「――はい、確かにその通りです。 恐らく、粘るだけでどうにでもなる状況でした」
「なら、あのタイミングで切り札を切った理由は?」
ごまかす事も出来なくはないが、真剣に聞いてくる相手にそれは失礼だ。
「ツガルさんが本気だったからですね。 あの人は本気で俺を潰しに来ました。 だから俺はそれに応える必要があると思ったんです」
本気なだけならここまで応じる事はなかったが、明確に自分に向けられた感情なのだ。
なら友人としてそれに応えるのはヨシナリにとって必要な事だった。
タヂカラオは少し考えるように沈黙する。
「――話は分かった。 遮って悪かったね」
「いえ、ご意見はもっともなので何かあれば遠慮なく言ってください」
話は終わったと判断して映像を動かす。
過剰供給によりポテンシャル以上の動きを発揮するホロスコープ。
機動性で同等以上になったので、銃撃で削るより一撃で仕留めに行くつもりのようだ。
武装はこれまで使わなかった大剣を変形させたハンマー。
ツガルはギリギリまで引き付けての回避からのカウンターを狙っているようだ。
こうして見ると露骨に引きつけに来ていた。 そして紙一重での回避。
「うわ、すっげ、すり抜けたように見えるぐらいギリギリの回避だな」
「正直、あそこまで引き付けられるとは思わなかった」
それぐらいに見事な精度の回避だった。
ヨシナリはハンマーを振り切った後も旋回を止めずに一回転。
躱したと思って攻撃に意識が傾いていたツガルは反応が遅れ、一撃を貰う。
「なぁ、ヨシナリ君」
「何ですか?」
「アレは狙ってたん?」
「はい、ハンマーは威力はありますが大振りな分、隙ができやすいですからね。 それを補う意味でも振り切っての連続攻撃に繋げました」
元々、ヨシナリの近接スキルはそこまで高くない。
ふわわやシニフィエのように最適な振り方というものに対する理解が浅い以上、自分なりの解を見つけなければならない。 考えた結果があれだ。
エネルギーウイングの旋回性能を活かして全身を使って振り抜く。
参考にしたのはツェツィーリエの動きだ。 彼女の蹴り技はエネルギーウイングを用いて全身を独楽のように回転させる一撃。
躱されても次に繋げられるので隙を減らす事もできる非常に合理的な動きだ。
腕ではなく体の一部として体ごと振り回す。
それがユウヤから譲りうけた大剣『イラ』に対してのヨシナリなりのアンサーだった。
ツガルはヨシナリがどうあの武器を扱うかを理解していなかった事もあって、一撃を喰らう。
「どっちが前が分からないからいまいち効いてるか分からないですね。 ――シックスセンスで判断は付くんですか?」
シニフィエはやや体勢を崩したツガルの機体を見て尋ねてくるが、ヨシナリは首を傾げて見せる。
「実を言うと良く分からない。 エネルギー流動は見えはするんだけど動力が機体の中心だから前後までははっきりしないんだ」
「あぁ、そうなんですね。 なら設計時点で前後を誤認させる事を盛り込んでいるんでしょうか?」
「多分だけどそうだと思う」
ツガルの機体は徹底して前後を相手に悟らせない事で相手の反応を遅らせようとする意図が見える。
その為、横に向けると左右対称にする必要があるという制約があるが、その辺りを活かすのは今後のアップグレード次第といった所だろう。
ツガルはダメージこそ受けたが致命的ではなかったようで銃口をヨシナリに向けるが、ヨシナリも応じるように掌を大きく開いてツガルへと向けた。
発射は同時だが、ツガルの機銃から放たれた無数の弾はヨシナリの収束したエーテルの砲に呑み込まれる。
「素晴らしいぞ魔弾の射手よ! あれこそ暗黒の波動! 全ての存在を光なき世界へと誘う一撃!」
「…………ふ、深淵の闇で鍛えし炎を束ねた一撃。 我が未熟な身では不完全ではあったが、その片鱗だけでも威力は絶大だ。 闇の王よ、貴公の闇は最強へ至るに足る器と証明されたと言っていいだろう」
「ふ、ふは、ふはははははは」
「はーっはっはっは」
ベリアルがやや興奮気味に笑いだしたのでヨシナリも一緒に笑った。
「多分あれかな? 自分のあげた武器で大活躍したからベリアル君、嬉しいんよ」
「あぁ、ベリアルさんってお義兄さんの事が大好きなんですね」
「あれ見ろよ。 どうみてもただの仲良しだろ」
肩まで組みだした二人の姿を見て三人はひそひそと話し、グロウモスは妬ましいと言わんばかりに歯軋り。
ユウヤは何かが琴線に触れたのか小さく笑い、ホーコートは話に入っていけなくて取り敢えず頷いた。 タヂカラオは完全に振り切ったヨシナリの言動に震えていた。
――す、凄い。 自分にはとても真似できない、と。
「さて、リーダー的な威厳は見せられたかなと勝手に思った所で次に行きましょうか」
笑うのを止めたヨシナリは映像を切り替える。
映し出されたのはカナタとユウヤの二人が凄まじい潰し合いをしている様子だった。
序盤は大剣での打ち合い。
二人ともメイン武装の基本形態は同じ大剣なので、技量の差が分かり易く出る。
純粋な打ち合いならカナタに分があるが、ユウヤには多種多様な武装が存在する。
攻撃の合間に散弾砲、電磁鞭を織り交ぜて上手に隙を消していた。
対するカナタは機体の堅牢さでそれをいなしつつ距離を取る。
例のエネルギーの大剣だ。 出し入れが簡単なので長物特有の懐に入られるリスクを極限まで削ぎ落している。 改めて見るととんでもない技量の高さだった。
特に近接スキルはふわわほどではないがある種の完成を見せており、そう簡単には突破は出来ないだろう。
だが、ユウヤには新たに手に入れた武器があった。 エネルギー兵器の無効化装置。
正確には無効化のフィールドを展開してエネルギー系の武装を一瞬だけ使用不可にする。
エネルギーブレード相手だと割と致命的で、形状維持が出来なくなるので影響下では完全に使い物にならなくなる。
カナタは即座にそれを理解したのか大剣を二分割して二刀に切り替えた。
「判断、滅茶苦茶早いな」
即座にエネルギー系の攻撃手段を捨てたのだ。 中々できる事ではない。
加えて柄での連結で両剣へと形を変える。
回転を経由した斬撃は見た目以上の切断力を誇り、何より厄介なのが――
下から掬い上げるような斬撃だったが、途中で刃を蹴って加速させている。
――これだ。
目が慣れたタイミングでこれをやられると高い確率で貰う。