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第429話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選④

 エンジェルタイプが急旋回をかけて背後に回ろうとしてくるが、軌道上に銃弾が通り過ぎる。

 タヂカラオの仕業だ。 旋回を途中で止めた事で動きに乱れが生まれる。

 その際にできた隙を逃さずにアシンメトリーで一撃。 


 肩越しに小さく振り返るとタヂカラオは油断なく、他の敵機の動きに注意している。

 同時に地上にも意識を割いているようだ。 上手い。

 Aランクだけあってプレイヤースキルが非常に高く、変にスタンドプレーに走らずに自らの役割に徹している点もチーム戦に慣れている様子が伝わってくる。


 ベリアル、ユウヤの同時参戦でも充分に優勝を狙える戦力だったのだが、このタイミングで入ってくれたのはありがたい。 機体はジェネシスフレームではないが、技量が落ちる訳ではないので背中の心配はしなくて大丈夫そうだ。 本音を言えばヨシナリ達が原因で今の状況になったので思う所がない訳ではないのかと見ていたが、動きを見る限りは信用しても大丈夫そうだった。


 「ヨシナリ君、上下に散らす。 狙い易い方に仕掛け給え! 残りはこちらで受け持つ」


 タヂカラオが両肩のミサイルポッドから数発のミサイルを発射。 ヨシナリのセンサーシステムにミサイルの詳細が表示されたのを見て、なるほどと意図を理解する。

 大半は通常のホーミングミサイルだったが、一部に閃光弾が混ざっていたようで敵機は回避をしつつ咄嗟に顔を庇ってセンサー系を守る。 事前に混ざっている事は分かっていたのでフィルターをかけて閃光防御を施していたので影響はない。 仕留め易そうな敵機――上昇した機体を次々と撃ち落とす。


 下を選ばなかったのは地上の森に逃げ込まれると面倒だったからなのだが、タヂカラオは推進装置を狙う事で墜落させての撃破をする事で労力を減らしていた。 エネルギーウイングの発生装置を正確に射抜く命中精度に先回りしつつ退路を塞ぎに行くポジショニングも秀逸だ。


 地上は地上でフィールドの端に陣取っているマルメル達が向かって来る敵機を片端から撃破している。 グロウモスを最奥に配置し、マルメル、ホーコートが左右で銃撃、ふわわ、シニフィエが前衛を務める形で敵を狩り回っていた。 ヨシナリは二人に突出しすぎるなと釘を刺しているので恐らくは大丈夫だろう。 地形も上手く利用しているのでそう簡単にやられる事はないはずだ。


 ――このまま行くと予選は問題なさそうだな。


 後は守りを固めて適当に減るまで粘れば行けるだろうと思っていたが、そうもいかないようだ。


 「はは、随分と人気者だね我々は。 いや、この場合は君達が、かな?」


 タヂカラオが小さく笑う。 

 シックスセンスが新しい敵機を捉えていたが問題があった。 

 数は三十。 ジェネレーター出力の反応を見れば機種は大雑把だが分かる。

 不味い事にジェネシスフレームが四機もいるのだ。 


 「えーっと? 『タヴォラロトンダ』『カヴァリエーレ』『ベクヴェーム』なんとまぁ、大き目のユニオンばかりだね。 定員割れを起こしている弱小相手に結託とは、随分とムキになっているな。 ヨシナリ君、何か心当たりは?」


 大ありだった。 全部、以前のイベントで当たった所だ。

 そして悉くラーガストに瞬殺された可哀そうな人達だった。 


 「全部前の対抗戦で当たった所ですね。 カヴァリエーレに至っては出くわすのは三回目ですよ」

 「ははは、全部で当たってるのか。 大方、二連敗しているから他と組んでも連敗を止めたいといった所かな? いやぁ、人気者は辛いなぁ!」


 タヂカラオは笑っているが、さっと周囲の状況を確認。 

 幸いにも他は片付いて地上も空中も一段落ついた所なので、彼等の対処に集中できるのは数少ない安心材料だ。 


 「ベリアル君とユウヤ君はどうかな?」

 「連絡はしたので来てはくれますが、割と離れているのでちょっとかかりますね」


 ヨシナリ達はフィールドの西端、ベリアルは東北寄り、ユウヤに至っては反対側の東で暴れているのであまり期待できそうもない。 


 「正面からは不利だね。 ヨシナリ君、君の考えを聞こう」

 「ここは地形を利用して削りに行きましょう。 単純に三倍の戦力差もありますが、ジェネシスフレームが四機もいる状況は厳しすぎます」

 「了解だ。 地上に降りるとしよう」


 接敵まで約30秒前後。 それまでにできる事をやるべきだ。


 「敵、三十機。 内、ジェネシスフレーム四機いる。 ベリアル達が来るまで早くて五分前後って所なのでそれまでは守りつつ削っていこう」


 ヨシナリは手短に状況を説明。 


 「聞こえてたぜ。 前に負けた連中の詰め合わせセットだろ? 俺達でも十分やれるって事を見せつけてやろうぜ!」

 「ええやん。 燃えてきた」


 グロウモスは無言で頷く気配。 ホーコートはやや緊張気味に武器をチェック。


 「ランカーですか。 どこまで通用するのか試してみたい物ですね」


 シニフィエはやや楽しげだ。 タヂカラオは高い士気に小さく笑みを浮かべる。


 「よし、やる気満々で俺は嬉しいよ。 来るまで時間内から手短に情報共有していこう」


 そう言ってヨシナリは知り得る限りの情報を早口に吐き出す。 

 『タヴォラロトンダ』のランカーはフィアーバとウィルの二人。 

 前者の機体は防御に比重を置いた機体『レジリエンス』。

 範囲を絞った代わりに防御性能を上げたシールドを多用する。 


 後者はスピード特化の近接機『ライトハーテッド』。

 多関節刃の変わった武器を使う。 


 『カヴァリエーレ』のランカー、コンシャス。

 機体は汎用性を重視した特化した性能こそないが、弱点のない『ヘヴストザイン』。


 『ベクヴェーム』のランカー、エーデ。

 機体は重装甲、重武装の『クーゲルシュライバー』。 

 ベクヴェームは大半がパンツァータイプなので、このタイミングで襲ってきたのは彼等の移動速度に合わせた結果だろう。


 ――以上、四機が特に注意するべき相手となる。


 「良く調べているね?」

 「ユニオン戦、イベント戦、将来のランク戦と当たる可能性は無数にあるので、基本的に一回でも当たった相手は次に備えて情報を集めてました」


 一応ではあるが、映像を見返して対策なども練っている。 

 完全初見であるなら情報収集に徹する必要があるが、それがない相手なのはありがたい。

 いや、徒党を組まれている時点でありがたくはないが、最低限の前知識がある状態で戦えるのでどうにでもなる。 


 ――よし、やるか。

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