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第434話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選⑨

 上手い。 カバーに入るタイミングも交換作業も驚くほどにスムーズだ。

 前回といい前々回といい『星座盤』は何処からあんな技量の高いプレイヤーを引っ張ってくるのだろうか? 機体にフォーカスして詳細を確認して――フィアーバは思わず眉を顰めた。


 プレイヤーネーム『タヂカラオ』。 ランクはA。


 「タヂカラオ!? 『思金神』所属のAランクのはずだが、『星座盤』に移籍したのか!?」


 ジェネシスフレームではない事は謎だったが、だからと言って侮っていい相手ではない。

 レーザーが途切れたと同時にマルメルのハンドレールキャノンが飛んでくる。 

 防御姿勢を取らされたフィアーバは動けない。 そのまま防御。 


 弾体を逸らす。 僅かに間隔を空けてもう一発。 こちらも逸らす。

 コンシャス達が仕掛けているのでグロウモスは撃てない。 この不自由な状態からは脱する事ができる。 味方はどうなったと振り返るとヨシナリの方に向かった二機は既に撃破されていた。


 早すぎるだろと思いながら、ホーコートは流石に撃破しただろうと振り返るといつの間にか敵がもう一機増えており、ちょうど味方機が背後から組み付かれて首を引き千切られていた。

 更に一機来ている点からこちらにはヨシナリ、マルメル、グロウモス、ホーコート、タヂカラオに突然現れたプレイヤー『シニフィエ』と六人も使っている点を見れば最初からフィアーバを潰す事に戦力を集中しているようだ。 下手に戦力を分散するより、一点に集中して各個撃破を狙うのは理解できる。 


 だからと言って、敵の足止めをほぼ全てタヂカラオとふわわに投げたのは思い切った手だった。

 当然ながら足止めをされたコンシャス達は突破する為に遠距離から近距離に切り替える。

 あの様子ならすぐにでも片付くと思いたいが、フィアーバは不味い状況だった。


 ヨシナリと木々を突っ切ってマルメルが突っ込んで来る。

 マルメルが姿を見せた事でハンドレールキャノンによる砲撃とグロウモスの狙撃はなくなった。

 中位ランクのプレイヤー二人程度ならどうにかする。


 盾を両肩に戻し、腕に内蔵したガトリングガンを展開。 


 「二人でなら俺を倒せるとでも思ったか!」


 マルメルが両手に突撃銃と腰にマウントされた短機関銃を展開して連射。 

 体を横に向けて盾で受ける。 その間にヨシナリが背後に回り込んで大型の複合銃を構えるが、それよりも早くガトリングガンを向けて発射。 手の甲の上から突き出した回転式の銃身が唸りを上げながら銃弾を吐き出す。 口径が小さいので威力はそこまでではないが、機動力に振っているキマイラフレーム相手なら充分に通用する。


 ヨシナリは器用に樹を盾にして射線を切るが、フィアーバは止まっていられない。

 マルメルが突っ込んで来るからだ。 背のブースターを噴かして後退。

 空いた手のガトリングガンをマルメルに向けて連射するが、マルメルはエネルギーフィールドを展開する事で無数の銃弾を意に介さずに間合いを詰めてくる。 


 得意の中距離ではなく、接近戦に持ち込もうとするのは動きを止める事を狙っているのだろう。

 抑え込まれてしまえば盾を満足に扱えないので、その時点で詰む。

 フィアーバの本質は盾だ。 攻撃を受ける事が出来なければ真価を発揮できない。


 だが、フィアーバはAランクプレイヤー。 あの修羅の巷で戦っているのだ。

 こんな連中にやられる程、ヤワではない。 射線が通ったと同時にヨシナリがエネルギー弾を連射。

 盾を動かして防御しつつ体の向きを変えて撃ち返す。 フィアーバも木々を縫うように射線を切るが、視界からは外さないようにしている。 特にマルメルはハンドレールキャノンがあるので発射のタイミングを意識しないと不味い。 まともに喰らうと即死なので特に注意が必要だ。


 フィアーバの盾は元々、物理的な強度を高めただけの代物だったが度重なるアップグレードでエネルギーフィールドの展開機能に最近追加した空間歪曲による障壁によってあらゆる攻撃に対しての高い耐性を得た。 そのお陰でマルメルのハンドレールキャノンも防ぐ事が可能なのだが、歪曲力場はエネルギーの消耗が激しいので戦闘機動中に扱う事は躊躇われる。


 武装が実弾に偏っているのはエネルギーの消費を抑える意味合いもあった。


 ――思った以上に動きがいい。


 ヨシナリも地形を上手く使い、射線が通ると同時に撃ち込んで来る上、マルメルが反撃の隙を潰しに来るので回避に専念するしかなかった。 一対一であるなら問題なく勝てる相手のはずだが、連携を取る事によって互いの強みが大きく引き出されている。


 正直、ラーガストやベリアルに寄生している印象が強かったので、個々の実力はそこまでではないと思っていた。 こうして戦ってみると想像以上だ。

 だからと言って想定の外には出ていない。 充分に対処は可能――ではあったのだが、別の意味で厄介な問題があった。 ヨシナリのエネルギー弾を盾で弾き飛ばし、マルメルのばら撒くような銃撃を盾で受け止める。 二枚の盾をジョイントを用いて180°動かす事で攻撃への対処は出来ているのだが、位置が不味かった。 徐々にだが、戦場から引き離されている。


 火力支援を期待したいが、求めるには距離が近すぎるのでできない。

 明らかに誘導されている。 このままでは不味いのでどうにか打開を狙わなければならない。

 思い切った手が必要だ。


 ――やるか。


 「エーデ! 火力支援を頼む!」


 通信回線を開く。 相手は後方で待機している『ベクヴェーム』のリーダーだ。 


 『わ、分かった。 何処を狙えばいい?』


 即座に応答。 中性的な声が聞こえてくる。


 「俺ごとやれ!」

 『えぇ!? い、いいのか?』

 「今、ヨシナリとマルメルの二人に追い込まれて徐々に戦場から剥がされている。 このまま行けば連中の用意した罠に嵌まる可能性が高い。 押し返す為の隙が欲しい!」

 『了解! 頼むからしくじって撃破なんて事にならないでくれよ!』


 エーデは砲撃戦のエキスパートだ。 正確に狙った位置に砲弾を撃ち込んでくれるだろう。

 そして飛んでくるのが分かれば身を守るのは難しくない。 一先ず、こいつらの攻撃を途切れさせて現状を打開する。 ちらりと空を見上げ、砲撃に備えて防御の準備。


 タイミング的にそろそろ来――ない? エーデは砲撃に関しては突出していると言っていい。

 撃つなら今を置いて他にない。 なのに何故撃って来ない? 


 「どうした? エーデ! 応答しろ!」

 『す、すまない! 後ろから奇襲を受けた! し、しかもあいつだ! ベリアルが出た!』


 通信の向こうから返ってくる声からは余裕が全くなかった。


 ――何だって?


 フィアーバは背がさっと冷える感覚を味わった。

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