ツガルの戦闘スタイル的に可変機かと思ったが形状的に変形するようには見えなかった。
だが、ジェネシスフレームだけあって機動性は明らかにキマイラより上だ。
――それにしても――
何だあの武装は?
盾にしてはエネルギー分布がおかしい上、武器にしても取り回しに難があるように見える。
ツガルの戦い方からは想像ができないが、情報が足りないので今は視る事に徹しよう。
変形して加速と同時にツガルの機体が先回りしていた。
『は、遅せぇぞ!』
空中である事を利用して腕を持ち上げずに砲身をこちらに向けてくる位置取り。
エネルギー式の突撃銃らしく先端の砲口から無数のエネルギー弾が飛び出す。
バレルロールで回避しながら変形。 アトルムとクルックスを抜いてバースト射撃。
ツガルは真横にスライドするような挙動で回避し、物理法則に喧嘩を売るかのようにジグザグの軌道で回り込んで死角へ。 即座に上を取って反撃しにきたのでエネルギーウイングを噴かして旋回して躱す。
――何だあの動きは!?
少なくともヨシナリの知っている航空力学の常識からかけ離れた動きだ。
シックスセンスがあるのでその正体に関しても早い段階で看破できたが、思った以上にヤバい代物だった。 どうもあの両腕の装備は武装だけでなく推進装置も兼ねているらしく、表面からいくつか突き出ている突起のような物が重力を操作する事によりあのような挙動を可能としている。
そう、既存の推進装置ではなく、重力を操作しているのだ。
例の侵攻戦を経た後、次々と現れるなと思いながら距離を取りつつアシンメトリーで応射。
エネルギーではなく実弾でばら撒くように撃ちまくる。 機動性に差があるのでとにかく近寄らせない事が重要だからだ。
――これは普通にやって勝てる相手じゃないな。
マシンスペックが違いすぎる。 技量面では大きく引けを取っているとは思っていないが、それを補って余りある性能差がこの不利な状況を作り出していた。
下を確認するとチカチカと何かが瞬くような反応。 恐らくセンドウの狙撃だ。
徹底してエネルギーの放出を抑えているのか、シックスセンスでも発射まで捉えられない。
これはかなり力を入れてるなと少し焦りが生まれる。 大丈夫かなとメンバーのステータスを確認するとホーコートの反応が早々にロストしていた。 どうやら駄目だったようだ。
正直、お世辞にも動きが良くないホーコートはセンドウからすれば美味しい獲物だろう。
狙わない訳がなかった。 少なくともヨシナリなら全く同じ事をするだろう。
数が減ればそれだけ敵に圧をかけられるので、物理、精神の両面で有効な動きだ。
『躱すじゃねーか!』
「はは、師匠の教えが良かったんですね」
『言いやがる』
ツガルが小さく笑う。 軽く返しているが躱すだけで精一杯だった。
シックスセンスで動き自体は読めているので躱せはするが、単純に速いのでこちらの反応を上回って来る。 加えてあの鋭角的な挙動は見慣れないだけあって見切るのが難しい。
少なくとも目が慣れるまでは時間が必要だった。
――それにしても随分と不自然な装備だ。
身の丈と同じ大きさの多機能武装。
銃口が上下を向いているので発砲の際は機体ごと上か下を向く。
重力制御による挙動のお陰で速度自体は上がってはいるのだが、挙動には不自然さが目立つ。
確かにあのサイズの武器は振り回すのに向かないのでスムーズに銃撃したいのならあの使い方が最適解なのは理解できる。 だが、なら何故あの形なのか? それが分からない。
ジェネシスフレームである以上、武装なども狙いがあってデザインされているはずだ。
――あの形状を最大限に活かす戦い方は何だ?
形状は砲と盾の合わせた――いや、どちらかというと機体を覆う為の殻?
そこで気が付いた。 ツガルはまだ本気を見せていない事に。
「こりゃヤバいな」
思わず呟く。 ツガルもウォーミングアップが終わったのかそろそろ仕留めに来るようだ。
その証拠に機体が変形した。 いや、正確には殻にこもったと言うべきか。
ツガルの機体に装備されている装備が機体をすっぽりと覆い、流線型の戦闘機のような形状へと変わった。 貝のように殻を閉じるだけなので変形にかかる手間も少ないので移行はスムーズだ。
――問題はこの形態こそがツガル機体『ボーディングパイク』の真の姿という事だ。
重力制御を用いた全く新しい空戦機動。 今の自分にどこまで粘れるのか?
本来ならさっさと逃げ出してベリアル辺りに押し付けるのが無難な処理方法なのだろうが、せめて下が片付くまでは情報収集に徹していたい。 現状『栄光』のジェネシスフレームは三機。
カナタ、ツガル、センドウの三人だ。 対するこちらはユウヤとベリアルのみ。
ツガルとベリアルが戦えばベリアルが勝つとは思いたいが、勝負に絶対はないので彼が勝利を掴む為の情報を集めておきたい。 それに彼には先にセンドウの排除を頼みたかった。
何故なら脅威度で言えば彼女の方が遥かに高いからだ。 まだ一部しか見ていないが、超が付く高精度の狙撃。 威力も痕跡も必要最小限。 コンセプトとしては最小の労力で敵機を仕留める事だろう。
グロウモスが残っていれば抑えてくれたのだろうが、真っ先にやられてしまったのはかなり痛い。
ホーコートもやられているので数の不利は如何ともしがたい。
今の段階で敵の損耗がゼロなのもよくない状況だ。 タヂカラオが居るので変に混乱はしないだろうが、苦しい戦いにはなっているはずだった。 本音を言うならさっさと助けに行きたいが、まずは自分が生き残る事を考えなければいけない。
『行くぜヨシナリぃ!』
ツガルの機体がエネルギー弾を連射しながら槍のように突っ込んで来る。
エネルギーウイングを噴かして旋回する事で回避。 通り過ぎた所でアシンメトリーを構えるが、その頃には既にツガルはヨシナリの背後に回り込もうとしていた。 速すぎて捉えきれない。
純粋な速さだけならラーガストには及ばないが、常に死角に移動する立ち回りのお陰で脅威度が跳ね上がっているのだ。
――アシンメトリーじゃ無理か。
ヨシナリはアトルムとクルックスを抜いて連射。
注視すれば軌道は見えなくはないので一応は当てる事自体は可能なのだ。
だが、銃弾は命中する直前に何かに逸らされてあらぬ方向へと飛んでいく。
斥力フィールド。 いつかのエネミーが使っていた防御機構だった。