こうして改めて見て見るとチームとしての完成度もそうだが、個々の技量が大きく上がっている。
マルメル達に関しては模擬戦で見たのだが、ベリアル、ユウヤも凄まじい。
映像を見返せばそれは顕著で、同ランクであるはずのエーデを含めて八機を瞬殺。
ジェネレーターを新しい物に替えて性能面でも大きく強化されたが、それを扱うベリアル自身の技量も大きく向上している。 今までは手数を優先した回転重視の攻め方だったが、そこに正確性が加わった事でこの惨状を生み出していた。 転移して一突き。
突き刺した後、エーテルの物質化を解けば抜く手間が省けるので即座に次のモーションに繋げられる。
転移からの刺突。 派手さは減ったが、的確に敵の急所を貫く事で瞬く間に一つのチームを壊滅させた。
「ふ、我が闇は更なる深淵へと至り、我が牙は抜けば魂散る氷の刃。 凝縮された奈落の闇は万物を等しく両断し――『死』という結果を齎す死神の鎌へと変じる」
「……魂すらも両断する死の鎌。 その切れ味はあらゆるものを
どうでもいいが抜けば玉散る氷の刃は刀剣の煌めくさまを示す事で、闇一色のエーテルブレイドを形容するには微妙に違う気がするのだが――
――格好いいから使いたかったんだろうなぁ……。
気持ちは良く分かるのでヨシナリは無意識に笑顔になった。
「やはり貴様には分かるようだな」
「あぁ、貴公から譲り受けた
ヨシナリは心臓を掴むようにして見せつけるとベリアルは拳を握ると力強く頷く。
「ふ、流石は我が戦友。 俺は嬉しいぞ、共に闇の覇道を進む存在を感じられる事を」
「我らの道は覇道にして求道。 道は無数にあるが故に可能性も無限。 それすなわち、我らの強さにもまた限りがない」
「無限。 ふ、ふは、そう! そうだ! 我らは無限にして無間! その闇でこの戦場を覆いつくすのだ! ふ、ふは、ふはははははは!!」
「はーっはっはっはっは!」
何故か笑い出したので合わせたつもりだったのだが、ベリアルとまた一緒に戦える事が嬉しかったので自然と笑みがこぼれた。
「よ、ヨシナリお前……」
「これはちょーっとついていかれへんわー……」
軽く引いているマルメルとふわわから目を逸らすと、絶句しているグロウモスとシニフィエが目に入った。 ちらりと残りのメンバーを見るとホーコートは不思議そうに、ユウヤはそっと目を逸らし、タヂカラオは興味深いと思いつつ耐え切れずに小さく笑う。
「はっはっは、凄いなぁ。 なるほど、これがあるからこそベリアル君はここに居るんだね」
タヂカラオの納得したかのような呟きに冷静さを取り戻したヨシナリは小さく咳払い。
「ま、まぁ、ともあれ。 これからは本戦になりますので、頑張っていきましょう」
「おう! 今度こそ優勝しようぜ!」
「そうやねー。 そろそろ勝って気持ちよく終わりたいなぁ」
「……勝つ」
マルメル拳を握り、ふわわもやる気満々、グロウモスも珍しく燃えている。
「案ずる事はない。 更なる領域へ登った――いや、堕ちたと言うべき我が深淵なる闇が星々を勝利へと導くだろう」
「……これ、俺も何か言う流れなのか?」
「はっはっは、いやぁ、ヨシナリ君に着いた甲斐があったよ。 大して時間経っていないのに面白くって仕方がないなぁ」
ベリアルは平常運転。 ユウヤはやや困惑、タヂカラオは笑いっぱなしだ。
シニフィエ、ホーコートはどう反応していいのか分からずに取り敢えず拳を振り上げていた。
――勝てる。
解散後、ヨシナリは興奮していた。 予選の手応えは上々。
充分に優勝を狙える戦力だ。 これまでは枠が埋まらなくて戦力差に泣かされる事が多かったが、今回はその戦力が十二分に整っている。
マルメル、ふわわ、グロウモスの強化。 シニフィエとホーコート。
そしてユウヤとベリアル。 特にユウヤは本気で協力してくれるようで強化したアルフレッドの投入も約束してくれた。 そして最後にタヂカラオ。
突然、連絡を寄越してきた時には驚いたが、戦闘経験があっただけに是非とも欲しい人材だった。
実際に引き入れて見ると安定感が大きく上がる。 特に全体を見て指示を出せるプレイヤーは前々から必要だったと思っており、彼のお陰でヨシナリは遊撃に専念できる上、仮にやられても立て直しは容易。
前回はヨシナリの代わりを務められる人物がいなかった事で瓦解したので、彼の参加は非常にありがたかった。 例のジェネシスフレームではないのが少し残念だが、彼の技量が損なわれる訳ではない。
エンジェルタイプであってもその実力は充分に発揮される。 終わったら『思金神』に戻るのが残念だが、この機会にしっかりと有効活用させて貰う。
既に解散したのでユニオンホームには誰もいない。
ヨシナリは明日に備えて英気を養おうとそのままログアウトした。
――このままではダメだ。
トレーニングルーム。
ホーコートはターゲットにエネルギーライフルを撃ち込んでいたが、さっぱり当たらない。
右旋回からのアプローチであるならほぼ必中と言えるのだが、それ以外のアクションを挟むと命中率が極端に落ちる。 単純な的当てをやるのならそこそこ以上の成績を出せるだろう。
だが、これは戦いなのだ。 ホーコートは自分がここまで通用しないとは思わなかった。
それだけ『星座盤』のレベルが高いのだと自分に言い聞かせたが、劣等感と無力感は拭えない。
俺は何故、こんなにも弱いんだ? 先輩達と俺は何が違うんだ? 俺には何が足りないんだ?
疑問がとめどなくあふれるが、答えは何も浮かばない。
これまで何度も大きなイベント戦に参加してきたが、残らずあっさりと撃墜されて終わっていた。
先輩達は責めるような事はしないが、期待されていないと感じるのは勘違いではないだろう。
――俺は弱い。
その事実を受け入れ、弱者なりに何をすればいいのかを考えはしているのだ。
だが、いくら考えても何も思い浮かばずに言われた通りに動き、実力不足で沈む。
他にも似たような境遇の相手がいれば幾分かの慰めにはなったかもしれないが自分よりも低ランクのシニフィエがしっかりと活躍しているのを見てしまえばそれも甘えと感じてしまう。
――力、力が欲しい。
そう念じるように機体を動かしていたのだが、不意にメールボックスに受信の通知が来た。
なんだと首を捻ってメールを開いたのだが――