このステージはフィールドの中央、東西に横断する形の渓谷が存在し、飛行しない場合は谷を降りる必要があった。 降りてしまうと射線が通らないので、降りるよりは飛び越えた方がいい。
マルメルとホーコートは渓谷に差し掛かった所で減速。
空を見上げるとヨシナリとタヂカラオが敵機と交戦に入った所だった。
「後輩! 行け!」
「うっす!」
ホーコートが上昇して谷を挟んで向こう側に銃弾を撃ち込む。
狙った訳ではなく炙り出す為の行動だ。 ばら撒かれた銃弾が次々に着弾するが、反応は――
即座に応射される。
「よし、釣れた。 後輩、もういいぞ、下がれ!」
ホーコートは即座に後退。
この後輩は目を離すとすぐにやられるので早めに下げた方がいい。
味方の撃墜は士気の低下にも繋がるので可能な限り、死なないように立ち回って欲しいという指示を受けていた。 少し面倒ではあるが、貴重な戦力なのだ。
大事に使って行くという方針には賛成だった。
序盤の動きとしては敵の戦力構成を把握する事だ。 まずはジェネシスフレームが二機。
エンジェルタイプが一機。 残り七機の正体を割るまでは遠巻き撃って削りに徹する。
ジェネシスフレームの参戦数がはっきりしない事もあって、慎重に進める必要があった。
それにマルメルとホーコートにはもう一つ役目がある。 ふわわとシニフィエが斬り込む為の陽動だ。
他を見つけられないなら今撃ち合っている相手を背後から襲う手筈になっているが都合よくは行かないだろう。 感触から撃ち返してきているのは一機。
可能ならもう一機ほど来てほしかったが、そう上手くは行かないようだ。
グロウモスがそろそろ狙撃位置に着いている頃なので、捕捉出来れば彼女が片付けてくれると信じたいが、明らかに狙撃を警戒しているのか姿を見せない。
ヨシナリと隠れているアルフレッドからのセンサーシステムのリンクを受けているので奇襲は避けられそうだが、距離がある所為ではっきりした位置が分からない。
――まぁ、割と知れ渡っているっぽし対策は練られているだろうなぁ……。
「ま、マルメルさん。 いいんスか? 一機しかきてませんよ」
「良くはないけど仕方ねぇよ。 下手に突っ込むとこっちがやられる。 ただでさえ、総合力で負けてるんだから闇雲突っ込んだら勝てるものも勝てねぇぞ」
そわそわしているホーコートにはどっしり構えていればいいんだと言っては見たものの内心では少し焦りを感じていた。
本格的に仕掛けるのは得意の中距離戦に入ってからだ。 感触から相手も同じ中距離戦が本領。
今は一機でも抑えておく事が重要だ。 最悪、ベリアル達が何とかして――
地面が僅かに揺れる。 フィールドの北側で大きな衝撃音。
「噂をすれば、か」
位置的にベリアル達が向かった辺りだ。 恐らくは敵のジェネシスフレームと遭遇したと見ていい。
――マジで頼むぜ……。
内心でそう呟いて敵機への牽制を続けた。
ユウヤのハンマーが横薙ぎに振るわれ、ヘッド部分が別のハンマーのヘッド部分と正面から打ち合い、反動で両腕が跳ね上がる。
「チッ、面倒くせぇ!」
「ガハハハ、そうつれない事を言うな! 俺はお前と正面から打ち合えて楽しいぞ!」
低い男の声が向かい合う黒い重量級の機体から聞こえる。 敵のジェネシスフレームだ。
プレイヤーネーム『ウルツァイト』とその愛機『ボロンナイト』。
想定されていた相手ではあったので驚きは少ないが、面倒な相手であった。
黒い全身鎧を思わせる重装甲と長柄のハンマー。
ヘッド部分にブースターが付いており、加速させる事で破壊力を上げている。
ジェネシスフレーム『ボロンナイト』は非常にシンプルな構成でとにかく、パワーと重装甲による防御に偏った機体で、並の武器なら碌なダメージは入らない。
当人も見た目通りに豪快な性格をしており、とにかく突っ込んでハンマーを振り回してくる。
「相変わらずハンマーを振り回す事しか考えてねぇのな! 脳みそポップコーンかよ」
「結構、小難しく考えるから雑念が生まれ、雑念があるから動作に迷いが生まれる。 なら余計な考えは捨ててただ相手を殴り倒す事のみに専心すればいい。 これ、我が切り開きし悟りよ!」
「うぜぇ」
闇雲突っ込んで来るだけの相手ならそこまで怖くはないのだが、ここまで上がれるランカーだけあって接近戦のセンスは本物だ。 ユウヤの攻撃に合わせてハンマーをぶつけてくる。
パワーでは向こうの方が上なので正面からの撃ち合いは分が悪い。
打ち合った反動で下がる事を利用して距離を取り、散弾砲を発射。
散弾では碌にダメージが入らないので一粒弾だ。
「しゃらくさい!」
ウルツァイトはハンマーで一粒弾を叩き落とし、背のブースターを全開にして加速。
ユウヤは下がりながらもう一発散弾砲を発射し、電磁鞭で敵機を打ち据える。
高圧電流が流れるが、表面を流れるだけで機体内部まで電流が届いていない。
「はっはぁ! 小細工は俺には通じんぞ! 男らしく正面から撃ち合おう!」
こういった相手はベリアルの方が相性が良いのだが、当人は――
少し離れた位置でベリアルが目の前の敵機と睨み合っていた。
「ふ、臆病風に吹かれた訳ではなかったようだな」
一機は白と黒のツートンカラーに腰部と背に取り付けられた四基のエネルギーウイングが目を引く機体。
Aランクプレイヤー『カラカラ』とジェネシスフレーム『ペレグリヌス=ファルコン』
もう一機は淡い黄色の機体。 散弾銃と強化装甲による着膨れが目立つ。
Aランクプレイヤー『ラドン』とジェネシスフレーム『ラジウム・ニトン』だ。
「二対一は本意じゃねーんですけど、あんたはここでやっとかないと怖いですからね」
「……だりぃ……」
カラカラは油断なく持っているエネルギーブレードを突きつけ、ラドンは心底から嫌そうに散弾銃を構える。
カラカラに関しては想定されていた相手ではあったが、ラドンは参戦しない可能性が高いと判断されていたのでベリアルからすれば少し意外というのが感想だった。
「怠惰の戦士よ。 貴様は今の地位を守るのに腐心していると聞いたが?」
「あ? 俺に言ってんの? その通りだよ厨二野郎。 勝っても旨味は少ねーし、負けたら下手すりゃ降格。 こんなリスクしかねーイベント、ヤガミさんに降格させるぞと脅されねー限り出る訳ねーだろ」
ラドンは心底から嫌そうにベリアルに向けて散弾銃を撃ち込んだ。