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第435話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選⓾

 ユニオン『ベクヴェーム』はコンシャスやフィアーバ達の火力支援役として離れた位置に布陣し『星座盤』の居るであろう場所に砲弾やミサイルをばら撒くのが役目だった。

 味方の進路を妨害しない程度に広範囲にばら撒き、敵を炙り出す。 


 そうすれば撃破はできなくともプレッシャーをかける事は出来るだろう。

 後はフィアーバやコンシャス達から依頼された場所を焼き払う簡単な仕事だった。 

 基本的にエーデ達のチームは火力に偏っているのでパンツァータイプが半数を占めており、残りはエーデのジェネシスフレームとソルジャー、エンジェルタイプが二機ずつ。


 エーデのジェネシスフレーム『クーゲルシュライバー』も重装甲、高火力の機体だ。

 パンツァータイプに近い形状だが、下半身は分割する事で脚部へと変わる。

 地上を進む時は無限軌道を用いるので鈍重な印象を受けるが、背面の巨大なブースターが直線加速を助けるので見た目以上に速度が出る。 両腕にはガトリング砲と背中から両肩にかけては散弾砲、榴弾砲、迫撃砲が片方二門ずつ、合計で十二門ととにかく撃ちまくる事に特化した機体だ。


 高速化が進んでいるこのゲームの最先端から逆行しているような機体構成だが、エーデがAランクを維持し続けられるのは距離の維持にある。 内蔵火器などを用いてとにかく近づけない。

 その間にどうにか捉えて殴り勝つ、それがAランクプレイヤー『エーデ』の戦い方。


 だが、運動性では既存機体にすら劣るので、近寄られるとかなり厳しい事になる。

 特にこのような乱戦では全方位に警戒しなければならないので仲間に背中を任せる事で弱点を補っていた。 C~Bランクの精鋭四機。 


 仮に突破されるにしても迎撃の態勢を整える時間ぐらいは稼いでくれる。

 横槍は入ると面倒だが、対策は講じているので何の問題もない。 


 ――はずだった。


 それは唐突に起こった。 護衛の四機は瞬く間に撃破されたのだ。

 エンジェルタイプが二機居たにもかかわらず、一分も経たずに全滅。

 明らかにランカーの仕業だ。 他の仲間と共に迎撃の態勢を整えようと反転。


 センサーシステムを確認すると敵機は二機だが、片方は凄まじいスピードで森へ。

 方角からフィアーバの居る場所だ。 阻止したい所だったが、残りの一機が真っすぐに突っ込んで来る。 射程に入ったと同時に全機での飽和攻撃を喰らわせて決着だ。


 何が起こるか分からない以上、不確定な要素は全力で叩き潰す。

 そう考えての行動だったのだが、足りていなかったと分かったのは数秒後。

 何故なら敵機の反応が消えたと同時に近くにいきなり現れたからだ。


 この現れ方には見覚えがある。 空間転移だ。

 それを用いた戦い方を得意とするランカーはそう多くない。  

 真っ先に浮かんだのは漆黒の機体を操る思春期特有の病を重く患った男――ベリアルなのだが、違和感があった。 彼の転移装置『ファントム・シフト』は極々短距離しか転移できなかったはずだ。


 連続転移で距離を稼いだ事は理解できるが、明らかに一回毎の転移距離が伸びている。

 アップグレードを行ったのだ。 転移を扱えるようになってそう経っていないはずなのにもう強化したのか? 何処からそんな大金を手に入れたのかといった疑問はあったが、そんな事を考えている余裕はない。 現れたと同時にパンツァータイプが二機やられた。


 『ふ、誰かと思えば重砲の砦か。 久しいな』


 ――不味い。


 エーデは応えずに即座にガトリング砲を向ける。 状況は最悪だった。

 ベリアルは特に近づけると不味い相手だったからだ。 空間を物理的に無視して襲い掛かってくる彼とは相性が最悪でここまで接近された状態で勝てた試しがなかった。


 ガトリング砲が回転し弾丸を吐き出そうとしたが、そうなる前にベリアルは転移によって目の前。

 胸部装甲を展開。 仕込んで置いた散弾砲を発射するが、その頃には既に背後だ。


 『無駄だ。 俺は闇であり影。 いくら手を伸ばそうとも指の隙間をすり抜け、その命を刈り取る』


 上半身を回転させながら腕を背後に叩きつけるように振るうが手応えがない。


 『徒党を組んで我が戦友を仕留めようとする判断は正しい。 だが、愚かとしか言いようがないな。 我が戦友とその仲間達は空に瞬く星々。 貴様の砲では星を射落とす事は叶わない』


 両脇に仕込んで来たミサイルポッドから短距離ミサイルを連射。 

 ターゲットをロストしたミサイル達は目標を見失ってあらぬ方向へと飛んでいく。 

 一人で無理なら人数で圧し潰せば――そこで気が付いた。 味方の反応がなくなっている事に。


 いつの間にか全滅していたようだ。 全機、コックピット部分を一突き。

 自分が生き残っている理由がよく分かった。 他を潰す事を優先していたのだ。


 『星を射落としたいのであれば神話に謳われる弓矢を持ち出すか、星々を越える輝きを見せる事しかありえない。 だが、晦冥の中、光年という途方もない尺度を進む光を徒党を組んで数を頼む貴様らのような薄弱な者に捉える事ができるのか?』


 相変わらず何を言っているのかよく分からないが、この状況が不味い事だけは分かる。


 『答えは否だ。 仮に貴様等に星を捉える力があったとしてもあの輝きが存在する場所は闇の領域。 俺が居る限り、何をしたところで無駄だ。 今度こそ俺は契約を――誓いを果たす。 貴様等如きに邪魔はさせない』


 期待の頭部が軋み、映像にエラー。 後頭部が掴まれている。

 エーデは何か言わなければと思っているが、何も言葉が出てこなかった。

 普段のベリアルの難解な言葉の羅列のはずなのだが何故か今回は迫力が段違で、一言一言に凄まじい圧が籠っている。 有り体に言えば凄まじく怖くて声が出せなかったのだ。


 本来ならフィアーバ達に警告を飛ばすなどやれる事は無数にあったのだが、それをさせない迫力が今のベリアルから発せられていた。 分からない。

 今の状況もベリアルの迫力もさっぱり理解できなかったが、彼が掛け値なしの本気である事だけは伝わった。 


 メキリと頭部が強引に捻られて横を向かされる。 そこにはプセウドテイの頭部。

 エーデにはそれが血に飢えた獣のように見えた。 元々、鋭角的なデザインは人というよりは獣を彷彿とさせたが、近くで見ると迫力が凄まじい。


 「――っ!?」


 息を吞む。 それが最期だった。


 『闇に呑まれよ』


 平坦に、呟くように口にしたそれが聞こえたと同時にコックピット部分が破壊され脱落となった。

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