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第403話 サーバー対抗戦Ⅱ⑫

 明らかに異常な事が起こっていると考えているのはヨシナリだけではなかった。

 その場に居る全てのプレイヤーが突然のアナウンスに戦闘を停止。

 全員が空を見上げていた。 以前は巨大なイソギンチャクが降って来たが、今回は一体何が?


 そもそもこのイベントはサーバー対抗戦のはずだ。 

 サーバー同士の純粋な潰し合いのはずなのに不確定要素のエネミーを混ぜる?

 理解ができない。 少なくともアメリカ第三との戦いではこんな横槍は入らなかった。


 意図の読めない流れに困惑するが更に不可解な出来事が起こる。

 ウインドウ表示が切り替わり、緊急ミッションと表示。 


 ――緊急ミッション?


 このタイミングで? 何だと詳細を確認するとここに異星人が戦略級の兵器を送り込んで来るので撤退まで生き残れと言った内容の物だった。 意味が分からない。

 次いでマップのレーダー表示が一気に切り替わる。 フランス側の機体の表示が全て『敵軍エネミー』から『友軍フレンドリー』へ。 この様子だとフランス側にも全く同じ形式のミッションが通知されているのだろう。


 「――で、その異星人の戦略級兵器とやらがあれか?」


 空に開いた穴からどろどろとした何かが流れ落ちる。 

 真っ黒なヘドロのようなそれは橋を溶かして沈めた。 そして穴の淵を押し広げるように何かが出現しようとしている。 当然ながら日本、フランスの両プレイヤーは黙って見ている訳もなく攻撃を開始していた。 無数の銃撃、砲撃がヘドロに突き刺さるがあまり効いているようには見えなかった。


 流石にアバター状態は不味いと判断したヨシナリは機体に戻る。

 まだ修理が終わっていないのでハンガーから動かせないが、シックスセンスは扱えるのでセンサー感度を最大にして謎のヘドロ状の戦略兵器とやらをスキャニング。


 遠くから見ていたのでは何が何だかさっぱり分からない。 

 フォーカスし、情報が入って来たのだが――


 「――う、何だこれ?」


 訳が分からなかった。 まずはヘドロ状の何か。

 エネルギーの塊のような代物で周囲の物体を取り込んで質量を補填している。

 攻撃が効いていないように見えたのはこのためだ。 つまりあのデカブツは攻撃を喰らって損傷した端から水や橋の残骸を取り込んで変換している。 その仕組み自体には覚えがあった。


 侵攻戦の際に反応炉がやっていた事と同じだったからだ。

 次に中身。 恐ろしい事に中に生物の骨格のような物が見える。

 全く見た事のない生き物だが、飛蝗のような昆虫と四つ足の動物を足して二で割ったような異様な形状。 だが、ヘドロに覆われている所為で骨格を欠片も活かせていない。


 不合理としか言いようのない形状だった。 


 ――適当に作ったのか?


 そう思いたくなる構造だった。 だが、性能としては圧倒的と言える。

 削るスピードよりも修復速度の方が早いのだ。 日本とフランスの機体が総攻撃を仕掛けているにも関わらずにだ。 どこかに弱点でもあるのではないかとスキャニングを続けるが、単純すぎる構造故に穴が全く見当たらない。 アレを仕留めたいならあの馬鹿げた質量を掻き分けて内部にダメージを与える必要がある。 ヨシナリと同じように高感度のセンサーシステムを搭載している機体を持ったプレイヤー達も同じ結論に至ったようで集中攻撃での一点突破を狙っていたが、本体まで届いていない。


 「な、なぁ、ヨシナリ。 アレ、ヤバくね?」


 マルメルが引き気味にそう呟く。


 「ヤバいと思う。 あの数で突破できないなら冗談抜きで仕留めるのは現実的じゃない」


 一応、ミッション内容が撤退までの生存なので仕留められない構造なのかもしれないが、こんな訳の分からないエネミーを送り込んでくる意味が理解できない。 不確定要素のステージギミックとして配置するのならまだ理解は出来たが、両軍共同で対処しろというのが不可解さを深める。


 それにあのエネミーはまだ何もしていないのだ。 

 生き残れと言っている以上、何かがあるのは明白だが――不意にシックスセンスが内部構造の変化を感知。 内部に無数の独立したエネルギー反応が出現した。


 「あぁ、分離して飛ばす感じかな?」


 ヨシナリの言葉は正しく、エネミーの表面が波打ち表面から虫の羽音のような耳障りな音が響く。

 数が多いので酷い騒音だった。 表面から何かが飛び立つ。

 蠅か何かに近い虫の群れだ。 数が多すぎて黒い塊にしか見えない。


 一応、攻撃は効いているのでレーザーなどの光学兵器で焼き払えてはいるが数が圧倒的なので処理し切れていない。 防ぎきれずに被弾した機体が次々とロスト。

 撃破ではなくロストだ。 機体自体はその場に残ってはいるが、反応が消えている。


 理由は直ぐに分かった。 黒い何かに浸食された味方機が黒く染まって武器を滅茶苦茶に撃ちまくり始める。 明らかに制御を奪われているので恐らくはああなったら終わりだろう。


 「うわぁ、これどうすんだよ……」

 「少なくとも行ってもやられるだけだから、今は様子見に徹した方がいい」

 「なぁ、勝てると思うか?」

 「それを見つける為にも前線にいる皆さんに頑張って貰おうぜ」


 そう返しはしたが、ヨシナリは既に無理だと思っていた。

 明らかに倒せないようにデザインされているので、もう時間切れまで見てればいいんじゃないかとすら思っていた。 見ている間に味方の数が凄まじい勢いで減っていき、エネミーが空間を侵食するように徐々にその勢力を増していく。 


 「まぁ、アレでダメだったらいよいよ逃げた方がいいな」


 呟くと同時に光がさっと敵の表面を撫でる。 僅かに遅れて水が割れてついでにエネミーも割れた。

 エネミーが苦しむように謎の悲鳴とも呻き声ともつかない何かが上げる。

 凄まじい威力で一撃でヘドロが蒸発して本体の骨のような物が露出していた。


 通常視界で見ると黒い昆虫みたいな何かが見えたが、即座に露出部分が抉れる。


 「うっそだろ」


 思わず呟く。 期待はあった。

 彼等はこのゲームの頂点に存在し、その戦闘能力は異次元と言える。

 ラーガストならもしかしたらあの化け物相手にも対等以上に戦えるのではないか?


 そう思っていたのだが、結果は御覧の通り。 期待以上だった。

 恐らくヘドロを抉り取ったのはさっきまでラーガストと戦っていたフランス側のSランク。

 あのヘドロを一撃で消し飛ばす破壊力も驚きだが、それに同期して突っ込んで行ったラーガストも大概だった。

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