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第432話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選⑦

 エネルギーの鞭――というよりは追尾するエネルギー弾と捉えた方がしっくりくる。

 打ち払うと先端を分裂させて分散して襲って来る動きも面白い。

 掻い潜って小太刀で切断。 斬り飛ばせば霧散して消える。


 恐らくは柄に繋がっている間は自在に操れるのだろう。 


 『チョロチョロとよく躱す!』


 ウィルは背後に跳んで距離を取ると柄を大きなモーションで振り上げた。

 普段ならさっきと同じ振り下ろしかと思うが、気配で何となくわかる。

 恐らくは大技を繰り出すつもりだ。


 掲げられた柄から無数のエネルギーの鞭が現れる。 その数、二十を超えていた。


 ――多いなぁ……。


 『これで輪切りになれ!』


 振り下ろす。 間合い、タイミングとかなり上手い。

 下がるには微妙に間に合わず、上からの範囲が広い攻撃に周囲にはまだまだ木々が残っているので左右に逃げるのも難しい。 このまま行けば扇状に広がった刃がふわわを本当に輪切りにするだろう。


 だから、彼女は下がらずに腰の太刀、ナインヘッド・ドラゴンに手を添えた。

 攻撃か所の設定を瞬時に行い、即座に抜刀。 動く的には安定して当てられないが、真っすぐに振り下ろされるだけの刃を受ける程度なら充分にやれる。 


 小さく息を吸って鋭く吐く。 

 息を吐いた頃には抜刀は終わっており、ふわわを攻撃範囲に捉えていた刃が七本斬り飛ばされて霧散。 ちょうど、扇の真ん中辺りがごっそりとなくなった形だ。


 『ちょ、噓でしょ?』


 ウィルの声が僅かに震える。 

 攻め時だとふわわは判断したが、震えた声が若干、演技っぽかったのでまだ何かあるなと警戒しながらエネルギーウイングを噴かして肉薄。 ウィルは即座に発生させた刃を消して再展開。 

 横薙ぎの一撃が飛んでくるが屈む事で回避。 エネルギーウイングを利用しているので少々無理な体勢でも前には進める。 地面を這うように飛行し、後一秒もしない内に剣の間合いだ。


 太刀に手を添え、抜刀の構え。 

 ウィルは攻撃を躱されたばかりなので次を出すまで僅かに間がある。


 ――何かあるのならここで使わんと死ぬよ?


 絶対に何か来るとふわわは確信していた。 何故なら彼女の殺気はまだまだ衰えていないからだ。

 このゲームは本当に面白い。 上に行けば行くほどに濃い殺気を放つプレイヤーが増える。

 特にAランクのプレイヤーは個々人で差異はあるが、戦闘時は特に素晴らしい。


 目の前のウィルというプレイヤーも例に漏れず悪くない殺気を放つ。 

 怒り、焦り、戸惑い、後は僅かな恐怖? 自分を早く仕留めて本命を処理したいとでも考えているのかもしれない。 恐らくはこちらを早々に全滅させてベリアル達への対処に専念したいといった所だろう。


 混ぜ物が多いと殺気の純度が落ちるのであまり好みではないが、中々に美味しそうだ。 

 ふわわは昔から人の向けてくる感情を何となくだが察する事が出来た。


 最初はそれが何なのか分からなかったが、理解していくにつれて世界との付き合い方が大きく変わり、彼女の生き方、嗜好を定義する最大の要因となったのだ。 特に殺気は大好物だった。

 正直、何故ここまで心惹かれるのかは理解できないが、よくよく考えれば食の好物に何故好きなのかと尋ねられると美味しいからとしか答えられないのと同じで好きなのだからそれでいいと思っていたのだ。 だから、細かい事はどうでもよかった。 彼女は自らの欲望に忠実であれ。


 それのみを胸に戦う。 ふわわの腰から刃が閃かんと鞘から抜き放たれるが、それに合わせてウィルは予備のダガーを向けてくる。 振ってくる感じではない。

 先端に僅かな光が灯ったと同時に機体を僅かに横に傾ける。 射線から逃れる為だ。


 カメラのフラッシュのように瞬き、極細のレーザーがコックピット部分があった場所を通り過ぎる。


 『く、これも躱す!? どんな反応――』

 「隠し芸はもう終わり?」

 『一度躱したぐらいでいい気にならないで!』


 ウィルが更にレーザーを短い間隔で連射するが、ふわわは抜刀しながらエネルギーウイングを噴かして旋回。 背後へ回るが、鞘から抜ける前に鞭を振るモーションに入っている。

 ふわわの斬撃とウィルの横薙ぎの一閃が交差し――


 『――クソッ』


 ウィルがそう毒づいた。 彼女の鞭は切断されて霧散。

 ふわわの太刀はウィルの機体のコックピット部分を切り裂いて止まっている。

 刀を引き抜こうとしたがウィルが掴みかかろうとしたので諦めて太刀を手放して距離を取った。


 僅かに遅れてウィルのコックピット部分の破損個所がスパークして爆発。

 ふわわは太刀を手放した手をちらりと一瞥。 


 「やっぱり地面を踏んでないと威力が乗らんなぁ……」


 斬撃を繰り出しながらの旋回は練習はしていたのだが、威力が出ずに両断に至らない。

 半端に斬ってしまい、武器を喪失してしまった。 空いた手で確かめるように太刀を振る動きをするが、あまりしっくりこない。 地面を踏まずに敵機を実体剣で両断するには推進装置の助けが要る。


 「うーん、ウチもまだまだやなぁ……」


 そう呟いてふわわは踵を返し、突破した敵機を追う為に元来た道を戻る。

 まだまだ獲物は残っていそうだが、早くしないと取られてしまうので急がないといけなかった。




 「マジか。 ウィルの奴、やられちまいやがった」


 フィアーバは相棒の反応がロストした事に思わず呟く。

 ウィルと左右から挟む形で仕掛ける予定だったのだが、ふわわという刀使いが姿を晒したので仕留めに行ったようだ。 油断するなと釘を刺したのだが、助言も虚しく返り討ちに遭ったとみていい。


 先行した二機が残っているのでまだ挟撃という目的自体は達成可能だ。

 フィアーバは切り替えて前に意識を集中する。 『星座盤』の戦力構成に関しては調べは付いていた。 支援機が一機増えているのは想定外だったが、それ以外に関しては頭に入っている。


 リーダーのヨシナリはノーマルキマイラ。 

 遠目で見ただけだが、+フレームになっている様だったのでイベントのボス撃破の報酬で買ったのだろう。 空中に出てきてくれれば話は早かったのだが、今回は徹底して身を隠すつもりのようだ。


 中衛のマルメルとホーコートという新人は中距離戦なので地形的にそろそろ出てくるだろう。

 ふわわの位置は割れているのでこちらにはまだ来れない。

 そして最大の問題は狙撃手であるグロウモスだ。 

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