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第420話 模擬戦『星座盤』⑭

 最終戦。 マルメルとグロウモスの戦いとなるが、果たしてどうなるのか――


 「マルメル君、最近頑張ってるみたいやし何か対策練ってるんかなぁ?」

 「ここ最近、二人で模擬戦やってるのを何度か見かけたので、何かしらの対策は練っているでしょうね」


 マルメルは本当に頑張っていた。 

 空いているメンバーが居れば積極的に模擬戦を申し込み、感想戦にもかなり力を入れている。

 ヨシナリも何度か相談されていたので、やる気は伝わってきていた。


 「そうなんですか? 申し訳ないんですけど、マルメルさんは安定感はあっても突き抜けて強い印象がないのであんまり勝てるビジョンが見えないというか……」

 「お、俺は単純に距離的な不利があるから厳しいと思うっす」


 シニフィエは先入観、ホーコートは装備を見比べての予想だ。

 だが、言い切らないのは今回の戦績が彼女達の想像を超えていたからだろう。

 一勝一分け。 現在、無敗なのだ。 特にふわわに勝った事は大きい。


 ヨシナリとしてもあっさりとはやられないだろうと思っていたがまさか引っ繰り返すとは思っていなかった。 新しい機体も自分なりの解釈で強化してここまで来ているのだ。

 強さに対して貪欲なスタイルはヨシナリからすれば非常に好ましい。


 だから、今回も不利、厳しいといった意見を引っ繰り返す何かを見せつけてくれる。

 そんな期待を抱かせてくれるぐらいには今のマルメルは強かった。

 ウインドウの向こうで最終戦が開始され、両者が弾かれたように動く。


 ヨシナリ、ふわわと二連敗しているグロウモスとしてはここは勝っておきたいと思っているのか、動きにやや焦りが見られる。 対するマルメルはいつも通り、直線加速を活かして距離を詰めに行く。

 ここまでは見慣れた光景だが、マルメルが見慣れない行動を取った。


 アノマリーに取り付けている榴弾砲の弾を変えたのだ。 


 「このタイミングで変えるって事は煙幕か何かか?」


 ヨシナリが呟くと同時にマルメルは榴弾をポンポンと小刻みにばら撒くように飛ばす。

 こうして見ると榴弾の飛ばし方が上手い。 弾の飛び方も意図している感じがするので、狙った位置に正確に落としている。 即座に爆発し熱と衝撃の代わりに重たい煙が広がった。


 「チャフスモークか」

 「何それ?」

 「あぁ、煙だけじゃなくて金属片も一緒にばら撒いてレーダーやセンサー系を潰す装備ですね。 効果時間はそんなに長くないんで、割と使いどころの見極めは要る代物なんですが序盤からばら撒くって事は早々に決着を着けに行くつもりなのか……」


 嵩張るのでそこまで大量に持ち込めないはずだ。 

 それをここまで景気よくばら撒くという事は通常の榴弾は持ってきていない?

 完全に目潰しに使うと割り切ったとみていいだろう。 グロウモス相手には賢い手だった。


 彼女は捕捉してからのエイムが異様に早い。 

 だったら捕捉させなければいいという考えは合理的だ。 だが、視界が利かないのは相手に限った話ではない。 グロウモスはマルメルの意図を読んで機体を変形させ、即座に移動を開始。


 視えないのは分かっているのだ。 スモークが効いている間に接近してくるのは目に見えている。

 ドローンを用いて観測を試みてはいるようだが、煙に入られると発見は困難だ。

 この状況で彼女の取れる手はあまり多くない。 近~中距離でマルメルの相手は自殺行為なので、接近は出来ない以上、煙が晴れるまで逃げ回るか――


 「どうにかして居場所を割り出すかの二択」


 チャフはスモーク程長持ちしないので煙が晴れるより早く効果が落ちる。

 そこを狙い撃つ。 ヨシナリがグロウモスの立場ならなるべく相手の意表を突きたいと考えるのでこれを狙う。 グロウモスも早々に仕留めるつもりなのか、ヨシナリ達の見ている先で機体を変形させ、スコーピオン・アンタレスを構える。 どうやら発見したようだ。


 「あれ?」


 ふわわが小さく首を傾げる。 何故なら観戦者には両者の位置が正確に分かっているからだ。

 発射。 捕捉からエイムまで二秒もかかっていない。

 高出力のエネルギー弾がビルを貫通してマルメルが居るであろう場所を撃ち抜く。


 『?』


 手応えのなさにグロウモスは思わず首を傾げるが、自分が何を射抜いたのかを直ぐに悟って移動。

 僅かに遅れて薙ぐように銃弾が彼女の居た場所を撫でる。

 マルメルだ。 しかも位置は彼女の背後。 さて、何故そんな事が起こったのか?


 「あいつ、色々と持ち込んでるなぁ」


 ヨシナリは苦笑してグロウモスが射抜いた物へと映像をフォーカスする。

 そこには破壊されたドローンと散らばった布のような物。 囮用のドローンだ。

 地面に近い位置を飛行して内部に格納されたダミーバルーンを熱で膨らませるといった気球に近い物で目視は勿論、普段なら簡単に見破れるレベルの代物なのだが、チャフスモークで感度が低下している状態で見分けるのは難しかったようだ。 加えてマルメルがこんな絡め手を使う事は想定しなかったのだろう。


 そういった意味でも騙されたようだ。 


 「マルメル君、今回は仕上げて来たなぁ。 グロウモスちゃんの弱点もしっかり研究してきてるやん」

 「ですね。 グロウモスさんは基本的に狙撃で追い込むスタイルなので逆に追い込まれると脆さが出ます。 特にリズムを崩された状態で畳みかけられてって流れで割と負けるのでマルメルの奴、相当研究してきてますね」


 これまでの三戦でマルメルは徹底して個々人に合わせた戦い方を徹底していた。

 ヨシナリとの戦いではタイミングの取り方と射撃精度、ふわわ相手は間合いの維持、グロウモス相手では死角を作る事を意識しているようだ。


 「俺も今回に備えて色々と考えてきたつもりでしたが、マルメルはそれ以上に本気ですね」

 「やねぇ。 いや、見直したわ」


 感心するヨシナリとふわわ。 

 立ち回りの上手さにシニフィエとホーコートも口を閉ざすしかなかった。

 追いかけ回される状況を不味いと判断したグロウモスはちらりと消えかけているスモークを一瞥。


 もう十数秒も保たないだろうが僅かな間でも攪乱できるならと利用する事にしたようだ。

 煙の中へと飛び込む。 マルメルは構わずアノマリーを連射しながらその後を追う。

 マルメルは直線加速には優れているが小回りが利かないので、ビルの隙間を縫うように移動するグロウモス相手に徐々に距離が開き始める。

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