レラナイトという男は性格にこそ問題はあるが、優れている点も存在した。
勝てる勝負と勝てない勝負を見極める目だ。 彼は勝てない勝負は徹底して避け、勝てる勝負に全てを傾けてこのEランクという比較的上位まで上がってきた。
その為、勝てる相手と勝てない相手を見極める事だけは非常に上手かったのだ。
ここで疑問がある。 ランク戦のマッチングはランダムだ。
システム上、相手を選ぶ事は不可能だが、偏らせる事は可能だった。
さて、彼はどのように偏らせたのかというと対戦には観戦機能が存在する。
行われている戦闘をリアルタイムで見る事ができるというものだ。 それにより相手を物色し、勝てそうな相手が集まっている時間にマッチングを行い、相性のいい相手を狙う。
完全ではないが多少の偏りは勝率に影響を与え、彼は一時Dランクにまで昇格する事に成功した。
だが、そこまでだった。 Dランクはどんな相手にも勝てるような総合力が求められるので相性の良し悪しはあるが、それ以上に高い技量が求められる。
その為、今までの作戦が通用せずにあっさりとEランクに降格。
ならばとDランクに上がった後、対戦を止めればいいといった考えもあったが集計期間中の戦闘が一定数を割ると降格処分にされるのでそんな延命手段も通用しない。 特に上に上がれば上がるほど条件が厳しくなるのでDランク以上は無理だと結論を出さざるを得ない。
彼は可能であれば高額のPが貰えるBランク以上になりたかった。
理由はPの換金だ。 巷で囁かれている噂は本当で、Pは高額で取引される。
彼はそれでちょっと稼ぎたいと思っていたのだ。 高ランクになれば定期的にPが手に入る。 少なくない額の収入が入るので、彼は意地でも高ランクになってやろうとしていたのだがこのゲームは欲望の強さだけでは上には上がれない。
結局、ハイランカーになる事は諦め、巨大ユニオンの長になればいいと目標を切り替えた。
その為にはとにかく頭数が必要だ。 強ければ尚いい。
ユニオンのランクが上がれば同様に報酬が手に入る。 そこから一部を懐に収めればいい。
彼はこういった即物的な物への執着が強く、何でもかんでも欲しがる。
金もそうだが、自己評価が高いので異性にも強い執着を抱いており、ふわわにこだわる理由の一つでもあった。 そして他人を見下して悦に浸る事も好きだったので、ヨシナリ達の事も表面上の言葉でこそ取り繕っていたが格下と侮っている。 彼の中では二人はふわわのおこぼれ狙いの雑魚だった。
勝ったら半年間、こき使ってやろうと心に決めている。
繰り返しになるが彼は勝てる勝負と勝てない勝負を見極める目に関しては優れていた。
だから、三対三の対等な条件であるなら負ける可能性が少し以上にあると無意識の部分で理解していたので今回のような方法を取ったのだが、あっさり受ける事だけは想定外だ。
その点に少しだけ不安を覚えてはいたが、外部からの助っ人も引っ張れたので何の問題もない。
――勝てる。
ふわわを仲間にしたら何をさせようか? まずはその生意気な態度を改めさせてやる。
高ランクとして先輩としてしっかりと分からせないとな。
勝った時の事を考えてレラナイトは仄暗い笑みを漏らした。
二日という準備期間は瞬く間に過ぎ、ユニオン戦の当日。
ヨシナリ達『星座盤』の面々の目の前には十五人に膨れ上がった『大渦』のメンバー。
数が増えていた事にはそこまでの驚きはなく、精々五人で済んだかといったちょっとした安心だけだった。
「人数差があるのに逃げないなんて立派ですね」
「そりゃどうも。 俺としてはたった三人相手にここまでやるとか必死ですねって感じです。 負けるのそんなに怖いっすか?」
レラナイトの煽りをヨシナリは涼しい顔で受け流し煽り返す。
効いたのかレラナイトはぐっと押し黙り「覚悟しろよ」と捨て台詞を残して踵を返す。
その背を見ながらヨシナリは小さく振り返る。
「取り合えず作戦通りに。 人数差があるから油断するとあっさりやられる事を忘れないように」
「おう! でも勝てばⅡ型パーツ一式が手に入るのかぁ。 思ったより早かったな」
「頑張るよ!」
二人は軽い調子でそう返す。 その様子に変に緊張したり焦ったりしている様子はない。
これなら問題ないだろうとヨシナリは内心で頷くが、勝ち目が薄い事には変わりはない。
戦力差は五倍。 追加の面子を確認したが一人だけFランクだが後はH、Iランク。
不確定な要素は早めに排除しておきたいので可能であれば早めに処理できればいいが……。
後は考えた作戦――と呼べるか怪しい戦い方が何処まで通用するかだ。
――やる事はやった。 後は行くだけだ。
人間として尊敬できる点は一切ない相手だが、格上との戦いだ。
気を引き締めて行こう。 ヨシナリは大きく呼吸をして戦場へとダイブした。
初期配置は星座盤は街の北側、大渦は南側。
高層ビルが多いので狙撃をする場合目立つ位置に陣取る必要があるので早々に高台に移動するのはあまり良い手ではない。
「どうだ?」
同じように戦場に降り立ったマルメルがそう尋ねてくるのでヨシナリは小さく首を振る。
「補足できるのは十二機。 残り三機はレーダーに映らない」
今回の戦いに備えてヨシナリのホロスコープには可能な限り高性能なセンサーを搭載し、索敵範囲を広げておいたのだが、詳細な位置が分かるのは低ランクの十二機のみ。
Fランク二機とレラナイトの機体は映っていない。 通用すればラッキー程度の認識だったので、そこまでの失望はなかった。
「ふわわさんは?」
「もう行った。 勝手な行動はしないように釘は刺しているから大丈夫だとは思う」
「よし、じゃあ俺も行ってくるわ。 頑張ろうぜ!」
「あぁ、気をつけてな!」
マルメルの機体が移動したのを確認してヨシナリも行動を開始した。
基本的に物量は差があればあるだけ有利となる。
それが五倍ともなれば猶更だ。 大渦は敵を見つけて包囲、後は突撃銃なり短機関銃なりでハチの巣にすればいい。 その為に必要なのは早期発見。 同時にやられて困るのは各個撃破だ。
その為、三機一組の編成で周囲の探索を開始する。
素直に正面から突っ込んでくれば楽ではあったが、星座盤の機体は全機何らかの方法でレーダーに引っかからないようにしている様で捕捉できていない。 初期配置は分かっているのでどの辺りにいるのかは分かっている。 そこから移動範囲を絞り込めばいいので全くの手探りにはならないのだが――
最初の数分は互いに異常なしの通信を交わすだけだったが、最初の変化はそうかからずに起こった。