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第419話 模擬戦『星座盤』⑬

 開始と同時にグロウモスがビルへ上り、スコーピオン・アンタレスを即座に構える。

 ヨシナリは上空へと向かうが捕捉したグロウモスが狙撃。 当然ながらヨシナリはあっさりと躱す。


 「えらいせっかちやなぁ……」

 「ですねぇ。 グロウモスさんは攻め急いでいるような印象を受けます」


 ふわわとシニフィエは小さく首を傾げる。 

 グロウモスの性格上、位置取りを意識すると思ったのだが、今回は二の次で直接狙いに行った。 

 焦っているとも取れる攻めだが、何か意図があるのだろうかと見ているとグロウモスは更に撃ち込む。


 ヨシナリは全てを回避し撃ち返そうとしたが――それよりも早くグロウモスが次弾を発射。


 「これ、まさかとは思うけどあのまま押し切って正面から捻じ伏せるつもりなんじゃねぇか?」

 「や、多分やけどそれ正解やと思う。 グロウモスちゃんめっちゃ飛ばしてるし」

 「しかもお義兄さんの攻撃の出掛かりを潰してますね」


 逃げ隠れしても捕捉されるのが目に見えているのでポジショニングを捨てて正面から殴り倒しに行ったのだ。 ヨシナリ相手の作戦としては有効だろう。 

 傍から見れば開き直っている、もしくは割り切っているように見えたが、よく見れば彼女なりに考えている事がよく分かる。 闇雲に撃ちまくっているのではなく、上手くヨシナリの攻撃の起点を潰しているのだ。 


 「これ、ヨシナリ君やり難いやろうなぁ」

 「でしょうね。 銃を構えようとしたタイミングで撃たれるから上手く射線を取れない。 しかも起動で攪乱しようにもグロウモスの狙撃精度だと回避に集中しないと一発で落とされるから逃げに徹するしかない」

 「あ、あの、これってどうやったら先輩が勝てるんスかねぇ?」


 ホーコートの質問に全員が僅かに沈黙。 


 「ウチとしては掻い潜っての接近戦かな?」

 「ですかねぇ。 グロウモスさんの狙撃精度は凄まじいですが、近接ははっきり言って微妙なので不得手な距離に持ち込むのが最良かと。 お義兄さんには例の大剣がありますから尚更ですね」

 「俺としては下手に近寄ると何かありそうだから地形を上手く使って射線切りつつ中距離戦に持ち込むな」

 「でも、グロウモスちゃんのアレって障害物を普通に貫いてくるやん」

 「ヨシナリなら射線の見極め早いと思うんで、割と余裕を持って躱せるんじゃないかと思ってます。 付け加えるならスコーピオン・アンタレスとヨシナリのアシンメトリーなら後者に攻撃の回転に分があるので手数で押し切れるかと」


 何の気なしにした質問だったのだが、全員からかなり具体的な意見が出た事でホーコートは思わず小さく息を詰まらせる。 この辺りが自分と彼等の差なんだろうなと自覚しており、劣等感が身を焼くが何かに抑制されるように感情が沈静化。 冷えた思考でホーコートは思う。


 そう自分はこのユニオンで最も劣っているのだ。 つまり最も努力しなければならない。

 今の自分に必要なのは努力と経験を積む事だ。 他のメンバーの戦いをしっかりと見て自らの糧とする。 それこそがホーコートに最も必要な事だと彼は信じていた。


 ――そしていつか活躍するんだ。


 華々しく活躍する自身の姿を幻視してホーコートは自らを奮い立たせた。

 彼がそんな事を考えている間にも戦闘は続く。 



 二人は下手な小細工をせずに正面から殴り合う事にしたようだ。 

 ヨシナリは軌道で振り切らずに上空に留まり続け、グロウモスもビルの屋上から動かない。

 序盤はグロウモスが一方的に撃ち込む流れだったが、徐々にヨシナリの回避から無駄が消え始めていた。 それにより回避と同時にアシンメトリーで撃ち返す。 


 グロウモスは最小の動きで回避し、即座に応射。


 「あぁ、これはもう普通に勝負するんやなくてこの体勢で捻じ伏せるつもりやなぁ」


 ふわわの言う通りでグロウモスが初手で身を晒した時点でヨシナリはその意図に気付き、勝負に乗ったのだ。 ヨシナリ、グロウモス共に撃ちながら躱し続け、戦場を俯瞰で見れば二点から光弾や実弾が飛び交う凄まじい光景となっていた。


 グロウモスは横に数歩移動して躱しつつ射撃、足元にも意識は行っている様でビルの淵に追いつめられば隣のビルに飛び移りつつ射撃を継続。 ヨシナリも推力偏向ノズルとエネルギーウイングを噴かし、機体を小刻みに振って躱す。 


 「お互い、かなり集中していますね。 お義兄さんとかどんどん動きに無駄がなくなってますよ」

 「やねぇ。 そろそろ決着は着きそうやけど――まぁ、見えてたなぁ」


 攻撃の回転自体はグロウモスの方が上だったが、回避にリソースを多く割いているのも彼女だった。 

 明らかにヨシナリの方が動きに無駄が少なく、徐々にだが追いつめ始めている。

 グロウモスも頑張ってはいたが、動きの精度――正確には最適化はヨシナリの方が遥かに高い。


 そう言えばとふわわは思い出した。 ヨシナリの訓練風景をだ。

 彼は無心で的に銃弾を撃ち込んでいた。 彼の技能向上は反復練習によるものだ。

 同条件でより良い結果を齎し、それを体に染み込ませる訓練。 


 この状況はそれに近い。 ヨシナリはグロウモスの動きに適応し始めたのだ。

 それはグロウモスも自覚している様で徐々に焦りが見え始めていた。

 攻撃よりも回避に割く時間が増え始め、気が付けば逃げに徹する形になっている。


 「あー、もう見切られ始めたなぁ」

 「うわ、ヨシナリの奴、逆に攻撃の起点を潰し始めたぞ。 スコーピオン・アンタレスのデカさがだんだん邪魔になってきてるな」


 マルメルの言う通りで、スコーピオン・アンタレスはかなり大型の銃だけあって構えてから狙いを付けるまでの間に若干のタイムラグがある。 ヨシナリはそこを的確に狙って潰しにかかっていた。

 グロウモスはその後も粘りはしたが最終的には一方的に撃たれるだけとなり、最後は逃げ切れずに撃ち抜かれて撃破。 試合終了となった。


 「いや、無心で躱して撃つのを勝負でやるのはあんまり経験なかったからちょっと新鮮だったな」


 戻って来たヨシナリは小さく伸びをする。 グロウモスはうーんと考え込むように俯いていた。

 何かをブツブツと言っているような感じもしないのであまり引き摺っている様子はない。


 「いや、マジで凄かったぞ。 最初は割と大きな動きで躱してたのに最後なんてほとんど動いてなかったじゃねぇか」

 「まぁ、その辺は感想戦でやるとして最後だ。 マルメルもグロウモスさんも頑張ってください!」


 ヨシナリはそう言って最後に残ったくじを引いた。

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