ユウヤは考えていた。 このままではダラダラと膠着が続くと。
ランク戦では互いの手の内を知り尽くしているからこそ非常に時間がかかる。
二人の決着は引き分けか、先に集中力が切れた方が負ける事が多い。
普段であるなら目の前の目障りな存在を消し去る事に全てを賭けるべく、行動するのだが今回ばかりは話が違った。 必要なのは勝利。 勝つ事だ。
その為に必要な事は何だろうか? そう考えると選択肢が一気に増加した。
余計なプライド、意地を捨てる事で確実な勝利への道筋が見える。
――というより、凄まじく簡単な手段があるのだ。
だからユウヤは通信回線を開いた。
「厨二野郎。 お前、俺を仲間と言ったな?」
「あぁ、少なくともこの星の下に集った俺達は共に轡を並べる同胞だ」
相手のベリアルは即座に応答した。
「そうか。 ――俺はこのクソ女が死ぬほど嫌いだ」
「貴様と光の騎士に対する確執と因縁は誰もが知る事だろう」
「……今の俺はヨシナリに借りを返す為に勝ちを狙いたい」
「ほぅ、今の貴様は憎悪よりも友誼を取ると?」
ベリアルの声には僅かな驚きが乗っていた。
「おかしいか?」
「意外ではあった。 だが、貴様が何を求めているかは理解した。 さぁ、契約の言葉を口にしろ! 我が好敵手よ! 貴様はこの闇の王に何を求める!?」
全てを察したであろうベリアルはユウヤに決定的な言葉を口にしろと促す。
「勝ちに行く。 力を貸せ」
抵抗なく他人に助けを求められた事をユウヤは内心で少しだけ驚く。
それを聞いたベリアルは少しだけ楽し気に笑った。
「いいだろう。 契約は結ばれた。 この戦い、我が闇は貴様と共に戦場を駆けよう。 貴様の敵は俺の敵、共に屠り勝利を共に分かち合おうではないか!」
――そして今に至るのだが――
カナタはこれは不味いと判断して思わず味方を探すがとっくに全滅している。
分かっているのにやってしまったのは圧倒的な不利を悟ったからだ。
だが、それでもと歯を食いしばる。
――やってやる。
ユウヤとベリアルは個別でも強力な相手ではあるが、連携面ではそこまでではないはずだ。
そこを突く以外に勝機はない。 どちらか片方を落とせれば薄いが勝ち目がある。
ユウヤが大剣をハンマーに変形させると地面を踏み砕く勢いで一気に踏み込む。
大振りの一撃。 本来なら簡単に対処できる攻撃なのだが、左右から分身したベリアルの機体が襲い掛かって来る。 これは無理だと判断して下手に受けずに逃げに徹する為に大きく後退。
距離を取ったと同時に背後に斬撃を繰り出すと転移して来たベリアルが受け止める。
「はっはぁ! 流石に良い反応だな光の騎士よ!」
「アンタ! どういうつもり!? 何でユウヤと一緒に――」
「ふ、驚くのも無理はない。 俺と煉獄の化身は好敵手。 相容れない存在。 貴様らの認識ではそうだろう。 だが、星によって導かれ、俺達の道は交わったのだ」
「相変わらず訳の分からない言い回しを! もっとはっきり言いなさい!」
蹴りを放ってベリアルの胴を薙ぐが手応えがない。
エーテルを用いた分身。 本体は直上で片腕を向けている。
「ふ、暗黒の波動を受けよ!」
収束した砲が放たれる。 エーテルを収束した一撃をカナタはエネルギーウイングを噴かして回避。
その先にユウヤがハンマーを振りかぶって待っていた。
「くたばれ」
回避先を誘導された事を悟ったが、これは躱せないので剣を交差させて防御。
派手に吹き飛ぶ事で衝撃を殺すが、腕から肩にかけてダメージ。
体勢を立て直そうとするが既に背後にはベリアルが来ていた。
――不味い。
ベリアル相手に懐に入れるのは危険すぎる。
短距離転移を織り交ぜたラッシュは簡単に止める事は出来ない。
一番いいのは距離を取る事で、下手に付き合わずに逃げるのが最適解。
そうする事で少なくとも何もできずに受けに回らされるのだけは避けられる。
ベリアルもそれを理解しているが、執拗に追いかけるのを止めない。
何故なら数秒、足止めをするだけでユウヤが追い付いてくるからだ。
二人の攻撃を同時に捌く事は不可能。 だから更に噴かして逃げる。
その繰り返しだ。 状況を俯瞰すれば膠着に見えるかもしれないが、逃げるのに全力なカナタは急加速を多用しているのでジェネレーターにかなりの負荷がかかっている。
このままだと逃げ切れない。 強制冷却に入った時点で終わる。
その前にどうにか押し返す必要があった。
――次で仕留めに行く。
狙うのはベリアル。 次に転移して来たタイミングでカウンターを仕掛ける。
基本的にベリアルは転移後は死角から仕掛けてくるので、見え辛いだけで分かっていればタイミングはある程度ではあるが分かるのだ。 そこを一突きにする。
距離を取ったと同時にベリアルの姿が消失。 転移。
来る。 振り向きながら右の剣を一閃――するが居ない。
現れたのは前。 一手遅れた事に焦り過ぎたと思いながら左で刺突。
胴体の中心を貫いたのだが、手応えがない。 中身のない分身だ。
次が本命。 何処から来る。 今度こそ背後? 空中なので斜め下等の死角の可能性も高い。
視界ではなくセンサーシステムに意識を集中する。 姿は隠せてもこの距離ではジェネレーターの反応までは消せない。 現れた瞬間に即座に察知できるだろう。
センサーがベリアルの姿を捉えた今度こそ背後。 右の剣を握ったまま手首を回転させる。
滅多にやらないが、振り切った状態なので使わざるを得なかった。 ベリアルは刃を掴んで止める。
パワーではカナタの方が上なのでこのまま力任せに叩き切ろうとしたのだが、嫌な予感を覚えて咄嗟に推進装置を切って落下。 一瞬、後れて前方に居たベリアルの分身体の胴体から大剣の刃が突き出てきた。 ユウヤが追い付いてきたのだ。
「ふ、そろそろ呼吸が苦しいのではないか?」
ベリアルは片腕をブレードに変化させて斬撃を繰り出し、カナタはその全てを器用に捌く。
その間にユウヤが背後から大剣を一閃。 胴を狙った横薙ぎ。
エネルギーウイングを噴かして急上昇。 左右にベリアルとその分身体。
エーテルによるクローでの引き裂き。 左右に居るが左しか動いていない。
右はフェイク。 回避の直後なので体勢が不十分なので受けるしかなかった。
次はと考えていると不意に機体に衝撃。 エネルギーウイングが切り裂かれて破壊された。
ベリアルの分身体が動いて攻撃してきたのだ。 何で? どうやって?
疑問を抱いたが、推進装置を破壊された事により墜落。
もう何もできなくなった。 この状態で追撃を躱す事は不可能だ。
落下先には大剣を振りかぶったユウヤが待っていた。
「じゃあなクソ女」
斬撃。 カナタの機体は両断され――爆発した。