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第454話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦⑮

 少し巻き戻してヨシナリの戦闘へとフォーカス。

 真っすぐに突っ込んで来たツガルの機体と戦闘に入った所だった。


 「これヤバいなぁ」


 思わずマルメルが呟く。 ヨシナリとしても全くの同感だった。

 既存の機体の枠に収まらない縦横無尽と言える自由な機動。 

 ジグザグに動いたと思えばヨシナリを中心に綺麗な円を描くような動き。 


 それを既存機を上回るスピードで行うのだ。 はっきり言ってやってられない相手だった。

 映像の中のヨシナリは敵の挙動を目で追う事を早々に諦め、攻撃する為に減速したタイミングでの回避を狙う。 スピードは大したものだったが、正確に当てるには動きを止める必要がある。


 「まぁ、乗り換えたばっかりって事もあってまだ慣れてないし、武装の最適化もまだまだって感じだったのでその辺に救われた感はあったな」


 足を止める事の危険性を理解しているツガルは早い段階で減速する事を止め、機体を振り回し前後に付いている機銃で弾をばら撒いて削る方針に切り替えたようだ。 

 元々、ツガルの役割はヨシナリを抑える事にある。

 指揮官兼遊撃手としてのヨシナリを封じるだけで『星座盤』の戦いの幅は大きく狭まるからだ。


 ――タヂカラオが居なければ非常に有効な手ではあったが。


 「――にしてもどっちが前か分からないデザインだなぁ」

 「加えて回転しながら飛ぶから動きが読み辛い」


 前後のデザインが同じなので動く時に混乱させられる。 

 シックスセンスで視えなくはないが、既存の推進装置ではないので動きの起こりが読み辛いのだ。

 恐らくは意図してデザインされたであろう事は明らかなので、後で見直すと面白いといった感想が出てくる。 


 「逃げ回りながら拳銃で応戦してるんはやっぱり余裕がなかったからなん?」

 「それもありますが、動きの傾向を掴みたかったので情報を集める為の時間稼ぎですね」


 アシンメトリーの最大出力なら貫けなくはないだろうが当てられる気がしなかったので、攻撃の回転重視でアトルムとクルックスをメインに使用する事にしたのだ。

 その後は互いに膠着と言った様子だったが、ツガルは弾をばら撒いて削りに行っている事もあってヨシナリは徐々に押されつつあった。 


 「ここでヨシナリが何かすげーの使うんだろ?」

 「あぁ、はいはい。 じゃあそろそろ説明するよ」


 早く教えろと言わんばかりのマルメルに苦笑。 

 映像ではホロスコープが全身からエーテルを噴き出している所だった。

 推進装置から噴き出す光も闇色に染まる。 


 「ふ、我が闇の力を内包せし心臓。 貴様の体に馴染んで来たようだな」

 「いや、まだだ。 貴公から受け継ぎし闇の心臓――その鼓動は我がホロスコープの身を焼く諸刃の剣。 その炎を御するには更に深く深淵に触れ、闇の叡智を蓄えねばならん」

 「……つまりどういう事??」


 もう慣れたのか一切気にせず質問するマルメルに慣れていないシニフィエとホーコートは「いきなりどうした?」と言わんばかりの視線を向け、ユウヤはやや呆れており、タヂカラオは苦笑。


 「まずは俺の機体の話をするよ。 えーっと、俺のホロスコープには闇の心臓――じゃなくてベリアルの使っていた『パンドラ』って特殊ジェネレーターが積んであるのは知ってるな?」


 頷きで応えるマルメルにヨシナリは映像を操作して自機を拡大。 

 機体の各所からエーテルが噴き出している。


 「元々、ジェネシスフレームは既存のフレームとは規格から違うので、変換用のパーツを噛ませて無理矢理機体に通常のジェネレーターと認識させてるんだ。 ――で、トルーパーには出力の上限って奴があってだな」


 簡単に説明するとフレームが耐えられる限界出力の事を指す。

 通常フレームとプラスフレームのデザインは同じに見えるがここが違うので武装などの自由度が変わって来るという訳だ。 


 そしてパンドラはキマイラ+許容量を大幅に超過した怪物ジェネレーターでもある。

 つまり機体のステータス上では通常のジェネレーターとして認識されているが、出力を上げれば簡単にキマイラ+の限界を突破する事になるのだ。


 「ちなみにアレは出力500%状態なんだけど、何を基準にしているのかというとキマイラの上限値からの数値なんだ」


 映像の中では凄まじい速度でツガルの機体を追いかけるホロスコープの姿が映っていた。


 「すげぇ! リミッター解除的な奴か!」

 「概ねその通りだな。 だけど、これには割と洒落にならない欠点があってだな」


 ホロスコープが動く度にエーテルの鎧の内側が小さく点滅するように光る。 

 それはまるで星空の瞬きのようだった。


 「キラキラしててえぇなぁ」

 「ビジュアル的には中々におしゃれなんですけどあれ実は中で機体のあちこちが爆発してるんですよ。 それを誤魔化すのと空中で分解するのを防ぐ為にエーテルの鎧で押し込めてるんです」

 「ま、マジかよ……」

 「マジなんだ。 一応な、パンドラって本気出せば1000%ぐらいの出力が出せるんだけど、出したらエーテルの鎧で押し込めてても機体が爆発する」


 ものは試しにと実行したのだが、1000%を実行した瞬間に機体が爆発して即死した。

 900、800と段階的に出力を落として試したが、微妙に遅いだけで即座に機体が爆発するので使い物にならないのだ。 


 水中で試したら多少は保ったが、急激な加熱と冷却にパーツが耐えられずに結局、爆発した。 

 ベリアルと検証した結果、500までなら何とかギリギリで戦闘機動が可能という事が分かったのだ。

 ただ、可能というだけであって爆発しない事を保証する物ではない。


 「機体のコンディション――要は使うまでにダメージを受けすぎてたらやっぱり爆発するし、割とギャンブルな切り札なんだ」

 「――なら、全開で切るのはかなりリスキーではないのかい?」

 「はい、仰る通りです。 もしも機体が爆発したら勝手に死ぬ事になるので、皆に迷惑がかかってました。 そこは反省しています。 ただ、言い訳させて貰うと、あの状態のツガルさんを仕留めるにはアレしかありませんでした」

 「粘る事も出来たのではないかい? 下の様子を見れば分かるけど、待っていれば僕もそうだけど、ベリアル君達が戻って来れた。 それを理解できない君ではないだろう?」


 タヂカラオの言葉は叱責にも聞こえるが、責めるような意図は含まれておらず純粋に疑問だといった様子だった。

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