日本対フランスサーバーの戦闘は中盤に突入し、そろそろ勝敗を決定づける何かが起こる。
そんな予感を感じさせる展開だった。
だが、俯瞰してみれば戦況は一目瞭然で、フランス側が日本側の拠点に一方的に攻撃しているといった図になっている。
その為、第三者が見ればこのまま行けばフランス側の勝利で終わると判断するだろう。
システムとその管理者は冷徹かつ無感情にその様子をモニターし続けていた。
同時に全ての戦いとその戦闘データが収集されていく。
このイベントにはシステムは介入せず、ただ見守る事だけ。
――だったはず――
不意にシステムに無数のエラーが走る。 正確には外部からの干渉だ。
システムとそれを管理する者達は想定外の事態に慌て、何が起こっているのかの確認を急ぐ。
それにより即座に何が起こっているのかが明らかになった。 上位権限を用いたゲームへの干渉。
正確にはサーバー対抗戦が行われている一部のフィールドに外部から持ち込んだデータが流れ込もうとしていた。 その様子をモニターしていたオペレーターの一人が、日本、フランスサーバーの戦闘フィールドへのデータ流入を防ぐ。
だが、それが良くなかったらしい。 実行してタスクが停止したと同時に通信が入って来た。
相手はかなり上の権限を持った相手なので彼女に拒む選択肢はなかった。
通信回線を開くと同時に翻訳ツールを起動。 そうする事で言語の違いを無視する事ができる。
「何をやっている!?」
開いたと同時に飛び込んできたのは怒鳴り声だ。
「……不正アクセスによるゲームへの介入を防いでおります」
「馬鹿が。 それは我々がやった事だ。 貴様に止める権限などない!」
ヒステリックに叫ぶのは中年男性の声。
面倒な相手だと内心で思いながらもどうすればいいのかと迷っていた。
止めているデータの詳細を見ると
現在は未使用のサーバーに閉じ込める事で拘束しているが、このまま放置しておけば自力で破ってこのゲームを食い荒らすだろう。 それをさせない為に持ち込んだ者達が駆除しようと様々な処置を施しているが効果が出ていないようだ。 限界なのは理解できる。
だが――
「――何故、イベント戦のフィールドへ落とすのですか?」
「決まっているだろうが、アレをプレイヤー共に処理させる為だ。 ボランティアの連中では足止め程度にしかならん。 使えないカス共が! 戦闘用の特化MODまで移植してやっているのにまるで歯が立たんのはどういう事だ? ――ともかく、お前は黙ってその作業を停止してあのクソを連中の下へ送り込め!」
「で、ですが――」
尚も抵抗するオペレーターに業を煮やしてのか男は更に捲し立てる。
「問題はない。 オーバーSランクの連中が居る場所だけだ。 貴様も分かっているだろうが! 我々はガキの遊びに何百兆もの金を使っている訳ではない。 成果を見せろと言っているのだ。 さっさとあの存在するだけで吐き気を催す害虫共を始末しろ! その為のオーバーSランク、その為の
「し、しかし――」
尚も抵抗するオペレーターに割り込むように別の回線が開かれる。
「……困りますね。 ゲームの管理はこちらに一任されているはずですが?」
ややくたびれた印象を受けるが、若い男の声だった。
それを聞いてオペレーターは少しだけ安心したように息を吐き、中年男は忌々しいと小さく唸る。
「貴様かミツォノロプロフ。 ちょうどいい、こいつでは話にならん。 我々の指示をさっさと実行しろ!」
ミツォノロプロフと呼ばれた男は黙って聞いていたが、ややあって溜息を吐く。
「……連中と戦らせるのは彼等としても望む所でしょうが、一般のプレイヤーでは話になりません。 逆に彼等を送り込むというのは無理なんですか?」
「できるならやっている! 纏めてデータ化したので隔離用サーバーがそろそろ限界なのだ! 他所に落とさんと壊れると技術屋連中が喚き散らしているのだ!」
それを聞いたミツォノロプロフはまた溜息を吐いた。
どうやらこの男は溜息を吐くのが癖のようだ。
「……了解しました。 確認しますが、あんたは連中が視界から消えれば文句はないって解釈で構いませんね」
「その通りだ」
「だったらやり方はこっちに任せて貰います。 その条件を呑まないのならそちらで処分してください」
中年男はやや不快気に鼻を鳴らす。
「ふん、好きにしろ」
それだけ言うと通信が切れた。 ミツォノロプロフは溜息。
「――イベントは中止だな。 プレイヤーの一斉ログアウトと記憶改竄処置の準備。 後はオーバーSランクの連中にΩジェネシスフレームの使用許可を出してやれ」
「り、了解。 これより作業に入ります」
オペレーターが作業を開始。 ミツォノロプロフは「頼むぞ」と声をかけた後、通信を切断した。
作業内容がゲーム内に反映。 フィールドに何かが現れようとしていた。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ、悪いな運んでもらっちゃって」
「いいって」
ヨシナリは拠点内にあるハンガーにマルメルの機体を預けた後、ホロスコープをハンガーに入れて修復作業を開始。 ふわわ達もやや疲労を滲ませながらハンガーへ機体を預ける。
機体を修復するまでの間、時間が空いたのでさっきまでの戦いを脳裏で反芻していた。
Sランク相手に多少なりとも戦えたのは収穫だったが、仕留められなかった事には悔いが残る。
――あのよく分からない障壁に対する対策は必須か。
連携自体は機能しており、攻撃も通用はしていた。
マルメル、ふわわ、グロウモス、シニフィエとの連携は問題ない。
ホーコートは早々にやられてしまったが、今後次第では活躍は期待できるはずだ。
足りなかったのは対策だ。 あのフィールドを効率良く剥がせる武装と転移に対する備えが要る。
具体的な方法は出てこないが、ショップを漁るかラーガストやベリアルに相談してみるか……。
そんな事を考えているとズシンと地面が縦に揺れた。 何だとアバター状態で外に出ると空に巨大な穴が開いている。
「何だこりゃ」
思わず呟く。
僅かに遅れて真っ赤なウインドウが出現し「warning!」と表示されており、警告を示すようにアラームが鳴る。 防衛戦のボスが出てきた際も似たような表示はあったが、このタイミングで?
流石に運営の意図が掴めずにヨシナリは首を傾げた。