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第453話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦⑭

 少し巻き戻して視点を戦場の中心へ。

 『星座盤』側はマルメルとタヂカラオ。 ふわわ、シニフィエは左右に散っている。

 対する『栄光』側はイワモトを先頭に背後に砲戦仕様のプリンシパリティが二機。


 遊撃にエンジェルタイプが一機。 

 タヂカラオはミサイルや実弾をばら撒きながら機体を左右に振って敵の攻撃を引き付けている。

 その間にマルメルがエネルギーフィールドを展開して前進。


 ハンドレールキャノンを当てられる位置まで出るつもりのようだが、イワモトがそれをさせない。

 マルメルの放った弾体がイワモトの掲げた盾によって逸らされる。


 「斥力フィールドかぁ、これ使われると実弾兵器はほぼ駄目だなぁ」

 「見た事のない盾だね。 カナタ君が作らせたのかな?」

 「恐らくはそうでしょうね」


 イワモト用に彼女がオーダーメイドした武装で間違いなさそうだ。

 堅牢なタワーシールドは実弾をほぼ完全に無効化している。


 それは武装が実弾に偏っているマルメルとしては頭の痛い問題だった。

 ただ、燃費はエネルギーフィールドよりも悪く、いつまでも防げないはずだ。


 つまり撃ち続ければ飽和はさせられる。 

 本来ならマルメルが前に出てハンドレールキャノンで敵の後衛を削る案だったのだが、上手く行っていない。


 「敵の構成も考えられているね。 プリンシパリティ二機、武装はエネルギーキャノンとガトリング砲、もう一機は爆発範囲の広いプラズマキャノンとレーザーか」

 「完全に役割分担をしている所を見るとイワモトさんの守りを信頼してるって事でしょうね」


 タヂカラオが感心したように頷き、ヨシナリもそうですねと同意していると不意に肩を叩かれる。

 シニフィエだ。


 「どうかした?」

 「信頼してるっていのは?」

 「あぁ、この二機って武装が違うだろ? これは互いの死角を補い合ってるんだ。 つまり、片方が落ちると割と大きな死角ができる。 この場合の死角は主に武器のリチャージタイムだけどね」

 「似たような武器に見えますが?」

 「どっちもエネルギー系の武装だから同系統なんだけど、チャージにかかる時間が違うから、お互いに再発射までの時間を稼ぎ合ってる感じだね。 普通なら携行武器とかで手数を増やすんだけど、この二人は完全に面制圧に全てを費やしてるから片方が落ちるとかなり困った事になる」


