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第456話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦⑰

 攻撃の回転はカナタが勝り、威力はユウヤが上回る。 

 その為、ユウヤは下手に踏み込まず受けに回っていた。 


 「この時は何を考えてたんだ?」

 「……あぁ、勝つ事だけを考えてた」


 ヨシナリの質問にユウヤは即答。 

 こうして見ると以前の対抗戦の時に見せた噛みつくような戦意が感じられない。

 弱くなったのではなく、挙動に冷静さが感じられる。 


 勝つ事だけを考えているという言葉に嘘はなく。 明らかに勝機を窺っていた。

 カナタも普段との違いを感じているのか、警戒している様でやや引き気味だ。 

 普段と違う事をしてくるかもしれないと、全開で攻めずに余力を残している。


 だが、それだと負けないだけで勝てない。 

 全体の戦況を考えるならそろそろ決着を急ぎたいはずだ。 


 ――そろそろか。


 ヨシナリが内心でそう考えた頃に動きがあった。

 電磁鞭を切断し、散弾砲を撃たせたタイミングでアーマーをパージ。

 加速して旋回。 仕留めに行った。 あの動きの変調は簡単に見切れるものではない。


 このままだと入る。 そう誰もが思っただろう。

 少なくともヨシナリにはアレを無傷で躱せる自信はなかった。 

 カナタの斬撃は割り込んだ機体によって止められる。 ベリアルだ。


 ベリアルが助けに入った事も驚きだが、ユウヤがそれを受け入れている点からもこれを要請したのがユウヤだと言う事が分かる。 

 流石にこの展開を想像していなかったカナタは目に見えて動揺していた。


 「うわ、こんなの無理だろ……」


 マルメルが思わず呟く。 ヨシナリも全くの同感だった。

 元々、高い個人技を持った二人だ。 それが連携するなんて悪夢以外の何物でもない。

 しかも即席とは思えないほどの高い連携だった。 


 ベリアルが短距離転移と分身を用いる事で攪乱しつつ仕留めに来るので意識を分散される。

 アレをやられると相当邪魔だろうなと思いながら、二人が味方で良かったと内心でほっと胸を撫で下ろす。 

 圧倒的に不利な状況にもかかわらずカナタはかなり粘った。 


 足を止めるのは自殺行為と判断して常に距離を取り続ける戦い方はベストではないかもしれないが、無難な選択肢だ。 ユウヤとベリアルの機体に速度差がある以上、短時間は一対一にできる。

 距離を取り、追いかけてきたベリアルと交戦。 ベリアルもカナタの意図を理解しているので無理に突っ込まずに削りに徹し、ユウヤが追い付いてきたタイミングで攻めに転じる。


 振り切ろうにもアルフレッドが見張っているのでそんな真似は出来ない。

 結果、二対一になったと同時に離脱し、ベリアルと戦ってユウヤが追い付けばまた逃げるを繰り返す事となった。 


 だが、それもいつまでも続かない。 

 何故なら、ジェネシスフレームと言えどジェネレーターが吐き出す出力は無限ではないからだ。

 カナタは徐々に息切れを起こし、最終的に逃げる事が出来なくなった。 


 そうなってしまえばもうどうにもならない。

 二人のランカーの猛攻に耐えきれる訳もなく奮闘虚しく脱落。

 試合は終了なのだが、一つ気になる事があった。


 「闇の王よ。 一つ尋ねたい」

 「ふ、我が戦友よ。 なんでも聞くがいい」

 「最後の一撃、二つの分け身を用いての挟撃。 左が真打であるように見えたが、実際に致命打を与えたのは右。 これは影の間を跳躍したと見て間違いないか?」

 「我が闇の跳躍を見破るとは流石は我が戦友。 貴様の言う通り、我がプセウドテイは闇の領域を征く事で光の騎士の死角を突いた不可避の一撃を放ったのだ」


 ベリアルは流石だと言わんばかりに嬉しそうに応えるが、マルメルとホーコートは不思議そうに首を傾げる。


 「なぁ、後輩。 言ってる意味わかるか?」

 「さーせん。 分かんないっす」


 ヨシナリは映像を少しだけ巻き戻す。

 ベリアルがカナタを挟むように分身体を出現させた所だ。


 「仕留める瞬間の映像なんだけど、明らかに左が動いてるだろ?」

 「あぁ、動いてるな」

 「でも、カナタのエネルギーウイングを破壊したのは右。 どういうことかって言うと、この時点ではベリアルの本体は左だったんだよ」


 そこまで言うとマルメルの脳裏に理解が広がった。


 「あ、分かった。 転移で本体だけを分身の中に移動させたのか」

 「そう言う事だ。 分身だと思って警戒を解いた所を一撃。 これは初見で見切るのは難しいぞ」


 加えてユウヤへの対処があったのでいくらカナタが強くても明らかにキャパシティをオーバーしている。 

 結果は『星座盤』側はホーコートとグロウモスが撃破。 

 被害こそ出たが充分に満足できる試合内容だった。


 「一先ずは一回戦を突破できた事を喜ぼう。 次は二回戦、そろそろ対戦相手が何処か決まる頃だろうし、対策でも練りますか!」

 「……次は活躍して見せる」

 「うっす、頑張ります」


 グロウモスもホーコートも心は折れていなさそうなので大丈夫かと思いながらウインドウを切り替えてトーナメント表を開くと次の対戦カードが決まっていた。


 『星座盤』の次の相手は――『思金神、三』


 「おいおい、いきなり大物と当たったな」

 「三って事は三つ目のチームって事でいいですか?」


 ヨシナリはタヂカラオに尋ねると頷きが返って来た。


 「あぁ、一軍は『思金神』、二軍は『思金神、二』だから、彼等は三軍の代表だね」

 「情報とか出せますか?」

 「勿論、彼等の事は良く知っているからね。 知っている情報は喜んで提供するとも」


 ヨシナリはではお願いしますと場所を変わる。 

 タヂカラオは可視化したウインドウを開くと機体の画像が出現した。


 「まずは戦力構成だけど、ジェネシスフレームが最低四機は居る」

 「ま、マジっすか?」


 驚くマルメルにタヂカラオは「マジなんだ」と苦笑。


 「説明する前に軽く『思金神』の組織形態に触れておこうか。 人数が多いのでマスターであるタカミムスビさんが管理しているのは一軍のみで他は代表を決めて分割管理しているといった感じでね。 要はユニオンの中に小さなユニオンがいくつかあると言えば分かり易いかな?」


 タヂカラオ曰く『思金神』はピラミッド型の構造をしており、一軍、二軍と分けてそれぞれリーダーを決めて管理させているようだ。 

 ちなみに全部で十軍まであるらしく、それ以下はヒラのメンバーとなる。


 さて、このランク形式は管理のしやすさだけではなく上がれば上がるほどにユニオンからの支援が手厚くなるので誰も彼もが一軍を目指すという訳だ。

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