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第452話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦⑬

 カナタが倒れた事で『栄光』は全滅。 『星座盤』の勝利となった。


 「やったぜ!」

 「やー、最初は危なかったけど、何とか勝てて良かったなぁ」


 素直に喜ぶマルメルとふわわだったが――

 部屋の隅で小さくなっているグロウモス。 


 「クソ、初手でピンポイント狙撃? コックピットじゃなくてアバター狙いとかどんな射程と命中精度なのよ。 恥をかかせやがって絶対に潰してやる潰してやる潰してやる……」


 ヨシナリはなんだか久しぶりだなと思いながらそっとしておこうと無言で離れた。

 シニフィエは小さく息を吐くだけ。 タヂカラオは特に何も言わない。

 ユウヤとベリアルは無言。


 ホーコートはやられたので少し落ち込み気味だが、多少は前向きになったのか今まで程ではなかった。

 いい傾向だと思いながらパンパンと手を叩いて注目を集める。


 「はい、サクッと感想戦するので集まってください」

 「ヨシナリ君、これは毎回やっているのかな?」

 「そうですよ。 勝っても負けても見直しは必要だと思ってます。 まぁ、テストで見直しと自己採点するような感じとでも思って貰えれば」


 タヂカラオはなるほどと納得したように頷いた。

 『星座盤』が少数だからこそできる事と言えるだろう。 

 大規模だと必ず参加を面倒と感じるものが現れるからだ。 一戦毎に自らの戦いを見直して何が足りないのかを見極め、成長に繋げる。 


 自覚はないかもしれないが、個々の技量の伸びが良い要因の一つだろう。

 加えて全員のモチベーションも高く維持しており、士気も高い。

 内側に入って見ればこうして学ぶべき点、感心する点が多かった。


 Aランクに上がってそこそこの人数を率いた経験もあって、今更小さな所で学ぶ事はないかとも思っていたが、気が付けばここに来てよかったと思えるようになっていた。 

 それになんだか居心地が良いのでやっていて楽しいのだ。


 「さて、では再生しますよー」


 ヨシナリはウインドウを可視化して表示させる。 

 ステージは荒野で障害物の類は少ない。 その為、互いの実力が露骨に出る戦場だ。

 『星座盤』は西、『栄光』は東に配置。 フィールドの端に配置されている事もあってある程度近づくのは必須だったのだが――


 「センドウさん。 もう狙い付けてるし」


 『栄光』側を見れば開始と同時にセンドウが腕と一体化した狙撃銃を膝立ちで構えていた。

 気付いたヨシナリが咄嗟に回避し、反応が遅れたグロウモスがそのまま撃破される。


 「なぁ、ヨシナリ。 これよく躱せたな」

 「ほぼ運だよ。 『栄光』とは何度も当たってるから何かしてくるだろうなと思って警戒していたのが良かった」


 グロウモスの機体がそのまま崩れ落ちる。 

 いつの間にか戻って来たグロウモスが悔しそうに歯軋りをしていた。


 「――にしても出力を絞ってのピンポイント。 機体ではなくアバターを焼く事に目的とした高精度狙撃か。 元々、センドウ君は狙撃手として優れているとは思っていたがここまでだったか?」 

 「恐らくは装備で補っているんでしょう。 ほら、これを見てください」


 ヨシナリが映像を拡大するとセンドウの機体が狙撃に入る前に頭部がゴーグルのような物で覆われる。 


 「なるほど。 精密射撃用の装備という訳か」


 こうして俯瞰して見ると『栄光』の戦い方がよく分かる。 

 センドウの狙撃で先制して圧をかけ、指揮官と遊撃手を兼ねている邪魔なヨシナリをツガルが抑えて身動きを封じ、他のメンバーはふわわの斬撃を警戒して遠距離から削りつつフカヤが奇襲を狙うと。


 「こうして見るとウチらかなり研究されてるなぁ……」

 「徹底して接近させない事を意識していますね。 ふわわさんが奇襲に強い事を見越してフカヤは隙を窺っている感じかな?」


 その間にセンドウは移動して再度狙撃。 今度の狙いはホーコートだ。

 狙撃を警戒して突出しないようにしていたが、障害物の少ないこのフィールドだとあまり有効ではなくそのまま射抜かれて即死。 


 「これマジで厄介だな」


 ヨシナリは気にするなとホーコートの肩に手を乗せて呟く。

 エネルギーの発生が最小限で何らかの手段で漏出を抑えているようだ。

 シックスセンスなら探知は出来るが、見逃してしまえば分からなくなるレベルの反応だった。


 「……多分、シックスセンス対策」

 「でしょうねぇ。 『栄光』には散々、手の内を見せてるので対策は練られていると思ってましたがここまでとは」


 グロウモスの言う通り、完全にシックスセンスを意識しての構成だった。


 「お義兄さん的には全然見えなかった感じですか? 私はセンサーシステムのリンクがあっても全然わかりませんでした」

 「俺も意識してみないと分からないな。 反応が出るのもほぼ一瞬だから、見逃すと本当に分からない。 移動の痕跡も上手に消している所から一通りの探知に対しての対策できてると思う」


 乱戦でこのレベルのステルスはかなり厄介だ。 

 余程、目を凝らしていないと発見は困難。 痕跡も小さく、隠密性に振った機体構成はセンドウが新しく確立した戦闘スタイルと言ったところか。 


 ――だが、その僅かな痕跡を見逃さなかった者が居た。


 ベリアルだ。 

 ホーコートを仕留めた所を捕捉したらしく、真っすぐにセンドウの方へと向かっていた。

 それを阻止しようと二機が止めに入ったが、まるで相手にならない。 


 最初の一機は機動だけで翻弄して背後を取ってエーテルブレードで両断。

 二機目は短距離転移による分身で左右から仕掛け、逃げようとした所を先回りして撃破。

 強すぎる。 二機ともエンジェルタイプだったのだが、文字通りの瞬殺だった。


 そのままふわわを狙おうとしていたセンドウへと強襲。

 足止めの機体が居るからと安心していたのか、ステルス性に自信があったのかは不明だが、反応が致命的に遅れてしまった。 狙撃仕様の機体でベリアルを懐に入れてしまうとどうしようもない。


 それでも数手分、持ち堪えたのは流石だった。 


 「ふ、環境に溶け込む事で意識の死角に潜り込む狩人。 見事な隠形だったが、闇そのものである我が魔眼を欺く事は不可能だったようだな」


 分身、短距離転移と軽すぎるフットワークの三つの組み合わせから逃げる事は出来ずに腕と一体化した銃身を掴まれた時点でもうどうしようもなかった。 文句のつけようのない完璧な仕事だ。

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