 ここまでバランスの悪い構成なのはふわわを警戒しての事だろう。

 彼女は単騎でも充分に脅威なので近寄らせない事が重要だ。

 間合いの取り方も明らかに野太刀を警戒している。 当然ながらそれだけでなく、ふわわへの牽制を行いながらマルメルへ火力を集中している点も上手い。


 加えて、攻撃範囲の広い武装を多用する事でナインヘッド・ドラゴンを使う隙も与えない。

 当然ながら抑えているだけでは勝てない。 砲撃は彼女の意識を散らしつつ隙を作る為の物だ。

 本命はフカヤによる暗殺。 リプレイ映像で見ると彼の動きはかなり秀逸だ。 


 砲撃された後の場所を移動して粉塵などに身を隠して敵に居場所を悟らせないようにしつつ接近。

 こちらもシックスセンス対策でステルスにかなり力を入れているようだ。

 フォーカスすると機体の装備が変わっているのが分かる。 


 ここまで力を入れると探知は難しいだろう。 


 ――相手がふわわでなければ。


 「いや、ふわわ君が殺気を感じると言い出したので信じて任せたんだが、本当に見つけ出すとは思わなかったよ」


 砲撃の僅かな切れ目とフカヤの奇襲が重なるタイミング――具体的には押し込まれたマルメルを仕留めようと火力を集中した瞬間にナインヘッド・ドラゴンを用いた一閃。

 フカヤは放ったボルトごと両断されて脱落。 恐らくは何が起こったのか理解できなかっただろう。

 明らかに間合い――というよりは意識の外から飛んで来た斬撃に対応できる訳がなかった。


 同じタイミングでイワモトの背後に回っていたシニフィエが奇襲。 こちらも上手い。 

 ふわわ、マルメルに意識が集中していた事もあってマークが緩い事を上手く利用して接近している。

 爆炎や粉塵に身を隠す動きも秀逸だった。 接近に気が付いて振り返ったのが攻撃の合図だ。


 頭を抱えられて胴体のコックピット部分に膝を叩きこみ、追い打ちとばかりに仕込んだパイルバンカーを喰らわせた。  

 いくら装甲を盛ったイワモトといえどあの距離で喰らえばどうにもならない。 

 胴体に風穴を開けられて、そのまま崩れ落ちる。


 奇襲の失敗を悟ったエンジェルタイプが突っ込むが、粉塵に紛れたタヂカラオが肉薄。

 支援機だと思っていた機体が前に出てきた事に敵機は僅かに動揺する素振りを見せたが、機動と旋回性能を活かして仕留めに行った。 体を右に流したと同時に左に旋回して背後に回る。


 「フェイント上手いな」


 完全に体の向きと旋回方向が逆だった。 

 誰だこれと思ってフォーカスするとプレイヤーネームは『アティメスタリア』。

 侵攻戦の時少し話した相手だった。 


 ヨシナリはあぁ、あの人かと考えている間にタヂカラオの背後に回り、エネルギーブレードを展開して斬撃を繰り出す前にその胴体に深々とパンツァーファウストがめり込んでいた。

 完全にタイミングが合っている点からもしっかりとフェイントを読んでいたようだ。


 くの字に折れ曲がって吹き飛んだ機体にタヂカラオは特に振り返らずにパンツァーファウストを発射。 弾頭は吸い込まれるように命中し爆発。

 使い切った本体部分を投げ捨てたタヂカラオは特に振り返る事もなく次へと向かう。


 「流石ですね。 フェイントを見切るコツとかあるんですか?」 

 「あぁ、簡単だよ。 ああいう時は相手の推進装置を見るんだ」


 タヂカラオは映像を少し巻き戻すと敵機が旋回する直前の所で止める。


 「ほら、機体は右に流れてるけどエネルギーウイングは左方向に向いてるだろ?」

 「あぁ、なるほど。 空中だから機体の向きではなく推進装置の向きを見れば動きが読めるのか」

 「その通り、ごまかしたいならエネルギーウイングを動かすのもギリギリまで待った方がいい。 動き出しと同時に噴かすのが理想だね」


 遊撃手が居なくなった事で残りは砲戦機が二機だけ。

 厳しいと悟ったのか敵機は後退しながらの引き撃ちに移行しようとしていたが、いつの間にか

背後に忍び寄っていたシニフィエが一機の背に取り付くとエネルギーウイングを掴んで握り潰す。


 「タヂカラオさんに視線が行ってたので隙だらけでしたね」


 映像の向こうではシニフィエがとどめを刺そうとしていたが、慌てた様子で飛び降りる。

 何だと映像を引くと既にふわわが野太刀を構えていた。 タヂカラオ、シニフィエの順で意識を散らされた事で反応が遅れてしまったようだ。 横薙ぎの一閃。


 一機はどうにか躱したが、残りの上半身と下半身が泣き別れて爆散。

 残りがふわわを落とそうと砲口を向けるが近くで隠れていたアルフレッドが迷彩を解いて現れ、両肩に搭載された榴弾砲を連射。 完全に意識の外だった事もあってまともに喰らって大破。


 これはどうしようもないだろう。 

 元々、アルフレッドはシックスセンスを用いての情報支援に徹するという事だったが、大きな隙を晒したので出てきたようだ。

 割と苦しい滑り出しではあったが、蓋を開けると危なげなく勝利できたと言える。


 敵の足止めをしつつステルス機で仕留めるといった思惑を看破し、ふわわ、シニフィエが左右に広がり、防御に優れるマルメルを中央に据えてのフォーメーション。


 「これはタヂカラオさんの指示ですか?」

 「ちょっと提案しただけさ。 ふわわ君が敵のステルス機の居場所を割れるという事なので僕としても動き易かったよ。 前だけを見てればいいからね」


 タヂカラオは正面から来る相手ならそこまで怖くないからねと付け加えた。


 「そんな事よりも僕としてはヨシナリ君の活躍を見せて欲しい所だけど?」

 「そうだそうだ! チラっとしか見てないがなんか格好いい事してただろ! 見せろよー!」 


 ヨシナリは苦笑して映像を切り替えた。

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