?」
優子は頭と胸と腰の部分だけが羊毛の、例の羊モードになっていた。
お前に関しては仮装ってより、ただの真の姿だよね!?
そっかー、異星人だと、普段着に戻るだけで仮装したことになるんだね!(死)
「ヒャッホー! レッツ、トリックオアニャッポリートオオオ!」
「トリックオアニャッポリート!?」
語呂悪ッ!
こんな集団が家に来たら、僕だったら警察呼んじゃうな!
「よーし、まずはこの家からいってみよー」
「ま、まーちゃん!?」
まーちゃんは何の躊躇いもなく、ジャックオランタンのシールが貼ってある、とあるアパートの一室のインターホンを押した。
ま、まだ心の準備ができてないのに!
変な人が住んでたらどうするの!?(このメンツより変な人はそうそういないだろうけど)
「はいはーい、どなたかなー」
「「「っ!?」」」
が、颯爽とドアを開けて出てきた人物を見て、僕達は絶句した。
「おおー、何だお前達か。そうかそうか、そろそろお前達も、サインとコサインとタンジェントの三角関係が気になってきた年頃なんだな」
それはみなさんご存知、僕達の数学担当教師、安本先生だったのだ。
「や、安本先生のお宅だったんですね、ここ」
「はっはっは、そうだぞ浅井。これでまた、点Pに一歩近付いたな」
「はあ」
「安本先生ー、トリックオアニャッポリート!」
「まーちゃん!?」
先生に対しても躊躇なしか君は!?
「おー、足立、もちろんお菓子を用意してるぞ。ホラ」
「わー、ありがとうございまーす!」
「お前達の分もあるからな」
「あ、ありがとうございます」
安本先生がくれたのは、可愛くラッピングされたクッキーだった。
「それは俺の手作りクッキーだからな」
「先生の手作りッ!?」
意外な一面ッ!
「数学教師たるもの、クッキーくらい作れなきゃな」
「……」
数学教師とは?(哲学)
「……ん?」
よく見れば、全てのクッキーの表面には、チョコで『ワイ=8』と書かれていた。
……この人はこの世の数式の解は、全部ワイ=8だと思ってるんじゃないだろうな。
「よーし、じゃあもう用はないんで、次行こう次ー」
「まーちゃんッ!!?」
一応こんなんでも先生なんだよ!?
「はっはっは、気にするな浅井。ひとよひとよにひとみごろ……ってな!」
「……はあ」
あなたがそれでいいなら、別にいいんですけど。
「おっ、ここもシール貼ってあるよ。ポチッとな」
「まーちゃーん!!!」
今日の君はいつになくノーブレーキだね!?
最近ボケ役を変公達に奪われ気味だったから、必死なのかな!?(邪推)
……しかもここ、随分立派な一戸建てだけど、どんな人が住んでるんだろ。
「ヒャッハー! ヒャハッハオアヒャッハー!」
「「「っ!?!?」」」
い、一郎ーーーー!?!?!?!?
「……え、ここ、お前の家なの?」
「ヒャッハー! 当たり前ヒャろ。表札にも書いてあるヒャろうが」
「……え?」
見ると、表札には『ヒャッハー』と書かれていた。
……ああ、確かにここは、百派山家だ。
オイオイオイ、まさかの金持ちだわコイツ。
でも、両親共にまともな職に就いてるようには見えないけど、いったいどんな錬金術を使ってやがるんだ?
あと一郎の格好も気になる。
一郎はラフな部屋着を着ていた。
まあ、自分の家なんだからそれはいい。
でも、何で部屋着にも
絶対生活しづらいだろッ!?
もしかして肩から直接生えてたりするの、それ?
「ヒャッハー! よく来ヒャなお前ら!」
「ヒャッハー! 今日はヒャ礼講だぜえ!」
「ヒャハハハハハハハ。退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!」
「ヒャハッ! アタシはこの世でだれよりも強く……、そして美しい」
「「「――!!」」」
二郎、公彦、パパママも出てきた。
うわあ、やっぱこの一家が集まると、絵面のカロリー半端ないな。
背脂チャッチャ系のラーメン並みのこってり具合だ。
絶対に毎日は見たくない。
「絵面がうるさい一家ー、トリックオアニャッポリート!」
「まーちゃんッ!?」
今日の君はミスフルスイングだね!!
「ヒャッハー! いつもはお菓子を奪う側の俺達ヒャが、今日だけは特別にこいつを振る舞ってヒャるよ!」
「おー、サンキュー」
「――!」
一郎が僕達にくれたのは、これまた可愛くラッピングされたクッキーだった。
またクッキー!?
「ヒャハハハハハハハ。それはこの
「パパの手作りッ!?」
これまた意外な一面ッ!!
クッキー食べる前から、既に胸焼けしてるんですけど!?
