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第431話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選⑥

 森を高速で進む五機のトルーパー。 その戦闘を走っているのは薄い黄色の機体。

 Aランクプレイヤーウィルの機体『ライトハーテッド』。

 障害物をまるで意に介さず、風のように木々の隙間を縫って進む。


 本来なら大きく回り込む形で『星座盤』の布陣しているであろう場所に向かう予定だったが、空中から降下したふわわの機体の着地地点が近かったので急遽方向転換して仕留めに行ったのだ。


 『気を付けろ! あの刀使い、刃を転移させて斬撃を繰り出してくるぞ!』


 コンシャスからの通信を聞いてウィルは内心で厄介な武器を使うと呟く。

 ここ最近までは転移を攻撃、または回避に使うプレイヤーはあまり多くなかったのでそこまで対策に力を入れる必要はなかったのだが、前回のフランスとの対抗戦で転移系の武装を装備した機体が多かった点からいい加減に力を入れる必要があると判断して彼女と相棒のフィアーバはセンサーシステムにシックスセンスを採用したのだ。 


 基本的にあのセンサーシステムに死角はほぼ存在しないのでフィルターなしで使用するのであれば文字通り何でも見通す事ができる。


 ――使いこなせればの話だが。


 使ってみて甘く見ていたと判断せざるを得なかった。

 フィルターなしで使用したシックスセンスから送り込まれる凄まじい情報ははっきり言って彼女にとってはノイズにしかならず必要に応じてフィルターを解除するという形で運用する事で折り合いを付ける事が出来た。 


 70%。 それがフィルターでカットした情報量だ。

 使わないもの、重複する情報を可能な限り排除した結果だった。

 これなら既存品を使えばいいのではないかという話になりかねないが、必要に応じて外せばいいのでこれで問題はない。 ウィルはフィルターの項目を呼び出して転移関係を探知できる機能のフィルターを解除。 これで転移の反応を事前に察知する事ができる。


 ベリアルの例もあって転移系の攻撃手段は非常に強力だ。

 文字通り音もなく死角から飛んでくる攻撃は間違いなく必殺と言える。

 だが、種が割れればチープなトリックでしかない。 転移には転移先を確定させるというプロセスが必要な以上、出現までに僅かなタイムラグが存在する。 


 そこをキャッチできれば見切る事は――


 センサーシステムが転移反応を検知。


 ――容易い!


 移動先に出現した刃を持っていたダガーで叩き落とす。 金属音。

 分割された刀身が済んだ音を立てて飛んでいく。 


 「舐めないで貰える? 来るのが分かってればどうにでもなるんだよ!」


 ウィルがそう吼えるが、彼女の仲間はそうでもなかったようだ。

 二機が両断されて爆発。 残りの二機は無傷だったが、動揺しているのか僅かに動きが乱れる。

 仕掛けてきたという事は近くに居るという事だ。 少なくとも転移先を確定させる為に探知範囲内に居るはず。 ウィルはシックスセンスの探知範囲を拡大――居た。


 正面、移動しながらだったので既に100を切っている。 


 「小細工なしって訳? 上等じゃない! やってやる!」


 腰のブレードを抜く。 柄の長さに対して刃部分は非常に短い。

 それもそのはずでこれが発振装置だからだ。 エネルギーで形成された鞭――刃が連なっているので蛇腹剣という珍しい剣を模したそれは見た目以上に伸びて相手に襲い掛かる。


 横薙ぎの一閃。 ウィルのブレードは木々をなぎ倒しながら真っすぐにふわわに襲い掛かる。

 実体剣よりもエネルギー式は障害物の影響を受け難いので、木々を無視した速度を出せるのだ。


 『おっと。 面白い武器を使うやん』

 「余裕を見せてられるのも今の内!」


 ふわわが跳んで躱したと同時にエネルギーの刃が消失。 

 一瞬遅れて再展開。 今度は上から叩きつけるように一撃。 

 この武器こそが彼女の機体を象徴する武装。 攻撃の回転速度では他の追随を許さないと自負していた。 消失から再展開までのタイムラグを利用して次の攻撃モーションに繋げる事で見切る事を困難にしている。 


 「先に行きなさい! ここは私一人で充分よ!」


 欠点としては攻撃範囲が広いせいで味方を巻き込みかねない事。 

 その為、彼女が本気で戦う時は味方機の存在は邪魔でしかない。

 事情をよく理解している僚機は小さく頷くと大きく迂回する形で先へと向かう。


 ちらりと空を見上げると曲線を描いて砲弾やミサイルが頭上を通り過ぎる。

 味方の支援射撃だ。 どうやら誰かしらを捕捉して仕留めにかかったのだろう。


 「お友達が心配?」

 『んー? そうでもないかなー。 ヨシナリ君いるし、大丈夫やない?』


 ウィルの質問にふわわは興味がないといった様子で返す。

 味方の事を信頼しているともどうでもいいとも取れる口調だが、やる事は何も変わらない。

 変に余裕がある事がやや不気味だが、ランクもマシンスペックもこちらが上なのだ。


 ――さっさと仕留めて次に行く!


 ウィルは全力で目の前の敵を屠る為に武器を振り上げた。



 ――流石はランカー。 面白い。


 ふわわは内心で良い相手と当たったと喜んでいた。

 武器は蛇腹剣だが、エネルギー式なので振った後に消して再展開する事で攻撃後の隙を消している。

 振り回し方は鞭のそれだが、かなり上手に振り回す。 障害物である木々が邪魔になる事を活かして、横に振った後、上に躱させての振り下ろし。 流石に分かり切った攻撃なので躱すのは難しくない。 


 ――そろそろかな?


 このウィルというプレイヤー。 自分を格下と侮っている様子はない。

 つまり全力で殺そうとしている訳だ。 そんな相手に単調な攻撃を繰り返す?

 あり得ない。 彼女は何かを狙っている。 恐らくはそれを見せるのは鞭の動きに慣れた頃だ。


 直線的な動きでは自分を捉えられないのはこの数度の攻防で理解しているはず。

 ――にもかかわらずさっきと同様に横薙ぎの一撃。 ふわわはアバターの奥で小さく笑う。

 殺気の質が変わった。 散漫な物ではなく、矢のように鋭い何かに。


 鞭があり得ない軌跡を描いたのだ。 

 ふわわの足元を通り過ぎたと同時に先端が生き物のように彼女を追いかけてきた。 

 やっぱり。 ふわわは楽しくなってきたと思いながら先端を小太刀で切り払う。


 打ち払った先端が二股に分かれて再度追尾。 同様に打ち払う。

 今度は四つに分裂。 増えながら追いかけてくる。 面白い。

 こうすればどうする? エネルギーウイング噴かして加速。 ウィルの方へと向かう。

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