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第428話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選③

 ――なるほど。


 タヂカラオは内心で小さく納得する。 自分はヨシナリという人間を見誤っていたようだ。

 指揮官向き、視野が広い、合理的な思考。 彼に対するタヂカラオの感想はそんな物だった。

 こうして内側に入り、味方としてヨシナリを見ているとその認識が少しだけ誤っていた事を悟る。


 彼の原動力は勝利であり、それに対する執着だ。 その為には自身に可能なあらゆる手を打つ。

 だから、どんな相手であろうとも味方と認識すれば徹底的に使おうとする。

 タヂカラオに指揮を任せたのは自分が遊撃手として動き回る為に全体を見れるかの確認作業だったのだろう。 つまりは自分の仕事をどこまで肩代わりさせられるかの見極めだ。


 あまりいい感情を抱かれていない自覚はあるが、そんな相手であっても個人的な感情を排して全力で使い倒そうとしているその精神は素直に尊敬に値する。 恐らくその不撓不屈とも呼べる意志こそが、タカミムスビの求めたプレイヤーの在り方なのだろう。 タヂカラオはぐるりと視界を回して味方を一瞥。


 『星座盤』。 少人数の弱小ユニオンと思われがちだが、かなりの粒揃いだ。

 リーダーのヨシナリは言うまでもなく、指揮だけでなく空戦機動や特殊な武器の扱いにも長けており、当初は堅実な印象を受けたが応用力も高いので非常に高いレベルでバランスの取れたプレイヤーと言える。 指揮、戦闘、偵察、攪乱と大抵の事を一人でこなせる万能型の能力は居るだけでチームの総合力を引き上げるだろう。 


 だからこそ無理をしてでも欲しかったのだが、気が付けば下に着いているのは皮肉な話だった。 

 そう考えて苦笑。 


 笑ってしまうのは狙っていた相手の下、それも自分よりも低いランクの傘下に一時的とは言え収まった事に不快感を感じなかった事だ。 敗北した事により三軍落ちしたタヂカラオはこのイベントの参加資格を失った。 その為、タカミムスビに自分の価値を認めさせる為にも分かり易い成果が必要だったのだ。 このイベントはある意味、渡りに船とも言える。


 参加するに当たって何処に混ざるかを考えたのだが、真っ先に『星座盤』が浮かんだのは自分でも驚きだった。 だが、こうして参加してみるとその選択が間違いではなかったと思える。

 この戦いを終えた時、結果に関わらず自分は少しだけ成長できる気がしたからだ。


 「次、来ました! タヂカラオさん。 よろしく!」

 「はは、まったく、人使いの荒い男だな君は!」


 そう返しながら共有されたセンサー系が敵の存在を捉える。


 ――個人的な感情はさておき、他人に全力で頼られるというのは思った以上に気分がいいな。


 少なくともヨシナリはタヂカラオの事を信用しているのが伝わってくる。

 乗せるのが上手い奴だなと思いながら今後の参考にしようと笑みを深めてレーダー表示で敵の数と布陣を確認。 合計で二十機。 一部のユニオンが結託して向かってきたようだ。

 エンジェルタイプ四、ノーマルキマイラ三の七機が空中。 残りは地上。


 地上は今のメンバーならどうにでもなるだろう。 なら自分の役割はヨシナリの援護だ。


 「基本はさっきの要領で行こう、グロウモス君が先制。 僕がミサイルをばら撒いて敵を引っかき回す。 後は同じだ。 数が違うだけでやる事は変わらない。 ただ、僕はヨシナリ君の援護をするので、支援はあまり期待しないでくれ給えよ?」


 「……私はどっちの援護に集中するべき?」

 「空中は僕とヨシナリ君でどうにかするのでグロウモス君は数を減らす事に専念してくれたまえ」

 「了解」


 ――良いチームだ。


 ヨシナリの能力とふわわの近接スキルが目立つが他のメンバーも充分に優秀だ。

 まずはマルメル。 中距離専門という事でやや使い勝手が悪いかといった先入観があったが、そんな事は全くなかった。 制圧射撃に加えて、さっきの動きを見るとカバーに入るのも上手い。


 攻撃もそうだが、味方の退路を確保する役割も担っており、攻守に渡ってチームを支える縁の下の力持ちだ。 グロウモスは狙撃の腕は素晴らしく、当てられると断言する場面では必中と言っていい。

 指示にも即応してくれるので、動かす分にも手間がかからないのはありがたかった。


 シニフィエはふわわほどではないが優秀な近接スキルを持っており、周囲も視えている。

 ふわわに合わせてしっかりと動けているのでこちらもあまり心配する必要はない。

 残りのホーコートだが彼に関してはランク相応といった技量だった。


 お世辞にも強いとは言えないが、使えないレベルではないのでフォローすれば充分に戦力として機能する。 ただ、自分の指揮は予選のみに留め、本戦ではヨシナリに任せるべきだろう。

 理由は残りの二人――ベリアルとユウヤの存在だ。 彼等に関してはタヂカラオでは手に余る。


 間違いなく、彼等は言う事を聞かないだろう。 

 そんな彼等をメンバーに引き入れたのはヨシナリなので、彼の言う事なら聞くと見ていい。 


 ――それにしてもあの二人を手懐けたのは凄まじいね。


 Aランクの中でも上位に入る実力者だが、気性の所為でどこのユニオンにも所属していなかった。

 タカミムスビが何度も勧誘したが、残らず袖にされたのは割と有名な話だ。

 どちらも一匹狼だったはずだが、こうして参加しているので何らかの手段で懐柔したのだろう。


 ユウヤに関しては不明だが、ベリアルに関しては二人の会話を見れば明らかだ。

 人は目的の為ならば恥を捨てる事ができる。 それを体現したヨシナリに尊敬の念を禁じ得ない。

 凄まじくハイレベルな会話だった。 タヂカラオも今後の参考にと横で聞いていたのだが、半分ぐらいしか理解できなかった――いや、理解する事を脳が拒んだのかもしれない。


 タヂカラオにも少年だった時期はあった。 漫画やアニメに嵌まった時期も勿論存在する。

 今も見る量こそ大きく減った上、ジャンルが絞られたが嫌いではない。

 だが、あの会話――ベリアルと同じ領域に立って物を語るのは不可能だと悟る。


 タヂカラオの語彙では闇の王とやらを満足させる会話はまず無理だ。

 恐らくだが、ベリアルを仲間にできるのはヨシナリだけなのかもしれない。

 真似すれば間違いなく途中で笑いか照れが入る。 そうなればベリアルからの心証はかなり悪くなるだろう。 彼からの信頼を獲得するには真剣にあのレベルの会話をしなければならないのだ。


 ――流石だ。


 タヂカラオは目の前を飛ぶヨシナリに心からの経緯と尊敬を抱いた。

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