「ああッ! まーちゃん待って! お願いだから許してー!!」
「へっへーん、許さないよーだ。ほれほれほれ~」
「あーーーー!!!!」
また負けてしまった……。
やっぱ何度やっても公務員ファイターじゃまーちゃんには敵わないな……。
最近公務員ファイターにアップデートが入り、新キャラとして『総理大臣』が追加されたのだが、まーちゃんが操る総理大臣の必殺技、『内閣総辞職ビーム』で僕は瞬殺されてしまった。
因みに『内閣総辞職ビーム』のコマンドは『↖→↙↗↘←↑↓↗↙↖↘←→↙↗↖↘↑↓↑↓→↖↓↗←↘↑↙→←→←↑↗→↘↓↙←↖↑+P+K』だ。
長いよッ!!!!
作った人バカなんじゃないの!?!?
こんなの誰が出せるんだよ!!!
……いや、現に出せてる人がここにいるんだけどもさ。
今日はまーちゃんの家に遊びに来ているのだが、現在この家にはまーちゃんと僕しかいない。
というのも、お父さんとお母さんは未央ちゃんの幼稚園の学芸会に出席されているからだ。
しかも未央ちゃんは主役だとか。
まあ、既にアイドルとしてローカル局とはいえテレビデビューまでしている未央ちゃんのことだ。
学芸会の主役くらいなら難なくこなしていることだろう。
「はー、ちょっと休憩しよっか。――よっと」
まーちゃんは颯爽と立ち上がると、ベッドに腰掛けた。
「さあさあ、ともくんもここにお座りよ」
そして右手でポンポンとベッドを叩く。
「あ、うん。じゃあ、お邪魔して」
僕はソワソワしながらまーちゃんの隣に腰を下ろした。
う、う~ん、この感じは、
今日は他に誰もいないわけだし。
男と女、密室、両親は不在。何も起きないはずがなく……。
「あ、そうだ」
「えっ?」
きゅ、急に何、まーちゃん?
「今日は趣向を凝らして、『NTRプレイ』をしてみようよ」
「NTRプレイ!?!?!?」
何を言い出すんだい君は!?!?!?
そんなの高校生がしていいプレイじゃないでしょ!?!?!?
いやそもそも、大人だって本当はしちゃイケナイんじゃないかな……?
それに僕は絶対イヤだよ、NTRなんて!!
するのもされるのも!!
「まあまあ落ち着いてよともくん。本気でNTRなんてするわけないじゃん」
「あ、そうなの?」
じゃあどういうことなの?
「あくまで『プレイ』だよ『プレイ』」
「はあ……」
その『プレイ』ってのがよくわかんないんだけれども。
「ではともくんは、
「何そのネーミング!?!?」
NTRされることを宿命づけられた名前!!!
「そして私はともくんの幼馴染っていう設定ね。今日は礼琉子ちゃんがバイオリンのお稽古で会えないから、ともくんは幼馴染である私の家に遊びに来ているのです」
「僕大分ダメなやつじゃない!?!?」
彼女がいるのに、他の女の子の家に一人で遊びに来てるの!!?
……え、つまりNTRプレイってそういうこと?
僕に他に彼女がいるっていう設定で、まーちゃんがその彼女から僕をNTR……ってコト!?
……えぇ、それは大分業が深い遊びだね。
そもそもよくそんなブッ飛んだ発想が出てきたもんだね。
「……久しぶりだね、ともくんがウチに遊びに来るの」
「え? あ、ああ、そうだね」
もうプレイは始まっているのか……。
今更だけど、本当にこんなことしていいのかな!?!?
僕達まだ高校生なのに、こんなイケナイ遊びに手を染めてもいいのかな!?!?(ダメです)
「昔はよく一緒にお風呂も入ったりしたのにね」
「う、うん」
定番のやつキタ!
現実に一緒にお風呂入ってる幼馴染っているのかな!?
「どう? ともくんは礼琉子ちゃんと上手くいってる?」
「あ、うん、いってると思うけど」
まあ、僕は礼琉子ちゃんに会ったことすらないんだけどね!!
「そっかー。……よかったね」
「……うん」
含みのある「よかったね」だな!!
こんなに一言に含めることできるんだね!!?
「……私の方が先だったのになぁ」
「――!」
何が!?
……いや、それを聞くのは野暮ってもんだろうな。
「――ねえ、ともくん」
「ん? ――!?」
まーちゃんは僕の左手に、自らの右手を重ねてきた。
そして僕に密着するくらい距離を詰め、潤んだ瞳で上目遣いを向けてくる。
ま、まーちゃん!?
「……私じゃダメかな?」
「――!!」
あす○ろ白書だ!!!
あす○ろ白書でキム○クが言ってた伝説の台詞だ!!!!
これ今の若い人に通じるかな!?!?
「い、いや、ダメだよ。僕には礼琉子ちゃんがいるんだから」
まあ、僕は礼琉子ちゃんの顔すら知らないんだけどね!!
「でも礼琉子ちゃんよりも、絶対私のほうがともくんのこと好きだもんッ!!」
「――!!!」
まーちゃんは目元に涙を浮かべながら、僕に抱きついてきた。
ふおおおおおおおおお!!!!
おっぷぁいの感触があああああああああ!!!!!
「絶対礼琉子ちゃんよりもともくんのこと幸せにするって約束する! だからお願い、私のことを選んで?」
「……まーちゃん」
そこまで言ってもらえるのは、男としてこの上なく光栄だけど……。
――でも。
「……ごめん。僕には礼琉子ちゃんが……」
「…………そっか、そうだよね……。――こっちこそごめんね、ともくんを困らせるようなこと言って」
「う、ううん、いいんだよ」
まーちゃんは僕から離れると、肩を震わせながら俯いてしまった。
くうううう、僕は間違ったことはしてないはずなのに、何でこんなに胸が痛いんだ――!
「――じゃあさ、ともくん」
「え?」
「一回だけ、思い出を作らせて?」
「――!!?」
思い出!?!?
「――ん」
「ま、まーちゃん……!」
まーちゃんは目をつぶると、顎を上げて唇を僕に差し出してきた。
これ知ってるッ!!!!
一回だけとか言って、その後もズルズル関係を続けさせようって魂胆のやーつだッ!!!!
今更だけど、とんでもない小悪魔だなまーちゃんはッ!!!!!
…………で、でも。
「お願いともくん、一回だけだから」
「……」
ま、まあ、まーちゃんもこう言ってることだし?
一回だけ……一回だけなら。
――僕はまーちゃんの肩を抱いて、まーちゃんの唇に僕の唇を――。
「――!! ダ、ダメだよやっぱりこんなことッ!!」
「っ!! ……ともくん」
「ごめん! こんなことしても、まーちゃんをもっと傷付けちゃうだけだと思うし」
「……ふふ、優しいんだね、ともくんは」
「いや、そんなことは……」
ただ優柔不断なだけだよ。
「ま、そういうことなら、強行突破するだけですけどね」
「え? ――ファッ!?」
僕はまーちゃんに押し倒された。
え、えぇ……、結局こうなるんすか。
「んふふ、いただきまーす」
「……」
まーちゃんはいつもの猛禽類のような瞳で僕を見下ろしつつ、舌なめずりをしたのだった。
……嗚呼、ごめんよ礼琉子ちゃん。
…………いや、礼琉子ちゃんって誰かな!?!?!?