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第426話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選①

 一週間という期間は思った以上に短い。 

 ユウヤ、ベリアル、そして助っ人の参戦によって『星座盤』は九枠まで埋める事が出来た。

 ほぼフルメンバーだ。 当日となった今日、ユニオンホームにはメンバーが全員揃っていた。


 ヨシナリがぐるりと周りを見回すとメンバーが出発の時を今か今かと待っている。

 マルメルが肘で軽く小突く。 


 「ささ、リーダー。 ここで気合が入る言葉を頼むぜ!」


 ヨシナリは小さく息を吐く。 この一週間でやれる事は全てやった。


 「今回で三回目の参戦となります。 今回は優勝を狙っていく。 マルメル、今日も頼むぜ」

 「任せとけって!」


 マルメルはどんと胸を叩いて大きく頷いた。

 ヨシナリは順番にメンバーに声をかけていく。


 「ふわわさん。 頼りにしています」

 「うん。 頼ってくれてええよ?」


 ふわわは小さく笑う。


 「グロウモスさん。 背中は任せます」

 「ふ、ふひひ、ま、任された」


 グロウモスはにちゃりとした笑みを見せるがヨシナリは努めて気にしない。


 「シニフィエ、ホーコート。 頼むぜ」

 「はい、頼まれました。 頑張ったらご褒美を期待したいですね」

 「うっす。 頑張ります!」


 シニフィエは自然体で、ホーコートはやや緊張気味に何度も頷く。

 そして――


 「――闇の王よ。 今がその時と捉えて良いのだな?」

 「あぁ、戦友よ。 貴様の齎した贄によって我がプセウドテイは新たな心臓を得た。 それにより我が闇は更なる深淵に至ったと言えよう。 任せておけ、我が掌中に眠る圧倒的な闇はこの現実すら歪める混沌カオスとなる」


 つまり強くなったから期待してくれていいと言っているようだ。


 「また、一緒に戦えて嬉しい。 ――共に勝利の美酒に酔おうではないか」


 ベリアルはあぁと小さく笑う。 

 最後にユウヤへと振り返る。


 「今回は力を貸してくれるって事でいいんだよな?」

 「あぁ、お前にはアルフレッドの修理費用を負担してもらった借りもある。 ――それにこの厨二野郎が敵で出ないなら大抵の奴はどうにでもなる。 落ちてる金を拾いに行くのも悪くない」

 「ふ、煉獄の化身よ。 貴様と肩を並べる事になるとは、な。 運命とは数奇な物よ。 だが、我が闇を最も苦しめた好敵手、貴様との共闘を想うと心が躍る。 この集いし星々と共に勝利の美酒が波打つ聖杯を手に入れようではないか!」


 ユウヤに評価されてちょっと嬉しいのかベリアルは肩をポンと叩き力強く頷く。


 「……お、おう。 足を引っ張んなよ」

 「任せておけ」


 ユウヤはベリアルの反応にやや引き気味だが、共闘すると頼りになる事は理解しているので手を組む事自体には乗り気のようだ。 


 「――で? 最後の一人は何処だ?」


 マルメルは助っ人が気になるのかキョロキョロと周りを見回す。


 「あぁ、向こうで合流する手筈になってる。 所属はウチになっているから移動したら居ると思うぞ」

 「どんな奴なんだ? 強いのか?」

 「実力に関しては申し分ない。 合う合わないは何とも言えないけど器用なタイプなのであんまり心配していない」


 気になる様子のマルメルにそう返し、フィールドへの入場許可が出たので全員で移動の準備に入る。


 「向こうでの動きは頭に入っているな?」


 予選での動きに関しては既に全員と共有済みなので否定の声は上がらない。


 「よし、じゃあ行きますか! まずは予選突破! 気を抜かずに行くぞ!」


 全員が応と拳を振り上げ、フィールドへと移動。 もはや三回目なので見慣れたフィールドに降り立った。 位置はやや高い山の山頂付近で見通しはかなりいい。

 全員の機体が揃ってはいるが、一機だけ見慣れない機体が居た。


 「やぁ、今日はよろしく頼むよ」


 エンジェルタイプの上位互換、アークエンジェルタイプ。

 大型のエネルギーウイングと背面にブースター。 武装はエネルギー、実弾の撃ち分けができる突撃銃。 後は使い捨てのパンツァーファウストが腰にマウントされており、背には筒状のミサイル発射管と肩には四連発のミサイルポッド。 脇には大型の自動拳銃が左右に二挺吊ってある。


 「えぇ、よろしくお願いします。 こき使わせて貰うので覚悟しておいてくださいね?」

 「はは、お手柔らかに頼むよ」


 プレイヤーネーム『タヂカラオ』。 

 所属は『思金神』なのだが、今回の参戦に伴って一時的に籍を移している。 

 彼が参加する経緯なのだが、数日前に連絡があったのだ。 内容は次のイベントに助っ人枠で参加させて欲しいと。 理由を尋ねると三軍から落ちたのでイベントへの参加資格を失ってしまったとの事。


 模擬戦でヨシナリ達に負けた事でユニオン内での立場が一気に悪くなり、折角手に入れたジェネシスフレームも没収されたので、以前まで使っていた機体での参戦となる。

 どうやらユニオンマスターのタカミムスビと約束をしたらしい。 この大会で優秀な成績を収めたのなら三軍復帰を検討するとの事だった。 その為にはどうにか参加しなければならない。


 大手のユニオンでも良かったのだが、いきなり臨時で入った新参をメンバーに加えてくれるのかも怪しく、弱小だと予選で沈みかねない。 考えたタヂカラオはヨシナリ達に目を付けたのだ。

 『星座盤』は二回とも本戦出場の実績のある強豪ではあるが人数が少ない。 つまり自分をメンバーに入れてくれる可能性が極めて高いと判断した結果なのだ。


 正直、ヨシナリとしては変な勧誘して来る迷惑な人物という先入観もあって少し苦手だったが、実力自体は本物なので是非とも欲しい人材だった。 選り好みしている余裕もないので、迷いはしたがよろしくお願いしますと彼の差し出した手を握ったのだ。


 「あ、『思金神』の人やん。 機体が違うけどどうかしたん?」

 「はは、君達に負けた事で僕にはジェネシスフレームを扱うには実力が足りないと判断されて没収されてしまったよ。 まぁ、それでもアークエンジェルタイプなので役には立てると思うがね?」

 「お仲間と当たるかもしれへんけどええの?」

 「寧ろ望むところだね。 タカミムスビさんは我々には淘汰圧が必要とか言っているので味方同士で潰し合う形で高め合うのは寧ろ望ましいと思っている節がある。 僕個人としてもあの人の判断が間違っていたと証明する意味も含めて是非とも叩き潰してやりたいと思っているよ」


 にこやかに話しているが言葉の端々に微かな怒りが乗っている点からも信用はしても良さそうだ。

 少なくともこいつは仲間が相手でも容赦なく撃てる。 そう確信できる反応だった。

 正直、ヨシナリとしてはそういう熱い感情は好感が持てる。 理由はどうあれ、ゲームを真剣にやれる相手は大歓迎だ。 タヂカラオの紹介をしている間に開始のカウントダウンが始まった。

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