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第395話 サーバー対抗戦Ⅱ④

 言っている意味の大半は理解不能だったが、名乗りを上げた事だけは分かった。


 「カロリーネ。 Aランク。 機体は『ガブリール=イェソド』」

 『ふ、互いに名乗りを上げた以上、言葉は不要。 では始めるとしよう』


 同時にベリアルの姿が掻き消えた。 センサー類からも完全にロスト。

 背筋にゾクゾクとした何かが走る。 本能的に感じる危機感に近い何か。

 カロリーネはそれに従って腕の形状を変化させ、巨大な鉤爪を振り向きながら叩きつける。


 『我が闇の気配を察知するとはやるな』


 ベリアルはカロリーネの一撃を躱し、僅かに距離を取る。

 ゴポゴポと水泡が弾ける音と共に変化した腕の形状が元に戻った。

 ガブリール=イェソド。 カロリーネの愛機であるジェネシスフレームだ。


 紫を基調とした機体で見た限り、目立った武装は見当たらないが、その性質はベリアルのプセウドテイに非常に近いが、似て非なる物だった。 ガブリール=イェソドにはコックピット部分とその周辺しか存在しない。

 なら見えている部分は何なのか? 答えは特殊力場によって形成された見せかけの姿だ。


 内部には性質を自由に変える事ができる液体で満たされており、それを力場で覆う事で形を作っている。 最も近いのは侵攻イベントに出現したイカ型エネミーだろう。

 まるで水風船のように液体に満たされている。 液体はエネルギー、実体弾の両面で高い防御性能を誇り、細身の機体に見えるが耐弾性能は見た目以上だ。


 『水を操るか。 だが、水では闇の深みには届かない。 何故なら水には底があるが、闇の奈落には底がないからだ! さぁ、我が領域の中でどこまで抗えるのか、見せるがいい!』

 「――意味不明。 翻訳機の故障??」


 カロリーネは理解できない言葉の翻訳は諦め、目の前の敵を叩き潰す事に専念する事にした。

 地を蹴ってベリアルに肉薄。 拳を握って真っすぐに殴りかかる。

 振り抜いたタイミングで拳が巨大化。 ベリアルを叩き潰さんと迫るが、即座に背後に回り込まれる。 速い。 小回りだけで見るならエンジェルタイプ以上だ。


 エネルギーウイングを使わずにここまでの動きができるのは驚きだった。

 だが、彼女の機体もジェネシスフレーム。 既存の枠に当てはまらないのは同じだった。

 形状が変化。 前と後ろが入れ替わる。 


 『――!?』


 ベリアルが僅かに息を呑む。 当然だろう。 

 背後を取ったと思ったら何故か敵機の正面に出ているのだ。

 決まった形状を持たないが故に死角が存在しない。 それがカロリーネが持つ強みの一つだ。


 ベリアルが同様に動きを止めた隙を逃さずにカロリーネは手の平を広げて跳躍。

 同時に手の平を機体を包める程に巨大化させ、振り下ろす。 地面に叩きつけられた巨大な手の平がベリアルの機体を圧し潰――したはずだが手応えがない。


 気が付けばベリアルは背後。 腕がブレードに形状変化し真っすぐに突き出され、カロリーネの胸を貫くがコックピット部分を移動させているのでダメージはない。


 ――好都合。


 内部の液体を急速に凝固させてブレードと腕をホールド。

 機体の前後を入れ替えてベリアルの姿を正面に捉えるが、その頃には既に姿がない。

 固めた腕は内部で砕けて結晶のようになった。 


 この時点でカロリーネはベリアルの機体特性と消えた仕組みについて察し始めていた。

 センサーでの観測結果を考えるとエネルギーを物質化しているのだろう。

 消えたのは本当に消えている。 短距離転移。 大きな距離は移動できないが、ビルの屋上からこちらの背後を突いた点から十数メートルは可能と推測できる。


 『ふ、見えて来たぞ、貴様の水底!』


 ここでベリアルが攻撃の回転を上げる。 腕を様々な形状に変形させてのラッシュ。

 鉤爪、ブレード等の切断力に優れた形状が主で、躱しきれずに何度もカロリーネは切り刻まれるがコックピット部分を移動させているので今の所はダメージがない。 だが、位置を探られているのは明らかでこのままだと発見されるのは時間の問題だった。 


 動き自体はカロリーネの動体視力でも見えなくはないが、回転が速すぎて捌ききれない。

 最初は両腕だけだったが、途中から蹴りを織り交ぜてきたので見た目以上に手数が多かった。

 カロリーネも機体の形状変化で手数が多いと自負していたが、ベリアルのそれは精度が段違いだ。


 的確に急所を探り当てて仕留めるといった強い意志を感じる。

 ガブリール=イェソドの形状変化を最大活用して腕を一気に増やし、迎撃の手を文字通り大幅に増やす。 ベリアルは両腕を用いた攻撃の安定性は極めて高いが、足を織り交ぜると僅かに隙ができる。


 恐らくはまだ四肢を用いたコンビネーションに慣れていない。 

 付け入るとするのならばそこなのだが、ベリアルは自身の弱点に関してよく理解していたようでカロリーネの変形させた鞭状の腕の一閃を空間転移で回避。


 これが非常に厄介だった。 

 死角に回る場合が多いが、偶に移動せずに全く同じ場所に出現するといった事をして狙いを絞らせない。 圧倒的な回転速度と空間転移によるフェイントを混ぜた変幻自在の攻撃。


 ――強い。


 そしてそれ以上に面白い。 

 気が付けばさっきまでの退屈は何処かへ吹き飛んでおり、カロリーネは目の前の敵をどう攻略するのかで夢中になっていた。


 「――貴方、強い、面白い。 もっと見せて」


 機体特性が近い事もあってベリアルの存在は彼女の好奇心と向上心を大きく刺激したのだ。

 こいつを参考にすれば自分はもっと強くなれる。 そんな確信に近い何かをカロリーネはベリアルに感じていた。 アバターの向こうにいる彼女は満面の笑みを浮かべている。


 『ふ、我が闇の深淵を見たいと? いいだろう、貴様にその力と資格があるのならば、な』


 ベリアルは戦意を漲らせ更なる攻撃を繰り出さんと僅かに身を沈めたが、不意に背後に跳ぶ。

 僅かに遅れて彼の居た場所に無数の銃弾やエネルギー弾が付き刺さる。


 「単騎でここまで突っ込んで来るとはいい度胸ですね! ですが、ここは敵地である以上、こうなる事は覚悟の上でしょう?」


 オレンジ色を基調とした機体。 

 ベリアルにとっては初見の相手ではあるが、カロリーネにとっては見慣れた機体だった。

 Aランクプレイヤー『ジネヴラ』と彼女の機体『ラファエラ=ホド』だ。


 その背後には無数のトルーパー。  

 これまで誰も手出ししなかったのは包囲するまでの時間を稼ぐ為だったようだ。

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