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第440話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦①

 翌日。 ユニオンホームにメンバー全員が集合し、トーナメントの組み合わせが決まるのを待っていた。

 事前に予選突破のユニオンは発表されるので確認してみると『栄光』『豹変』も突破していたので、もしかしたら当たるかもしれない。 そしてタヂカラオの目当てである『思金神』は三チーム全てが予選突破。


 層が厚いだけあって三チームも予選を通すのは流石だった。

 何処と当たってもいいが、できれば情報のあるチームがいいなと思っていると組み合わせが発表される。

 『星座盤』の一回戦の相手は――『栄光』。 


 ――うわ、マジかよ。


 ヨシナリは横目でユウヤを見ると握りしめた拳が震えていた。


 「は、いきなりかよ。 上等だ、ぶち殺してやるぜクソ女ぁ」


 ユウヤが獰猛に笑う。 

 やっぱりこうなったかとヨシナリは内心で頭を抱える。 

 『栄光』が相手となるとユウヤはカナタの相手に専念させるべきだろう。 


 「お前ら、あのクソ女は俺が殺る」

 「ふ、案ずるな。 我が好敵手よ。 貴様の抱えた宿業カルマはこの場に居る誰もが理解している。 阻むような野暮はしない。 存分にその煉獄の炎で光の騎士を焼き尽くすといい。 今の我らは星の下に集いし同胞、その怨讐おんしゅうの旅路を進み征く足はこの場にいる全ての者が支えるだろう」 


 ヨシナリは大丈夫と言いかけたのだが、それよりも早くベリアルがユウヤの肩に手を乗せる。


 「――あぁ、助かる」

 「ふ、礼は貴様が怨敵を打倒した時にでも聞かせて貰おう」


 ユウヤは素直に礼を言っている場面は珍しいなと思いつつ、ヨシナリは口を開く。


 「まぁ、そんな訳で敵のリーダーであるカナタには手出し無用で。 仕掛ける場合はユウヤが負けた場合のみですが、そんな事にはならなさそうなので他の対処に専念しましょう。 『栄光』はBランクプレイヤーを多く抱える強敵ですが、いつものプレイを貫けば決して勝てない相手ではありません。 目指すは優勝なので、一回戦は通過点にしかすぎません。 勝ちましょう!」


 そう言って拳を振り上げると他も応えるように拳を突き上げた。



 移動。 ステージは前回、前々回と変わらず荒野。

 ステージギミックも変に特徴的な地形もないプレーンな戦場と言える。 

 その分、地力が出る場所ではあるが、今の『星座盤』なら問題なく対抗できるはずだ。


 予定通り、カナタはユウヤに任せるので残りでツガル達の相手をする事になる。

 まずはセンドウの居場所を割る所からか――

 そんな事を考えている間にカウントダウンが始まった。


 「俺は行くぞ。 他は任せた」

 「了解。 何度も戦った相手なのですが、それは相手も同様。 確実に対策を練っていると思うので全員、気を付けるように。 頑張っていきましょう」


 そしてカウントがゼロになった。 


 ――よし、動く――


 それに反応できたのは奇跡かもしれない。 

 シックスセンスが遠くでエネルギーの反応を検知したからだ。

 咄嗟にエネルギーウイングを噴かして急上昇。 僅かに装甲を掠めて極細のレーザーが通り過ぎる。


 「この距離で当てに来るのかよ!?」


 気を付けろ警告する為に振り返るとグロウモスの機体のコックピット部分に小さな穴が開いていた。


 「――え?」


 グロウモスがそう呟くと機体が力なく崩れ落ちた。 同時にシグナルがロスト。

 爆発すらしない。 ピンポイントで急所だけを射抜いたのだ。

 正確には内部で操作しているアバターを狙って撃ち抜いた。


 信じられない射撃精度だ。 

 カウントがゼロになるまではセンサーシステムや武器のエイムもできないはずなのにこの短時間でヨシナリとグロウモスを狙う動き。 これは間違いなく――


 「ここはランクアップおめでとうございますとか言っておいた方がいいのかねぇ」


 ヨシナリは小さくそう呟いた。



 「――一機仕留めた。 例のグロウモスってスナイパー。 ヨシナリは駄目ね。 躱されたわ」


 センドウはそう呟いて立ち上がった。 

 彼女の駆る機体はキマイラパンテラではなく、黒に近い緑色のカラーリングが特徴的な人型機だ。

 だが、ソルジャータイプではない。 彼女の特性に合わせて設計された専用機。


 ジェネシスフレーム『スロウイングライン』。 これが彼女の新しい機体だった。

 頭部は巨大なゴーグルのような物で覆われており、腕は巨大な狙撃銃と一体化している。

 以前の機体と比べるとかなりスリムな印象を受けるが、それだけに腕の歪さが際立つ。


 カナタはその場で腕を組んで小さく頷く。 


 「上出来ね。 ユウヤは?」

 「まっすぐこっちに向かっているわ。 今なら狙えると思うけど――」


 センドウの提案にカナタは小さく首を振った。  


 「ユウヤは私に任せて! 皆は他をお願い!」

 「だったら、ヨシナリは俺に任せて貰うぜ! そろそろ師匠としての威厳を見せつけてやらねぇとなぁ!」


 そう言ってツガルは一人で急上昇。 直角に折れ曲がるような軌道を描いて飛んでいった。

 センドウは小さく溜息を吐いて銃口を下ろすと移動を開始。 他も同様に動き出す。

 カナタは凄まじい勢いで接近してくるユウヤの機体を歓迎するように見つめていた。


 今度こそ、ユウヤに分からせなければならない。 

 自分が何処にいるべきかと、自分には引っ張ってくれる存在がどれだけ必要なのかを。

 口で言っても分からない以上は実力行使に出る必要がある。 これは全てユウヤの為なのだ。


 それを理解させる為にも――


 「――叩き潰してあげるわ。 ユウヤ!」


 ――この戦いは必ず勝利する。




 流石に初手でグロウモスが落とされるとは思わなかった。 

 センドウがAランクに上がってジェネシスフレームに乗り換えているのは想定外だ。

 だが、一度見た以上は情報をアップデートしてそれを元に対策を練ればいい。


 そしてセンドウが上がっている以上、恐らくもう一人も――


 『いよぉ、ヨシナリぃ! いつかの借りを返しに来たぜ!』


 ツガルの声だ。 来るだろうと思っていたので急上昇。

 レーダーには映っていたが、想定以上に速い。 間違いなくこちらも乗り換えている。

 現れた灰色の機体は特徴的で、両腕に機体と同じ長さの盾と砲を兼ねているであろう特殊武装を持っている事だ。 


 『ジェネシスフレーム「ボーディングパイク」。 最近、新調したんだ。 どうよ? 格好いいだろ?』

 「Aに上がったんですね。 おめでとうございます。 でも、今回は優勝を狙ってるんで悪いんですけど、ツガルさん達には泣いてもらいますよ!」

 『上等! さぁ、潰し合おうぜ!』


 これ以上の前置きは不要と言わんばかりに二人は同時に機体を加速させた。

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