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第396話 サーバー対抗戦Ⅱ⑤

 ――包囲されたか。


 状況は圧倒的な不利。 

 そもそも敵地のど真ん中でこれまで一騎打ちが出来ていた事自体が奇跡に近い。

 基底の娘カロリーネはベリアルにとっても非常に面白い敵だった。


 液体とエーテルという差はあるが、機体特性は非常に似通っている。

 つまり、この敵を学習し、打倒すれば自身に足りない何かが手に入るかもしれない。

 そう考え、ベリアルは更なる闇の叡智を手にする事ができるかもしれないという期待に震える。


 ――まだだ。 俺の限界はこんなものではない。 まだまだ強くなりたい。 


 勝てる相手だけを屠っているだけでは意味がない。 

 更なる闇の深みへと潜るには自らを脅かす圧倒的な脅威と危機が必要なのだ。

 極限まで自身を追い込む事でしか限界を超える事は出来ないと彼は深く信じている。


 だから、敵機に取り囲まれたこの状況は彼にとっては歓迎するべき展開だった。

 今でも思い出す。 あの雪に閉ざされたフィールド。 目の前で撃破された戦友の機体。

 あの時、自分がツェツィーリエを完全に封じていればあんな事にはならなかった。


 何度思い出しても自身の力不足が恨めしい。 

 後、コンマ一秒でも攻撃の回転速度が上がれば覆せたかもしれないあの結果。

 あの過去を塗り潰す為には必要だった。 更に深い闇と何者をも圧倒できる力が。


 だから彼は両腕を広げ、この危機を歓迎する。


 「ふ、ふははは。 我が闇の気配に誘われ、群れを成したか。 だが、心するがいい。 貴様らが対峙しているのは何処までも深い闇の深淵。 一度足を踏み入れれば逃れる事は敵わない死出の旅路。 我が闇を踏破できるというのならかかって来るがいい!」

 『……妙ね。 翻訳機に異常? 何を言っているのか分からない。 カロリーネ、一先ずは加勢します。 ここは協力して――』


 オレンジ色の機体が基底の娘カロリーネにそう呼びかけたが、彼女の反応はその場に居た誰も想像ができないものだった。


 『――ジネヴラ、邪魔しないで。 ベリアルは私が倒す』

 『カロリーネ? 何を言っているの?』

 『言葉通り。 ベリアルは私の獲物。 横取りするなら――』


 基底の娘カロリーネはベリアルに背を向け、味方機に攻撃態勢を取る。


 『――そっちから先に片付ける』


 この反応は想定できなかったので、その場に居た敵味方全ての機体が動揺で硬直する。


 『ほ、本気なのですか!? こっちは味方ですよ!?』

 『関係ない。 邪魔をしないで』


 基底の娘カロリーネは自らが本気であるとアピールする為か僅かに身を低くする。

 明らかに返答次第では容赦しないといった様子だった。 

 流石にこの展開は想定していなかったのでベリアルの思考も僅かに停止するが、ややあって回転を再開し、彼の思考はこの場における着地点を見出す。


 「ふ、ふははははは、基底の娘カロリーネよ。 貴様は味方に頼らず我が闇に一人で挑み、凌駕したいという事か。 その意気や良し! 誇り高き戦士には相応しき戦場があるだろう。 付いて来い!」


 ベリアルは転移を使わずに移動。 

 その無防備な背に銃口を向けるプレイヤーもいたが、誰も引き金を引く事は出来なかった。

 何故ならそんな事をすれば基底の娘カロリーネが敵に回るからだ。


 移動先は島から少し離れた水上。 プセウドテイは水上での戦闘も可能なので何の問題もない。

 基底の娘カロリーネは無言で付いてくる。 後ろでオレンジ色の機体が何かを言っていたが、二人は無視した。 


 そして敵も味方もいない水上で十数メートルほどの距離を離して二人は対峙。


 『――感謝する』


 基底の娘カロリーネは小さく頭を下げたが、ベリアルは小さく首を振る。


 「不要。 俺はただ、闇に挑む勇者に敬意を払っただけだ」


 纏めてくるならそれでも構わないが、同士討ちはベリアルの望むところではない。

 彼はここに自らを高める為の戦いに来たのだ。 同士討ちという不確定な要素が絡んだ勝利は望まない。 戦略としては悪くない手ではある。 少なくとも彼の盟友である魔弾の射手ヨシナリであるなら言いくるめて寝返りを画策するかもしれない。


 そのやり方を否定はしないがベリアルの目的からは外れるのでベリアルには不要な手だ。

 基底の娘カロリーネは無言で構える。 ベリアルはかかって来いと言わんばかりに両腕を広えげた。 両者が水面を蹴って機体の形状を変化。 第二ラウンドの始まりだった。



 インメルマンターンから変形してのアトルムとクルックスで銃撃。

 敵のエンジェルタイプを撃墜。 


 ――酷い乱戦になったな。


 ヨシナリは内心でそう呟きながら戦闘に混ざって目についた敵機を次々に撃墜。 

 流石に二回目だけあって前回のようにあっさりやられるつもりはないが、足場が中央の橋しかないので水面、水中を移動する手段がない機体は橋に集まって派手に撃ち合っている。


 結果、飛行可能な機体は身動きが取れない事を嫌って空中で戦闘を行う事になってしまう。

 周囲は敵味方が入り乱れている状態だが、ぐるりと見回すと一際目立つ戦いがいくつかある。

 嫌でも目に入るのは水面を走り回っているユウヤと敵のジェネシスフレーム。


 レーダーを確認すると少し離れた位置でベリアルも敵のランカーと派手な戦闘を繰り広げていた。

 ラーガストは言うまでもない。 マップの北側――何もない場所へ視線を向けると海底火山でも噴火しているのかと思うような有様だった。 巨大な水柱と動き回る何か。


 もうレベルが違いすぎて近寄る事すらできそうもなかった。

 ヨシナリはSランクプレイヤーの戦いからそっと目を逸らし、自分にできる事をしようと敵の数を減らしていた。 この乱戦に置いて重要なのはとにかく敵の数を減らす事にある。


 以前はシックスセンスを使いこなせていなかった事もあって不覚を取ったが、今回は前回と違う。 

 まずは攻撃。 狙い易い敵機は攻撃態勢に入っている機体。

 基本的に仕留めようと動いている機体は仕留められる意識に欠ける傾向にあるので攻撃が通り易い。


 逆に防御――狙って来る相手の察知はエネルギーライフル等の中距離の飛び道具に関しては間合いを意識し、自身に対して狙いを定めている機体は手頃な距離で動きを止めるのでそれを見逃さなければ割と落とされない。 次に狙撃に関しての警戒だが、乱戦中にヨシナリだけを狙い撃つ可能性はそう高くないが、レーザー照射で狙いを付けてくる相手に関してはシックスセンスで分かるのでそこまで怖くはない。 


 ――ただ、視野を広く保たなければならないので酷く消耗するんだよなぁ……。


 機銃を連射しながら突っ込んで来る敵のキマイラタイプの突撃をインメルマンターンで躱しながら背後を取ってアシンメトリーのエネルギー弾を喰らわせて撃墜。 

 こうなると完全に正面からの潰し合いとなっているので、今は拮抗しているが徐々に地力の差が出てくるだろう。

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