気がつけば、白い部屋に立っていた。
「おっ?」
「目が覚めたようですね」
目の前には、美しい顔立ちの中性的な少年。
「おおっ!?」
まさか神様か。だっていかにもな状況。
いやがおうにも期待が高まる。
「貴方はインターネット掲示板に書き込まれた『モテなそう』という言葉に怒る余り死にました」
「やめてくれよマジかよ言わなくていいよ…」
少し気勢を削がれるも、その程度、切り替えていける。
「しかし嘆く事はありません。80億人の魂から、貴方は選ばれました」
「キタッ」
思わずガッツポーズをとる男。
神様?が、にこりと微笑む。
「こちらの世で貴方の魂は完全に消滅します。選択できる道はふたつ。ひとつは無に還る事。そしてもうひとつ、新しい…」
「ぉぉ…」
胸が踊る。こんな事がないかと、ずっと期待していたのだ。
「無に成る事」
「うそだろおい」
転生、させてもらえない。
「無って、なに?」
「無くなっちゃうの」
無くなっちゃうらしい。
「ええー、転生ダメ?こちらの世って、異世界自体はある言い方じゃん」
「傷つけたらごめんだけど、貴方はいらない」
「なんでそんなひどいコトゆーの?」
「魂が臭うから」
「なんでそんなひどいコトゆーの!?」
「オークのワキみたいな臭いする」
「え、嗅いだコトあんの?」
「……………」
「ごめんありがとう。なんかちょっと興奮しちゃった。ごめんなさいねホント」
「さあ!お選ぶといい!」
「まってまって…」
勢いで圧してくる神様?を、両手を振って制止する。
「あのさ、魂が臭くても関係なくない?なんでオレだめなの?とりあえずソレだけ先ず教えて?」
「徳」
「ひくいかーぇーそんなかぁー?例えばー?」
「ふむ。貴方は不良によく殴られていましたね?」
「掘り返さないでくれない?思い出したくないんだけど」
「チート能力つけて貴方を異世界に送って、例えば冒険者ギルドで美女が絡まれてたとしますね?」
「助けるよぉ。めちゃ親切するぜぇ?」
「どうやって?」
「そら悪者やっつけますわ」
「暴力で従わせる、と?」
「……………」
「現世でも、力さえあれば、不良共を、ぶっ飛ばしてた、と?」
神様、ズルい。
「ゆ、誘導だ!そんなんズルいすやん!」
「ズルくないね。あれだろ?エルフが美しいからってオークを滅ぼす人間だ」
「そんなん分かりませんやん。オークとエルフの仲を取り持つかもしんないじゃん」
「オスしか産まれないオークは他種族のメスでないと繁殖できないのに?」
「デザインミスだろ。なんでそんな生き物が絶滅しないんだよ」
「強くしたから」
「デザインミスじゃねぇか。じゃあオークでいいよ、オークにしてよ」
「徳が足りないと、お伝えしておりますが?」
「どんだけ足んねえんだよ!?」
「あと徳ひとつ、かな?ぎりスライムいけないくらい」
「虫は!?虫でいいから!」
「虫は世界回してんだよ虫で世界回してんだよ」
「よしんばそうでも『無』じゃ徳つめねぇだろ!」
ねぇなんとかなんないのぉ?と、地団駄を踏んで喚き散らす。
だって『無』なんだもん。
どうなろうがゴネ得なんだもん。
「転生ダメでもせめて何かないの!?無になる前によぉ!」
「あ、成る方にします?じゃあ…」
「まだ選んでないのぉ!なぜなら選んだら無になっちゃうから!」
なんならずっとゴネるつもりである。少なくとも神様?はうっとりする程に美しく、延々眺めていてもきっと飽きない。
ここに至っては、性の区別なく愛でる構えだ。
「おら転生無しなんだろぉ!特典くれよぉ!服めくれや!おヘソの有無で有性生殖かどうか確認してやんよ!」
「今この時が特典だけど。五億年くらいほっとこうか?」
「あ、スイマセン」
五億年はちょっと。例え百万円積まれてもムリである。
「ぇぇ、でもぉ……せめてお慈悲をぉ。無を回避できないならぁ、なぁんかあっても、いいんじゃねぇですかねぇ……ダメですかぁ?」
へらへらと謙り、しかし全然譲らない。
そんな無様を見ていられなくなったか、神様?は「はぁ…」と溜め息をつく。
「しょーがないなー…」
まったく、とか言いながら腰に手を当てた神様?
