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第450話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦⑪

 ――やり難い。


 カナタは攻めきれない事に僅かな焦りを滲ませていた。

 今のユウヤは普段とは雰囲気が違う。 

 いつもは叩き潰してやるといった激情を感じられるのだが、今回はそれがあまり感じられない。


 仕掛けてきた時の動きには変化はないのだが、違和感はあった。

 普段からユウヤを見ているカナタだからこそ気付けた変化。 今のユウヤからは冷静さを感じる。

 気持ちに余裕があると言い換えてもいい。 


 ――何でよ!?


 自分の知らないユウヤ。 

 新しい一面を引き出した『星座盤』のメンバーには嫉妬しか感じなかった。

 攻撃も読まれている感覚がある。 連結刃からの斬撃によるコンビネーションはかなり力を入れて仕上げたのだが、ここまで見切られるのは恐らくはベリアルの入れ知恵だろう。


 ベリアル。 

 ユウヤとはあまり仲が良くなかったはずなのに同じチームで肩を並べている現状が全く理解できない。

 『星座盤』に借りを返す事は考えてはいたのだが、ベリアルは暫定加入、ユウヤは侵攻戦の動きから協力的ではないと考えていたので参戦するにしても併せられないと思っていた事もあって出てくるにしてもどちらか片方。 


 そう睨んでいたのだが、両方同時に来るのは完全に想定外だ。

 加えて『思金神』のタヂカラオまで仲間にしているのは想定すらできていなかった。

 どうやって引き込んだのかさっぱり分からない。 


 ヨシナリは他人を洗脳する能力でも持っているのだろうか?

 そう思えればどこまで楽だろう。 だが、ここまで来ると認めるしかない。

 少なくとも今はヨシナリの方がユウヤに近いと。 だからと言って受け入れるのかは別の話だ。


 今はユウヤを叩きのめし、自分の存在を刻みつける事に全てを捧げよう。

 ちらりと味方のステータスを確認すると既に全滅している。

 前回と違って今回は戦力的に不利を背負っていたのは理解できるが、ここまで酷い結果になるとは思わなかった。


 ユウヤを抑えているとはいえ、ベリアルとタヂカラオが居たのだ。

 特にセンドウはベリアルとの相性が悪い。 ヨシナリの事だから間違いなく当てて来たのだろう。

 やはり、初手で落とせなかったのは痛い。 司令塔、遊撃手としての能力の高さはカナタも評価しているのでいないだけでかなりやり易くなる上、シックスセンス持ちなので眼も潰せる。


 以前にツェツィーリエと話した時に話題に上がったのだが、彼女も随分と評価していた。

 優秀な指揮官であり、遊撃手。 中~遠距離戦を得意としている印象を受けるが、恐らく近距離もそこそこ以上にこなせるはずだ。 理由は背中に新たに吊った武器の存在。


 遠かったがカナタにははっきりと分かった。 ユウヤの剣だ。

 信じられなかった。 あの、ユウヤが、自分の剣を、他人に譲る?

 貸すのとは訳が違う。 所有権を譲渡したのだ。 そこまでさせるヨシナリには無限の嫉妬が沸き上がる。 ユウヤを仕留めたら必ずヨシナリを叩き潰す。


 方針は決まっているが、まずは目の前のユウヤをどうにかする方が先だ。

 大きな攻撃は例のエネルギー無効化で防がれるので、実体剣での斬撃で仕留めるのがいい。

 このままユウヤが捌ききれなくなくなるまで攻撃を繰り出す? この様子だとアーマーをパージしての軽量化も警戒されているとみて間違いない。


 軽量化は防御性能を大きく低下させるので可能な限り使いたくはない、ある意味奥の手だ。

 必ず勝負を決めるタイミング以外ではあまり使いたくない。 

 だからと言って温存して勝てる相手ではないので、選択肢はあってないような物だった。


 問題は何処で使うかだ。 逆にユウヤは何処で自分が使って来ると読むだろうか?

 カナタはユウヤに対する解像度は偏りこそあるが高い。 恐らくは強引に距離を取りに行くタイミングで使って来ると読んでいる。 


 ――状況を動かすには思い切った事をする必要がある。


 まずはユウヤに動かざるを得ない状況を作る。 

 エネルギーウイングを噴かして強引に加速。 無理に間合いを詰める。

 ユウヤはその動きの変調にも難なく対応して来るが、ユウヤの大剣とカナタの両剣では攻撃の回転速度が違うので懐に入られるのは嫌がるはずだ。 


 電磁鞭は再生中。 散弾砲は既に二発撃っているので弾丸の精製まであと数秒はあるはずだ。

 つまり強引に距離を取りに来る。 

 ユウヤはスラスターの噴射と併せての挙動によって一つ一つの動作が驚くほどの伸びを見せる。


 機動性ならプルガトリオに分があるが、直線加速なら負けて居ない。

 推力を全開にして追いかける。 タイミングも合わせたので、ユウヤからすればかなり嫌なタイミングだろう。 その証拠に小さく舌打ちするのが聞こえた。


 補充が完了した散弾砲を向ける。 


 ――ここ!


 アーマーをパージして軽量化と同時にエネルギーウイングによる急旋回。 

 発射したと同時にユウヤの左側面へ。 大剣は右だ。

 電磁鞭、散弾砲は使い切った。 大剣は振るには間に合わない。


 このタイミングなら躱されるにしても無傷では難しいはずだ。

 プルガトリオのスペックは概ね把握している。 可能であるなら運動性を削ぐ程度のダメージは与えたい。


 ――入る。


 「なぁ、クソ女。 俺はお前が死ぬほど嫌いだ。 見かける度に叩き潰したくてたまらないんだが、今回の目標は優勝だ。 だから俺はお前ではなく、勝ちにこだわる事にした」

 「何を――」


 ユウヤの口調からは普段の怒りが欠片も含まれていない。

 ここ最近は聞いた事もない声音。 明らかにいつもと違う。 

 警戒心が持ち上がる。 何かがおかしい、ユウヤが落ち着いている事は分かるがそれが何を意味するかが分からない。 


 カナタの斬撃はユウヤの機体を切り裂く前にその刃が止められた。

 ユウヤが止めたのではない。 別の機体が割り込んで止めたのだ。

 エーテルに覆われた漆黒の機体。 ベリアルのプセウドテイだ。


 「本来なら貴様と煉獄の化身との決闘を邪魔する事は本意ではないのだが、この戦いを制する事は我が盟友である魔弾の射手の悲願。 そして我が悔恨の清算でもある」


 ベリアルはカナタの振るった刃を掴んで止める。 

 信じられない。 ベリアルがユウヤを庇っただけでなく、それに対してユウヤが何も言わないのだ。

 それどころか構わずに大剣を突きこんで来た。 カナタは咄嗟に刃を捻って掴んでいるベリアルの手を破壊。 エーテル体なので霧散するが即座にもとに戻るが拘束は解ける。


 距離を取ったカナタの前でユウヤが無言でベリアルの横に並ぶ。


 「悪いなクソ女。 二対一だ」

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