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第444話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦⑤

 フカヤがふわわに、センドウがベリアルに敗北した事によって『栄光』は大きく戦力を落とす事となる。

 それを敏感に察知したマルメルはここを攻め時と判断してそのまま前に出た。

 二挺の突撃銃と腰の短機関銃を展開し、四つの銃で火力を集中させるべく撃ちまくったのだが――


 一機のソルジャー+が巨大な盾を持って現れる。 イワモトだ。


 「イワモトさんじゃないっすか。 やっぱ硬いっすねぇ!」

 『やぁ、マルメル君。 当たったからには恨みっこなしだよ』


 銃弾、エネルギー弾では傷一つ付かないタワーシールドを見てマルメルはハンドレールキャノンを展開。 

 流石にこれは躱すだろうと発射。 イワモトは回避を選ばずに盾を地面に突き立てる。

 タワーシールドは表面のあちこちが開き、内部構造が剥き出しになる。 同時に不可視のフィールドを展開。 それには見覚えがあった。 予選で同じような代物を見たばかりだったからだ。


 「またかよ」


 放たれた弾体は盾の障壁に干渉されて進めない。 斥力フィールドだ。

 だが、イワモトも簡単に防いでいる訳ではなく、機体の足が僅かに地面に沈んでいるのが分かった。

 数秒の拮抗の後に弾体が逸れて何処かへと飛んでいくが、その頃にはマルメルは回り込んでイワモトの側面へ。 大した防御だったが、予選で遭遇したフィアーバと違ってイワモトの機体は機動性の面で難がある。 それをどう補うのか――マルメルはエネルギーフィールドを展開しつつ後退。


 理由は背後からの砲撃だ。 後方で火力支援を行っている機体が火力をマルメルに集中し始めた。 

 イワモトを守るという意味では正解かもしれないが、火力を集中すればそれだけ他への対処が疎かになる。 特にマルメルの役目は敵の攻撃を引き受ける事も盛り込まれているので狙われるのはある意味では彼の仕事の一つと言えた。


 距離を取った所でイワモトが盾の陰から巨大な散弾砲を構え、即座に発射。


 ――あの盾、中々便利だな。


 嵩張る上、かなり重いから使いたいとは思わないが、こういった場では身を隠す遮蔽物として使えるのでフィールドの特性とは噛み合っていると言える。 だが、それは味方の援護が充分だった場合だ。 

 大きく旋回する事でイワモトの散弾砲を躱し、それを追うように銃口がこちらを向くがそれで充分だった。 


 何故ならイワモトの背後にはいつの間にか忍び寄っていたシニフィエが居たからだ。

 気づいて咄嗟に振り返るが、既に彼女は拳が届く間合い。

 イワモトはシニフィエに頭部を抱えるように掴まれた後、強烈な膝蹴りをコックピット部分に喰らっていた。 単に膝を打ち付けるだけなら多少のダメージで済むのだろうが、彼女の場合はそんな結果では終わらない。 


 空気が抜けるような音がしたかと思えば凄まじい衝撃がイワモトの機体を貫いた。

 発生源はシニフィエの膝。 そこから杭のような物が付き出してイワモトの機体を貫いたのだ。

 パイルバンカー。 流石のマルメルも膝に仕込んでいるとは思わなかったので、くの字に折れ曲がったイワモトの機体を見てうわと小さく声を上げた。


 いつの間にか敵からの援護が来なくなったなと振り返るとふわわとアルフレッドが残りの敵を片付けており、これで敵の残数は二機となった。 

 カナタには手出し無用との事なので、残りは実質ツガルのみとなる。


 空を見上げると空中でかなりの高速戦闘が繰り広げられている様子が目に入った。

 マルメルはどうしたものかと考えながら空での戦いを見つめる。



 ――マジかー。


 ツガルはほぼ全滅した味方を見て内心でそう呟く。

 今回のイベントにはそれなりに力を入れて臨んだつもりだった。

 前回、前々回と『星座盤』に負け続けていたので今度こそは借りを返すと連携訓練も密に行ったのだが、ヨシナリ達相手にはどうやら足りなかったようだ。


 センドウによる奇襲で二機落とした所までは良かったのだが、それ以降があまりよろしくなかった。

 動揺こそあった物の『星座盤』の連携は強固で、その程度の事では崩れなかったのだ。

 ツガル達はしっかりと対策を練って来たつもりだった。 『星座盤』は自覚があるかは不明だが、ヨシナリが中心に居る事で機能を最大限に発揮するチームだと考えていたのだ。


 真っ先に撃破できれば最高。 

 そうでなくともツガルが抑える事で機能しなくなる事を狙ってのこのポジションだ。

 今のヨシナリと戦って勝てるのはカナタか自分だけだと思っていた。 センドウでも可能ではないかと思われているが、負け続けた事で彼女はヨシナリの撃破に執着を見せている。


 ツガルとしてはその執念はセンドウという人間にとってはノイズと考えていた。 

 彼女の最大の強みはその冷静さであるからだ。 それを欠いた状態でヨシナリに仕掛けてもツガルには返り討ちに遭う未来しか見えない。 だから、センドウには敵の数を減らすように促し、自分がヨシナリに当たる事にしたのだ。 


 ツガルとしてもやられっぱなしは性に合わないので自分が潰してやりたいといった欲はありはしたが、冷静に戦えていると自己分析している。 

 ジェネシスフレームに乗り換えて日が浅く、この機体のポテンシャルを最大限に引き出せているのかは少し怪しいが有利に事を運べているはずだ。


 ――にもかかわらず、ヨシナリは健在。


 「ひらひらと器用に躱すじゃねーか!」

 『はは、こっちも割と必死ですよ!』


 ヨシナリは気軽にそう返すが、明らかに前よりも機体もそうだが何より技量が向上している。

 以前、ヨシナリに尋ねた事があった。 上手くなる秘訣は何かと。

 返って来た答えにツガルは少し驚いた事は未だに記憶に新しい。


 ヨシナリの答えは『できるまでやる』だ。 

 具体的には一つの機動を完全に使いこなすまで、反復練習を積み重ねるのだと言う。

 使いこなしたい挙動を行う。 何度も何度も何度も何度も、そして記録した映像から修正点、改善点を洗い出し、更に反復練習。 それを自分が満足いくクオリティーになるまで繰り返す。


 こうしてヨシナリはその技量を向上させてきたのだ。 

 それを知ったツガルは表面上は凄いなと褒めたが、内心では狂っていると思っていた。

 ゲームは楽しむ物だ。 だが、ヨシナリの場合はそれは過程の一つで、本質的には勝利に執着しているとツガルは思っていた。 勝つ為にあらゆる手を打ち、あらゆる努力を惜しまない。


 ――それこそがヨシナリという人間の本質。

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