流石に連携に組み込むには時期尚早だったようだ。
ヨシナリはロストしたホーコートの反応に僅かに表情を歪めた。
Sランク相手に責めるのは酷な話なので、彼はよくやったと言える。
余計な思考を脳裏から追い出す。 この戦いでは余計な事に割くリソースがない。
グリゼルダに関しては基本的に障壁を突破しない事には話にならないので、攻略法としては畳みかけて防御を飽和させるか高火力で一点突破するかのどちらかだ。
強い。 Sランクだけあってヨシナリが今まで戦ってきたAランクプレイヤーと比較しても高いレベルにあると言えるが、ラーガストに比べると圧倒的に劣る。
恐らくグリゼルダはラーガストに絶対とは言わないが、まず勝てない。 ちらりと遠くを見るがラーガストの居るであろう場所は凄まじい爆発が連続して起こる地獄のような光景が広がっていた。
主将と言っていたが、総合力で言うのならラーガストの相手をしているプレイヤーの方が遥かに上だ。
――とはいっても比較対象が悪いだけで、グリゼルダは間違いなく圧倒的な強敵。
一対一なら確殺される自信がある相手ではあるが、ヨシナリの見立てでは絶対に勝てない事はないと見ていた。 今の『星座盤』の総力でかかれば細いが勝機はある。
「全員、センサーリンクで共有できてると思いますが、空間情報変動に注意。 周囲に転移の兆候があったら全開で噴かして回避を! 狙われていない機体は可能であればその隙に仕掛けて行動を制限するような立ち回りを意識してください。 これまでに出くわした中では間違いなく五指に入るレベルのプレイヤーです。 油断せずにお互いを守り合いましょう。 横槍にも気を付けて!」
回線をユニオン限定に切り替え、一気に捲し立てるように必要な情報を仲間に伝える。
「いきなりSランクか。 燃えて来たぜ」
「ほんま、ヨシナリ君といると退屈せんなぁ」
「……が、頑張る」
「お義兄さんにいい所を見せるチャンスっぽいですし、やるだけやりますよ」
士気は高い。 戦う覚悟も準備もできている。
――行くぞ。
ヨシナリはブースターを全開で噴かして急下降。
ふわわ、シニフィエもそれを追うように付いてくる。
センサーに反応。 転移の兆候だ。 狙いはシニフィエで彼女を囲むように上下、左右、正面背後と六ケ所の転移反応。
「ま、最初は私ですよねー」
だが、この攻撃手段はヨシナリが居る以上は通用しない。
転移は一見万能に見える攻撃、移動手段だが、転移先の空間が安定していなければ使えないのだ。
これはベリアルのファントム・シフトにも存在した欠点で以前に教えられた事もあってグリゼルダを見た時から早い段階で思いついていた手だった。
ふわわが左の転移反応を太刀で一閃しヨシナリが上下の反応をアトルムとクルックスで撃ち抜く。
こうすると三か所が使えなくなる。 そうすると自然と転移先を制限できるという訳だ。
半分潰せばシニフィエの選択肢も大きく増えるので、仕掛けに行く事にもリスクが発生する。
――だが、グリゼルダの機体には防御フィールドがある。
転移先は上。 錫杖を振り下ろすがシニフィエは開いた左へ回避。
グリゼルダが手を翳すが、それよりも早く手裏剣を投擲。 ヨシナリ、ふわわは即座にセンサーにフィルターをかけて閃光防御。 炸裂。
光が撒き散らされる。 その隙に攻撃圏外へ。
ヨシナリ達は橋の下を潜って水面を這うように飛ぶ。
背後、少し離れた所ではマルメルが橋から飛び降りて水面をホバー移動で追いかけてくる。
――まずは不確定要素を可能な限り削ぎ落す。
こうして移動しているのは他からの横槍が入らない場所へと向かう。
周囲の敵機は味方機を交戦中でこちらにはあまり注意を払っていない。
グリゼルダがやられる訳がないといった考えだからだろうか? それともあの手の機体には味方機はノイズにしかならないからだろうか? 陣地の制圧を優先しているという可能性もあるので、今はこの状況を最大限に活用する事だけを考えればいい。
橋と主戦場から適度に離れ、グロウモスの射線も通る位置。
日本側の陣地のやや南側に位置する場所まで移動した所で充分と判断して反転。
「ヨシナリ君。 攻撃を通したいんやったらあの膜をどうにかせぇへんと話にならんよ?」
「分かってます。 一番いいのはマルメルかグロウモスさんが当ててくれる事ですが、一回見せてしまったので警戒はされているでしょうね」
必要な確認作業ではあったが、当てる際のハードルはかなり高い。
グリゼルダはこちらの反転と同時に転移。 狙いは――
「転移反応が三十!? クソ、本気出してきやがったな!」
グロウモスを含めて一人頭、六ケ所。 当然ながら上下、左右、前後だ。
マルメルはホバーを切って機体を水没させる事で回避。 ふわわ、シニフィエは凄まじい反応で転移先を二つ潰して突破。 ヨシナリも機体を捻ってアトルムとクルックスで上下の転移反応に銃撃して急上昇。 グロウモスもその場を移動する事で回避を図る。
グリゼルダの機体は転移――しない。 どういう事だと眉を顰めるがややあって気が付いた。
錫杖の先端がない。 狙いはふわわだ。
死角からの刺突。 錫杖の先端に空間の歪みを纏わせ、背後から襲い掛かる。
――が、ふわわは身を捻って回避。
『おや、あれを躱すのですね』
グリゼルダが感心したかのような声を漏らす。 ヨシナリは内心で冷や汗を流していた。
あの野郎、機体の転移反応に紛れて錫杖の先端だけを転移させる為の反応を隠していやがった。
『ならこれはどうでしょう?』
グリゼルダはそう言って錫杖を手元で器用に回転させる。
また先端が消失。 小さな転移反応が全員を囲むように出現した。
回転の勢いが乗った状態の先端だけが転移先に次々と現れる。
――普通のやり方じゃ躱せない。
「ヨシナリ君。 道を作る!」
ふわわが野太刀を一閃。
転移反応を潰しながらグリゼルダへと刃が向かうが、障壁に阻まれて通らない。
そんな事は織り込み済みで本命は斬撃の攻撃範囲には攻撃が来ない事だ。
ヨシナリが抜け、シニフィエがその後を追うが、ふわわは振った後なので動けない。
『まずは一機』
転移反応に囲まれたふわわに無数の錫杖の先端が襲い掛かる。
ふわわはそれを見て一つ深呼吸した。 ヨシナリにはその意図は不明だが、彼女の機体が僅かに脱力したのを感じた。