「……ん?」
よく見れば、全てのクッキーの表面には、チョコで『ヒャッハー』と書かれていた。
うん、まあ、これは予想通りっちゃ予想通り、かな……。
「よーし、一分一秒でも早くここから離れたいんで、次行こう次ー」
「まーちゃんッ!!!?」
僕は段々君との将来が不安になってきたよ!?
「ヒャッハー! まあ今日だけは大目に見てヒャるよ。ヒャックオランタンに免じてな」
「ヒャックオランタン!?!?」
今気付いたけど、この家に貼られているジャックオランタンはモヒカンだった……。
「このアパートにはシール貼ってないけど行ってみよう。ポチッとな」
「まーちゃーん!!!!!」
遂に君は一線を超えてしまったねッ!?
こういうのはルールの範囲内で無茶するから楽しいんだよ!?(戒め)
「あ、はーい、どちら様でしょうか」
「「「――!!」」」
ドアを開けて出てきた人物を見て、僕達はまたもや絶句した。
その男性は、
おっと、参加者の側の方でしたか!
……あれ?
でもこの人、どこかで……。
「っ!! ……優子」
「うふふ、久しぶりね、
「「「――!?」」」
お化けさんと優子は知り合いだったのか!?
――あ、思い出した。
この人、僕達がダブルデートした遊園地のお化け屋敷で働いてた人だ(※『第4話::ダブルデート①』参照)。
「……優子。何で優子がここに」
「うふふ、何でって、ただの偶然よ。ハロウィンのイベントだから、立ち寄っただけ」
二人の間に漂う空気感から、かつて二人が
「おほー!! 何何!? 久しぶりの再会ってやつッ!? 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た!!」
「まーちゃん!?」
君はホント、ゴシップ大好きだよね!?
「博之は、まだあの遊園地で働いてるの?」
「……いや、何故かある日出社したら、お化け屋敷が画廊に変わっててさ。……それですげなくクビだよ」
「……そう」
どういうことそれ??
何故お化け屋敷が画廊に??
「なあ優子。無職の俺が言うのも何だけど――俺達もう一度、やり直せないかな?」
「「「――!」」」
ドラマでしか聞いたことのない台詞キターーーー!!!!
無職で切り出すあなたも相当勇気アリですけどね!?
「はふー! 動画で撮りたい! 動画で撮りたいよー、ともくんッ!」
「絶対ダメだよ!?」
そしてその動画をネットの海に流す気でしょ!?
「――うふふ、ごめんなさい。それはできないわ」
「「「――!!」」」
やっぱりかーーー!!
まあ、無職ですしね!(死体蹴り)
「……そうだよな。無職な上、『バーチャルのじゃロリお化け娘Youtuberおじさん』って名前で、バーチャルユーチューバー目指してる男なんて嫌だよな」
Vチューバー目指してんすか!?!?
しかも明らかに二番煎じな名前!!!
絶対滑るから、やめといた方がいいと思いますよ!!?
「うふふ、そうじゃないの。――今の私は、彼に夢中だから」
「え?」
そう言うなり優子は僕を抱き寄せて、モッフモフの羊毛おっぷぁいに顔を
モッフリートオオオオオ!?!?!?
「あーーー!!!! ちょっとアンタ!!! ともくんは私のよ!!! 放しなさいッ!!!」
まーちゃんは激高しながら優子から僕を引き剝がした。
「まったく! 油断も隙もあったもんじゃない! はい、上書き上書きー」
「むわっふ!?」
今度はまーちゃんのまっぷぁいに
まっぷぁりーとおおおおお!?!?!?
「……君はあの時の」
博之さんは得も言われぬ表情で僕を見つめてきた。
あなたも僕のことを覚えておいででしたか!
……まあ、あれだけ悪い意味で印象的なことをすればね。
「……そうか、そういうことなら仕方ないな」
博之さんは泣いているとも笑っているともとれる顔で、小さく溜め息をついた。
いや、全然仕方なくないですかね!?
僕なんてただの平凡な高校生ですし、あなたが負けを認める要素なんて欠片も持ってないですけど!?
「じゃあせめて、これを持っていってくれないか優子。よかったら君達も」
「え?」
そう言って博之さんが僕達に手渡してきたのは、あろうことか可愛くラッピングされたクッキーだった。
ま、まさか――!?
「俺の手作りクッキーなんだ。無職で暇だからさ、ちょっと作ってみて」
「うふふ、そういうことなら、ありがたくいただくわ」
今日男性からの手作りクッキーしか貰ってない!!!
そして全てのクッキーの表面には、チョコで『優子』と書かれていた(ブワッ)。
「フッ、これにて一件落着ッ!!」
金太郎が扇子をパンッと小気味良い音をさせながら広げた。
とりあえず変公が一件落着って言えばオチがつく感。