「え?え?ぇいいの?」
おヘソ?おヘソみれるの?お、おお、おヘソマジおヘソ?神のヘソ知る?っべーぇマジ?おヘソ?
「ひとレスだけだよ?」
差し出されたのは、スマホ。
画面には、死因となったらしい例の掲示板が映し出されている。
「ソレはもういーつぅの」
おヘソじゃなかった。ぴえん。
ぴえん超えてぱおん、いやもう寧ろお◯ん◯んである。
「神様おち◯ち◯じゃないすか…」
「そーゆーとこだぞ?」
「つうかオレの人生32年で積んだ徳、レスひとつっすか?」
「なんにもしてなかった、からね」
「それ言われちゃうとなぁ…」
言われて納得してしまうのも、また悲しい。
確かに人生、何にも。
何にもしてなかったのだ。
「正直、腑に落ちざるを得かねない」
「うんその言い方とかマジで。あっちに送ってもつまんそーだし」
「………………」
それが本音っぽいが、それが本音だったら泣いてしまうので聞かなかった事にする。
「つーか今更だけど何でオレ憤死したの?よく覚えてないんだけど?」
スマホを見返す。
名無し。3:26
いっき見してようやく最新話に追いついたわ。キュアドフラミンゴ先輩。侠気ぱねぇな!次の37話で漸くファイナルフォームか。
名無し。3:34
先輩がファイナルフォームになるのは38話ですね(^_^;)
37話はまだ先輩を曇らせてる回でした。配信勢だからかな?いーなーアマプラ羨ましいなー(;_;)
でもみんなはテレビの話をしています(*^^*)
おーい(*´艸`*)
まだ追いついてないですよー(^o^)
名無し。3:34
こいつモテなそう。
「オマエが悪い」
「オマエよばわりすんなよオレ悪くねぇよ」
「いーからいーから。ほれ、はよ書き込んで無に帰そうや」
「無、一択なら選択肢増やすなよ…」
ったく。と、言いつつスマホをポチポチ叩く。
「えっと『妻子持ちですが何か?』と…」
「人生最後の言葉がウソでいいのかオマエ」
「ええ?うーん……『オマエもな』と」
「オマエだよ」
「うるさいなあ!どうせ何にも残んないだから何でもいいだろうがよ!」
「そうやって、なぁんもしなかったんだろ?」
「………………」
「ムダっつーなら人生なんて全部そーだろ」
ほろり。
何故か一粒、涙が溢れた。
「う、うるせぇ……うるせぇ……うるせぇんだよホント。な、なんでオレが。クソ…」
恥じ入るように、顔が熱い。涙こそもう出ないが顔は自覚できるくらいクシャクシャである。
ガチャガチャとスマホを弄り、一気にレスを打ち込む。
「ほらっ、こ、これでいーよ」
名無し。4:27
すまんな。レスありがとうやで。
ついでにオヤジとオフクロにも言っとくわ。
ありがとうな。
「……………ふーん?」
突き返されたスマホを眺めて、神様?は、ゆっくりと頷いた。
「な、なんだよ?」
「あとひとつ、徳が足りてないといったのを、覚えていますか?」
「え?」
突如、部屋の光が強くなる。
「えっ?えぇ?」
違う。自分が光っているのだ。
「貴方はこのレスによって、観たもの皆をほっこりさせました…」
「……あぁ……ぁぁぁ…」
作法など何も知らないが、この時ばかりは膝をつき祈る様に手を組む。
「貴方に、ひとつ。私から与える事にしましょう…」
「ありがとう……ありがとうございます…」
今度こそ涙は溢れ、全ての罪が解かれるように、身も、心すら軽く…
「amaz◯nポイントを」
「徳じゃねぇのかよおいマジでふざ…」
成った。