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第49話 ユニオン戦『大渦』⑦

 大渦の機体が三機、反応が一瞬で消えた。

 高い位置で戦場を俯瞰していたレラナイトは驚きに目を見開く。

 低ランクとは言え、トルーパー三機を気配もなく、文字通り瞬殺したのだ。 


 少なくとも彼には真似できない事だった。 


 「何が起こった!?」


 脱落した者達に声をかけるが、戦闘中の撃破は死亡扱いとなるのでやられた理由を説明する事は出来ない。

 彼ら自身に話を聞きたいのなら戦闘が終わった後になる。

 困惑している間にもう三機撃破された。 やられたタイミングと位置的にステルスを最大限に活かして移動しながら痕跡の出にくい武器で仕留めたという事だろう。


 間違いなくふわわの仕業だ。 ヨシナリは狙撃、マルメルは火器を用いた近~中距離戦。

 前者は発射の痕跡、後者は撃てば目立つので動けばすぐに分かる。

 つまり消去法でふわわが気配を消して忍び寄り、ダガーやブレードで刈り取って回っているのだ。


 このまま人数を減らされるのは不味い。 


 「奇襲を受けている! 固まってお互いを守り合え!」


 そう指示を出しながらレラナイトも自らの機体を操って味方との合流に向かう。

 機体名は「ムーンナイト」白を基調としたソルジャーⅡ型で背の大型ブースターと各所に取り付けた隠しスラスターにより高速かつ精密な挙動を可能としている。


 武装はカートリッジ式のエネルギーライフル。

 これはマガジン交換式なので同カテゴリーの武器でも威力は低い部類に入るが、トルーパーの装甲程度なら簡単に貫通するので当たりさえすれば大抵の相手は一撃で仕留められる。 後は予備の短機関銃とエネルギーブレードのみ。


 機動力を損なわない為に武装を可能な限り削ぎ落した結果だった。

 同系統の装備――要は高機動タイプの機体が相手だと技量差が大きく出て負けるので、彼は相性のいい足の遅い重武装の機体ばかりを狙ってマッチングを繰り返し、今の地位を確立した。


 開始早々六機もやられたのはかなり痛いが、まだこちらは九機残っている。

 固めて手を出しにくくすれば得意の奇襲は使えない。 相手の思惑を挫く事が――


 「!?」


 レラナイトは咄嗟に機体をスライドさせる。

 アラートに気付くのが早かった事もあって反応はできたが、完全ではなく銃弾が肩を撃ち抜き態勢が大きく崩れた。 反射的に撃ってきたであろう方向を見るとビルとビルの隙間からヨシナリの機体が硝煙を燻らせる狙撃銃を構えた姿がある。 


 味方の集結させるタイミングでの狙撃。 初めからこれが狙いかとレラナイトは思ったが、それ以上に格下のプレイヤーに奇襲を喰らってやられそうになっている事実に怒りが込み上げる。

 次が飛んでくる前にこの状況を何とかしなければならない。 レラナイトはブースターを一気に噴かして加速、二射目を躱しながら地表スレスレの高度を飛んでビルの陰に入り射線を切る。


 ――これで狙撃は――


 「へい、らっしゃい」


 入ったビルの陰には既に先客が居た。 マルメルだ。

 二挺の突撃銃と腰にマウントされた短機関銃。 四つの銃口がレラナイトの機体に向けられている。

 待ち伏せているところを見ると今の二射目は回避方向を誘導する為の――


 「ふっざけんなぁ!」


 吠えたレラナイトは強引に急上昇。 同時に無数の銃弾が飛んでくるが胴体への被弾は免れたが、左足は逃げ切れずに銃弾の雨を受けて穴だらけになり千切れ飛ぶ。

 高機動の機体は対弾性能がかなり低く、近い距離で突撃銃の斉射などを喰らえば容易く破壊される。


 空中に上がり、舐めた真似をしたマルメルに怒りの一撃を喰らわせようとエネルギーライフルを向けると同時に背のブースターが撃ち抜かれて爆散。 狙撃だ。

 高度を取りすぎたと後悔してももう遅い。 空中で態勢が大きく崩れる。


 メインのブースターが片方破壊された事により錐揉みしながら落下する機体。

 立て直そうにも飛行に最も重要なメインのブースターを破壊されてしまった以上、スラスターだけでは落下速度を殺すだけで精一杯だ。 


 「いやぁ、舐め切ってくれてありがとな。 お陰で楽に片付きそうだわ」


 そんな状況で下にいるマルメルの追撃を躱すなんて真似は不可能だった。


 ――嘘だろ?


 Eランクの自分が格下のGランクに負ける? こんなにもあっさりと?

 あり得ない。 信じられない。 そんな事があってはならない。

 嫌だ。 負けたくない。 ふざけるな。 お前らイカサマをしたんだろ?

 そうでもなければ。 俺が負けるわけがない。 汚い真似をしやがって、絶対に通報してやるからな。


 「おつかれ様っすEランク(笑)さん。 あとⅡ型のパーツありがとうございまーす」


 マルメルの煽りに反応する間もなくレラナイトの機体は四つの銃口から吐き出された無数の銃弾を喰らって全身が穴だらけになり爆散した。



 弾倉がなくなるまで吐き出された銃弾を喰らって派手に大破し、しっかりと撃破扱いになった事を確認したマルメルはふいーと小さく息を吐く。

 口調にこそ余裕があるように見えたが、割と必死だった。


 「いや、ここまで上手く行くとは思わなかった」


 大渦との戦いにおいて準備期間は二日。 できる事はそう多くなかった。

 ただ、敵のランク帯と戦闘の場となるフィールドの構造が事前に手に入るのは大きい。

 今回、作戦を考案したのはヨシナリだ。 彼は今回の戦闘で勝つ為に必要な要素が二つあるといった。


 まずは可能な限り見つからない事。 最上は一方的に相手の動きを掴む事だ。

 戦力差が五倍なので馬鹿正直に突っ込んだら間違いなく負ける。 なら隠れながら削るしかない。

 それともう一点。 レラナイトの早期撃破。


 大渦というユニオンは悪い意味でレラナイト一人のチームだ。

 ある程度、自分の言う事を聞いて、都合よく動く者達で固めた集まり。

 つまり裏を返せばレラナイトが居なくなれば瓦解するのが目に見えているのだ。


 この戦いは最初から真っ先にレラナイト一人を撃破する事に全てを傾けていた。

 ヨシナリはあの手の人種はそこそこ見て来たといい、執りそうな行動を予測し数パターンの作戦を用意していたのだ。 その内の一つが今の動きだった。


 条件としてはレラナイトが護衛を付けずに単騎で目立つ位置に陣取る事。

 最初に見た時点で高機動装備のソルジャーⅡ型だったので、他の機体では着いてこれず単独行動を取るだろうなと言うのはヨシナリの言。 後は人数差と自分達を舐め切っているであろう慢心をついての奇襲だ。  

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