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第425話 次のイベントに向けて

 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。 ふうと小さく息を吐き、ベッドで横になる。 

 ウインドウを操作してICpwの公式ページを開くと次回のイベント案内について触れられていた。

 案の定、次回はユニオン対抗戦だ。 三回目となるとルールに関しては軽く見るだけで問題ない。


 見た所、大きな変化もない――本戦は他の試合の観戦ができなくなるという意味不明な変更が加えられているが、特に気にする必要はなかった。 

 前回、前々回と変わらずに一つのユニオンに付き三チームまで出場可能。

 一チーム十名まで。 今回はいい成績を残そうなんて日和った考えはない。


 何故ならユウヤとベリアルが参加を約束してくれたからだ。 

 つまり今回の目標は優勝。 あの大会の頂を目指す。 

 シニフィエ、ホーコートと二人の追加メンバーにあの二人いるので戦力的に充分狙える。 


 マルメル、ふわわ、グロウモス、シニフィエ、ホーコートにユウヤとベリアル。

 それに嘉成を加えて八名。 加えて――嘉成は別のウインドウを開いた。

 呼び出したのはメールの受信箱。 そこには一人、限定加入の助っ人枠に入りたいというプレイヤーからの連絡があった。 少し意外な相手だったが、理由を聞いて納得したので受け入れたのだ。


 これで九名。 枠が一つ余っているが、これだけ揃っていればいなくてもそこまで大きな問題ではない。 機体の強化、個々の技量向上、連携訓練も抜かりなく行っている。

 特に個人技に関してはさっきの模擬戦でよく分かった。 全員のレベルが大きく上がっている。


 ふわわ、シニフィエは特にいう事はなく、ホーコートも僅かながらも成長の兆しを見せている。

 グロウモスも戦い方が大きく変わっており、安心して後ろを任せられるだろう。

 何よりマルメルの成長が特に顕著だった。 いつの間にかあそこまで強くなっているのは嬉しい誤算だ。 そして、ユウヤ、ベリアルも機体のアップグレードが済んだので更なる力を手に入れている。


 ――結構な額を投資した甲斐があったな。


 見返りを求めていた訳ではなかったが、結果的にユウヤからは大剣イラ、ベリアルからは特殊ジェネレーター『パンドラ』を手に入れた。 代償に資産の大半を失ったが些細な問題だ。

 機体、仲間、武器と勝つ為に必要なものは揃った。 後は今の手札を更に使いこなす事に専心し、本番を迎えればいい。 


 さてと考えが一段落したのでいつも利用しているニュースサイトを開く。

 面白そうなニュースはないかと見出しを眺める。 目を引いたのは――


 『月面の採掘に日本地区の大企業が参加』

 『太陽系外縁の開拓の為に開拓船団が本日出発。 成功すれば人類は大きな一歩を踏み出す!』

 『アフリカ地区のテロリストが一部包囲を突破し、逃亡。 現在捜索中』


 最初のニュースは月面の資源採掘なのだが、人類が月面へ自由に行き来できるようになってからそれなりの時間が経過していた。 だが、採掘作業が本格化したのは割と最近の事だったりする。

 どうも地区毎に開発競争があるのかは不明だが、中継基地の建造を優先したらしい。


 その為、半世紀以上が経過している今になってこうして採掘や開拓が本格化したのだ。

 今回の参入企業に関してもあまり珍しい話ではなく、他地区の企業が次々に名乗りを上げて鉱物やエネルギー資源を掘りまくっているとの事。 資源は有限、掘りつくしたなら新しい鉱脈を見つけなければならない。 人間が生きていく上で何かを消費する必要がある以上、永遠について回る問題だ。


 その問題がある程度ではあるが解決するのならいい事なのではないだろうか?

 嘉成はそんな事を考えて次の記事に画面を切り替える。

 太陽系外縁部。 それなりの回数調査隊などを送っているのだが、事故が多くそれによる死者も多い。 行って帰ってこなかった人間は千や二千では利かないだろう。


 その為、貴重な宇宙飛行士や訓練を積んだ人間をそんな危険な任務に従事させるのはどうなんだと、突き上げを喰らっているが国の方針としては止める気はないようだ。

 動画を再生すると反対のプラカードを掲げた民衆が声を張り上げており、これから長い旅に出る宇宙飛行士や軍人が次々と宇宙船へと乗り込んでいく。 前者はにこやかに手を振っており、後者は無表情だが緊張しているのかやや表情が強張っていた。 まるでこれから死刑台にでも登る囚人の様だった。


 事故も多いという話だし、下手をすれば家族と二度と会えなくなるのだ。

 あんな表情にもなるか。


 カメラが引かれて宇宙船に次々と巨大な貨物コンテナが搬入されていく。

 十メートル前後の縦長のコンテナだ。 反対運動をしている活動家達が中身を見せろと騒いでいる。

 建築資材や生活物資か何かではないのだろうか? そう言えばなんだか馴染のあるサイズ感だなと思ってコンテナを見て記憶を探るとトルーパーがあれぐらいのサイズだったなと荒唐無稽な事を考える。


 実はあの連中は宇宙生物と戦いに行く為の戦士とか? 

 だとしたらあの悲壮感すら感じる表情にも納得だ。 そこまで考えて笑う。


 「おいおい、ロボットアニメの見すぎだろ」


 小さく呟いて動画のバーをスクロールさせて飛ばし、宇宙船の打ち上げ場面を見て動画を閉じた。

 最後の記事だ。 南アフリカで抵抗を続けるテロ組織の一部が軍の包囲を突破して姿を消したらしい。 記事によると南アフリカから北上してスーダン――エジプト地区の辺りで完全に見失ったようだ。 割と前から触れられている話だが、嘉成からすれば結構粘るなといった乾いた物だった。


 大陸の端に追いつめられ、首謀者が囚われるのも時間の問題といった記事も見ていたので突破したのは意外といえる。 何がしたいのかは今一つ理解できないが、物騒だなと思いながら記事を閉じた。

 その後、課題を片付け、試験対策を行い、やる事がなくなったのでぼんやりと天井を眺める。


 考えるのはやはりICpwの事だ。 我ながら嵌まっているなぁと思いながらも止められない。

 目を閉じるとさっきまでのプレイが色鮮やかに蘇る。 小さく笑い、目を閉じて眠りに就こうとしたのだが――


 「……うーん。 眠れない」


 今日はしっかりと楽しんだんだ。 続きは明日にでも楽しもう。

 そう言い聞かせて少し力を込めて目を閉じるが――


 「駄目だ。 さっぱり眠れない」


 ヨシナリは小さく頷くと脳内チップを操作し、ICpwを呼び出す。

 ちょっとだけ、ちょっとだけだから。 ランク戦をやってると眠くなるから大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせてログイン操作。 意識はそのままゲームの中へと落ちて行った。

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