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第406話 サーバー対抗戦Ⅱ⑮

 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。


 「え~っと何だっけかなぁ」


 ログアウトの操作をした覚えがなかったので、記憶を掘り返す。

 確かフランス側のSランクと戦って痛み分けで終わって――あぁ、思い出した。

 そうだ。 運営がこれまでの既存エネミーを第三軍として繰り出してきたんだった。


 しかもふざけた事に例のイソギンチャク型やメガロドン型、ジンベエザメ型などが無限湧きする地獄のような編成だったな。 凄まじい物量と火力によって、日本、フランスの両軍は全滅。

 サーバー対抗戦の結果はドロー。 痛み分けといった結果に終わった。


 一応、撃破報酬などは振り込まれているので、損はしていないがどうにももやもやする結果だ。

 運営の横槍に関しては不可解な点は多いが、そんな事よりも重要な事があった。

 反省だ。 グリゼルダはSランクというだけあって非常に強力な相手ではあったが、決して勝てない相手ではない。 


 ――まぁ、『星座盤』の総力で挑むという前提が必要だったがな。


 イベント戦の記録映像を呼び出そうとしたが、エラーで表示されなかったかったので記憶を掘り返す。 高い防御性能と転移を用いた攻撃。 その二つを用いて距離を選ばない戦闘を可能とするオールラウンダー。 だが、欠点としては動き自体はそこまでではないので当てる事自体は可能だった。


 恐らくは転移に必要な操作が複雑な為、リソースを挙動にあまり割けないのだ。

 攻撃の最中はそれが特に顕著で、転移を絡めた攻撃中はほぼ静止していた。

 その間なら楽に当てられはするが、防御を簡単に突破できない。 


 正直、あの機体で一番厄介だったのはあの防御兵装だ。

 侵攻戦に現れたエネミーが使ってきた事もあって二度目の遭遇となる。 

 それにより見えてくるものもあった。 まず、あの武装は自機の周囲に任意で障壁を展開する武装だ。


 接触した実弾は変形もせずに空中で静止した所を見ると運動エネルギーを奪い取る形で無効化する。 エネルギー兵器も霧散しているので実弾、エネルギーの両面で高い防御能力がある万能と言っていい代物だ。 欠点はエネルギー管理。 恐らく燃費の悪さはエネルギーウイング以上だ。


 その為、グリゼルダはかなり繊細なエネルギー管理を要求されていたはずだ。

 あの防御兵装の最大の強みは強度の振り分けにある。 恒常的に展開しているようではあるが、攻撃が集中する部分に防御を集中させる事で強度を上げていた。


 これはシックスセンスで観測した結果なのでほぼ確定と見ていい。

 現状で破る手段は正面から打ち破るか死角――要は他に防がせている隙に脆そうな部分を一突きする事だ。 戦闘中にも狙ってはいたのだが隙がなく、最後まで碌に突破は出来なかった。


 あの防御を打ち破る為の最大の鍵はグリゼルダの意識の死角を突く事にある。

 その為、グロウモスが最も相性のいい相手と言えるだろう。 だが、力量差があり過ぎたせいで刺さらなかったのは今の自分達の力不足ゆえだろう。


 戦闘の内容にミスはなかった。 いや、点数を付けるのなら100点以上の働きをしたと言っていい。

 少なくとも全員が自分にできる全力で挑み、ぶつかった結果なのだ。 

 ここは素直に負けを認めておくべきところだろう。 


 ――次に会ったら必ず潰してやるが。


 我ながら完璧に仕上げたと思っていたホロスコープにもまだまだ足りない面が多いと実感させられる。 そしてヨシナリ自身にもまだまだ足りてない部分が多い。

 少なくともグリゼルダと対等以上に戦えないとSランクには届かない。 今の段階ではラーガストに届くイメージが全く見えてこないが、上に向かう手段、改善すべき部分はいくらでもある。


 脳裏で何をするべきなのかを簡単に纏めた嘉成は何の気なしにニュースサイトへとアクセス。

 速報が入っていた。 何だと詳細を表示すると少し驚くべき内容で、小さく目を見開く。


 『ゲーム中に突然死』


 これが一人ならそう言う事もあるだろうと判断するだろうが、今回は何と250人だ。

 どういう事だと調べるが詳細は不明。 ただ、はっきりしているのは死んだ連中は一人残らず仮想の世界に意識を沈めたまま戻って来れなかったようだ。


 現在で囁かれている噂としては政府が仮想世界を用いての人体実験を行っている、テロ集団によるサイバーテロ、脳内チップの不具合、アクセス先での何らかのトラブルなどといった説がまことしやかに飛び交っていた。


 「流石に250は多すぎるな」


 思わずそう呟く。 具体的にどんなタイトルで遊んでいたプレイヤーなのか、仕事か何かで仮想の世界にアクセスしていたのかは不明だが、並んだ可能性の中ではテロが一番怪しいだろう。

 こんな辺境のエリアにまでテロを仕掛けるなんて暇な連中だなと思いつつもあまり他人事ではないので後で運営に問い合わせておこう。 嘉成はICwpの公式サイトを開いてサポートページからカスタマーサービスへとメールを作成して送信。 


 そこまでやってふうと小さく息を吐くとベッドに横になる。

 天井をぼんやりと眺めて目を閉じた。 流石にイベント戦の直後なので脳が疲れているようだ。

 眠くてたまらない。 少しだけ寝よう。 食事や必要な時間になれば脳内チップのアラームで強引に叩き起こしてくれるんだ。 他にも考える事はあるが、目を閉じたら思考がぐにゃぐにゃと形にならない。 睡魔が思考を侵食している。


 これはどうにもならないなと判断してさっさと眠ってしまおう。 そう判断して意識を手放した。



 ログイン。 嘉成からヨシナリへ。

 ユニオンホームにアバター状態で現れたヨシナリが真っ先に確認した事はユニオンメンバーのログイン状態だ。 全員がログイン状態。


 何をしているのかなと確認するとマルメルとグロウモスはトレーニングルームで戦闘中。 

 どうやら模擬戦を行っているようだ。 シニフィエ、ホーコートはランク戦。

 ふわわは自室にいるようだ。 ちょうど暇そうなので模擬戦に誘おうかとも思ったが、それよりも早くメールが来ていた。 何だと確認すると――その内容を見てヨシナリは小さく笑う。


 「ちょうどいい。 どこかのタイミングで話を持って行こうと思っていたんだ」


 ヨシナリは返事のメールを送り、別の相手にも似た内容のメールを送った。


 「やるか」


 ヨシナリはこれから何をするべきかを頭の中で纏め、指定の場所へと移動した。

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