目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第436話 ユニオン対抗戦Ⅲ:予選⑪

 「エーデ! おい、エーデ! どうした?」


 フィアーバは応答しろと呼びかけるが、返事は返ってこない。

 代わりに『ベクヴェーム』所属機体の反応が全てロストした。 

 ついさっきまで話していたのに全滅。 とんでもない速さで全滅させられたと見ていい。


 明らかにランカーの仕業だ。 

 このタイミングで現れるという事は『星座盤』の援護に現れた事になる。

 連中に力を貸すランカーで真っ先に浮かぶのはベリアルとユウヤだ。


 あの二人――特にベリアルならエーデを瞬殺する事ぐらいは訳ない。

 エーデの制圧能力は高いがその反面、懐に入られると非常に脆いという弱点があった。

 ベリアルの空間転移はそれを容易く成し遂げる。 エーデも対策を講じていたはずだが、あっさり脱落している所を見ると通用しなかったようだ。 レーダー表示に変化。 


 一機、こちらに接近している機体が居る。 

 エーデを仕留めたのがベリアルならこちらに向かって来るのは十中八九ユウヤだ。

 ベリアルならまだ何とかなったがユウヤは不味い。 フィアーバはユウヤとの相性が極めて悪かった。 幸か不幸か先日にランク戦で当たったのだが、武器がアップグレードされた事により防御が通用しなくなったのだ。


 この状態でユウヤに来られると確実に負ける。 

 予選落ちは流石に不味い。 ウィルもやられてしまっている以上、ここに留まると本戦に上がれなくなる。 攻め込んでおいて逃げるのは格好の悪い話だが、ここが潮時だろう。


 そう判断したフィアーバは撤退するべく推進装置の出力を上げようとして――ピタリと操作を止めた。 現在、両肩のシールドは恒常展開している状況だ。

 マルメルのハンドレールキャノンは空間歪曲で対応、エネルギー弾はエネルギーフィールドを展開して防御。 実体弾はフィールドをオフにして盾の強度で受ける。


 フィアーバは三種類の防御を使い分ける事で機体への負担を抑えつつ戦っていたのだが、機体のステータスを見て愕然とした。 ジェネレーターに負荷がかかり過ぎている。

 推進装置に回すと防御が疎かに――少なくとも空間歪曲は使えない。 


 ――そこで気が付いた。 ヨシナリの狙いに。


 手数で圧倒する事で防御を飽和させようと目論んでいたと思ったのだが、どうやら違ったらしい。

 ヨシナリとマルメルはフィアーバを誘導しつつ、盾を使わせてエネルギーの使用量をコントロールしていたようだ。 離脱は出来ないが戦闘行動は問題なく可能だった事で気付くのが遅れてしまった。


 どうにかしなければと思っていたが、これはどうにもならない。

 恐らくヨシナリは最初からこの展開に持って行くつもりで立ち回っていたのだろう。


 「く、何処まで見えて――」

 『よぉ、雑魚。 随分と余裕がないみたいじゃねぇか』


 不意に声が聞こえる。 

 咄嗟に盾を構えられたのは彼の技量によるものではあったが、相手が致命的に悪かった。 

 ハンマーによる一撃。 受け止めはしたが、盾に放射状の亀裂が走る。


 空間歪曲を展開していたにも関わらずそれを貫通して盾を砕いたのだ。


 「ゆ、ユウヤ! お前――」

 『ご自慢の盾を封じられたらお前にもう価値はねぇよ。 さっさとくたばってろ』

 「舐めるな!」


 フィアーバは腕に仕込んだガトリングガンでは間に合わないので、腰にマウントしたブレードを射出。 器用に掴んでユウヤに斬りかかろうとしたが、その時には足に何かが巻き付いていた。

 それが何かと認識したと同時に高圧電流が走り、機体の機能が麻痺。 


 モニターに無数のエラーが走る。 復旧まで1秒から2秒はかかる。

 この状況での停止は致命的だ。 ユウヤが飛びのいたと同時に無数の銃弾が背中に命中し、最後に巨大な弾体が胴体を貫通。 フィアーバは諦めたように小さく息を吐いた。


 それに合わせるように機体が爆発。 脱落となった。



 「ふぅ、何とか仕留められたな」


 ヨシナリは目の前で爆散したジェネシスフレームを見てほっと胸を撫で下ろす。

 フィアーバに関してはユウヤが最近ランク戦で当たったという事で情報の更新ができていた事も大きい。 防御主体の近~中距離戦機。 特筆すべきは両肩にマウントされた特殊シールド。


 実弾、エネルギーの両面で極めて高い防御性能を誇るが、ハンドレールキャノンなどの閾値を超えた攻撃には脆いという弱点のある代物だった。 

 ――のだが、空間歪曲を利用した防御を用いるようになった事で防御面での死角がなくなったので、より堅牢な造りとなっていた事もあってヨシナリとマルメルの装備では撃破は不可能ではないが、時間がかかる。 


 他への対処もあるので時間をかけていられなかったのでユウヤを呼び出して力を貸してもらう事にしたのだ。 

 合流を早める為の誘導も単騎であるなら難しかっただろうが、マルメルが居たので何とかなった。 


 「よし、次はタヂカラオを助けに行くぞ」


 コンシャス達をグロウモスを守りながら食い止めているタヂカラオの下に戻らなければならない。

 いくらAランクとはいってもジェネシスフレームなしであの数は厳しいはずだ。 

 ふわわやシニフィエ達も援護に向かっているはずなので、簡単にやられる事はない。


 ヨシナリはちらりと味方機のステータスを確認するとホーコート以外は全機健在。


 ――あいつ、またやられたのか。


 攪乱という最低限の仕事はしてくれたので、充分に役目は果たしたと言える。

 それでもまだ八機が健在なので問題はない。 空に上がると機体が大きく損傷したタヂカラオとふわわ、シニフィエが『カヴァリエーレ』の機体と交戦中だったのだが、もう終わりそうだった。


 ふわわが太刀を一閃。 コンシャスがジグザグに飛んで回避に入る。

 転移を警戒しての動きなのだが、他はそうもいかずに二機が両断されていた。

 シニフィエが閃光手裏剣を投げてセンサーシステムを麻痺させ、死角に移動していたタヂカラオが突撃銃を連射してとどめ刺す。 慌てて駆け付けたつもりだったのだが、余計な心配だったようだ。


 「ん? おや、その様子だとそちらも首尾よく片付いたようだね」


 タヂカラオは何でもないといった様子だったが、機体のあちこちに損傷が目立つ。

 単騎でグロウモスを守り抜いたのだから感謝しかなかった。 


 「かなりの無茶を押し付ける形になってしまいすいません。 でも、助かりました」


 ヨシナリが小さく頭を下げるとタヂカラオが肩を竦めて見せる。


 「おいおい、僕はこれでもAランクだぜ? これぐらいの仕事は訳ないさ。 まぁ、本戦もこの調子で頼りにしてくれ給えよ?」


 タヂカラオはそう言って笑って見せた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?