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第460話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦④

 ベリアルは機動のみで散弾を掻い潜り、ラドンへと肉薄するがたたらを踏むように停止。

 カラカラのエネルギーブレードだ。 


 「やー、ベリアルさん。 ユニオンに所属するとかマジで意外なんスけど、なんか心境の変化でもあったんですか? つーか、入るにしても『星座盤』とかいう弱小より、ウチの方が良くねっスか? サポートも手厚いっスよ? ベリアルさん位の実力があれば二軍、どころか一軍も視野に入るのに――っと」


 カラカラはベリアルのエーテルの爪を仰け反って躱す。 


 「脱力の隼よ。 貴様の言う事にも一理ある。 単に力を蓄えるなら知の化身たる貴様らの軍門に降るのが近道なのだろう。 だが、俺は深淵の闇を司る王、並び立つ事はあっても下に付く事はない」


 仰け反った状態で腰部のエネルギーウイングを噴かして旋回。 

 背後に回りながらブレードを一閃。 首を狩る軌道だ。


 「いやー、言ってる意味分からねーっスわー。 結局、所属してるって事は下に付いてるって事じゃないんスかー? 一応、リーダーとヒラのメンバーって括りがあるんだからアンタがリーダーじゃないなら下じゃねーっスかー?」 


 短距離転移での回避。 背後ではなく僅かにズレた位置に転移する事によって刃をやり過ごす。


 「貴様の浅薄な思考では理解できんだろうが、俺と魔弾の射手は共に戦場を駆け友誼を結びし戦友。 奴は俺の上に立たず並び立つ者。 そこに天地は存在しない」

 「はー、大した心酔ぶりだぁ。 アンタ騙されてんじゃねっスか? 都合よく使われてるんだよ」

 「それを決めるのは俺であって、貴様ではない」


 ベリアルはカウンターの一撃を入れようとしたが、何かに気が付いたように下がると僅かに遅れてエネルギー式の散弾が通り過ぎる。 ラドンは躱した先にも更に散弾を撃ち込んで追撃。 

 四発撃った後、薙ぐように腕に内蔵された機銃で銃弾をばら撒く。 


 「あー、マジでうぜぇ。 さっさとくたばれよ厨二野郎」


 短距離転移。 

 ラドンの死角に回り込もうとしたが、転移のタイミングを読んでカラカラが割り込んでエネルギーブレードによる斬撃。 


 右腕でいなして左で反撃しようとしたが、その隙を潰すようにラドンの散弾銃が火を噴く。 


 「やー、あんたはマジで強いと思っスよ? 多分、一対一なら俺もラドンも五分保たねぇ。 でもよ、こっちは二人なんっスよ。 楽に勝てると思わねーでほしーっスね」

 「ダリいからさっさとくたばれよ」


 ベリアルは応えずに攻撃から観察に移行。 思考を撃破から連携を崩す事にシフト。

 カラカラとラドンの二人については良く知っていた。 

 基本的にAランクプレイヤーはそう多くないので、よほど活動時間が噛み合わない限り大抵の相手とは一度は当たっている。


 カラカラは四つのエネルギーウイングを使用する事によりどんな体勢からも斬撃を繰り出す事の出来る体幹の強さが持ち味だ。 

 仰け反った姿勢からも推進装置によって強引に姿勢を整えて返しの攻撃に繋げる。

 接近戦に特化している為、飛び道具を装備していない事が付け入る隙なのかもしれないが、それを四つのエネルギーウイングによる直線加速で補っており、半端な距離は瞬く間に埋めてくるだろう。


 こうして並べると隙の無い相手に見えるかもしれないが、一つ大きな弱点があった。

 カラカラは自身の最大加速をコントロールできていない。 

 エネルギーウイング四基の生み出す加速は圧倒的だが、トップスピードに乗った状態では真っすぐにしか飛べないのだ。 


 ラーガストの下位互換。 浅いパクリ野郎、雑魚。


 ――というのはユウヤの評だ。 ラーガストの下位互換という意見にはベリアルも同意だった。

 ラーガストは六基使った状態でも機体を手足のようにコントロールできていると聞く。

 実際、対戦した時はカラカラの最大加速を上回る速度を出していたにもかかわらず機体を完璧にコントロールできていた。


 それができない以上、どうしても下位互換という評価になってしまう。

 決して弱くはないが怖さは感じない。 それがベリアルがカラカラに対して抱いている印象だった。

 次にラドン。 散弾銃と内蔵された機銃などの飛び道具を複数使う事で間合いをコントロールして戦況を自分のペースで進めるタイプで、相手の攻め手を潰す事を得意としている。


 相手の攻撃動作の起こりを見る事に長けているのは大したものではあるが、それ以外の技術は凡庸と言わざるをない。 

 近距離、中距離、遠距離とどのポジションでもそこそこの動きを見せるが「そこそこ」止まりなのだ。 こちらも弱くはないと思っているが怖い相手ではない。


 実際、この二人相手にベリアルはランク戦でほとんど負けた事がないからだ。

 問題なく勝てる――というのは相手が一人であった場合だった。 二人であるなら厳しい相手だ。

 互いの隙を補い合っているこの二人はなるほど、相性のいいコンビと言える。


 特にラドンは転移の兆候を読んでいる節があるので、安易に短距離転移は致命的な結果になりかねない。 

 カラカラの斬撃と回避先を狙ったラドンの銃撃。 まずはこの二人の呼吸を掴む必要がある。


 ちらりと空を見るとヨシナリとタヂカラオが敵のジェネシスフレーム二機相手に激戦を繰り広げていた。 

 本来ならベリアルが助けに入るべきなのだが、今は身動きが取れない。 恐らく本命は上だ。 

 ヨシナリとタヂカラオを仕留めればヤガミとアベリアが他を仕留めるべく動き出す。


 グロウモスによる狙撃がヨシナリ達を援護し、致命的な結果を避けているが不利な事には変わりはない。 

 恐らくこの二人の目的はベリアルの撃破ではなく足止め。 

 ユウヤの方も明らかに守勢に回っている事を考えれば封じる事を念頭に動いている。


 「あっれぇ、バレましたかぁ? 悪いんっスけど、アンタはここでお仲間がボコられるのを黙って見ててもらいますよ」


 足止めに気付かれたと判断したカラカラがベリアルの思考を肯定する。


 「お前は後だよ厨二野郎。 雑魚共の始末が済んだら全員で袋にしてやるから大人しく待ってろ」

 「ふ、果たして貴様らの思惑通りに行くかな?」

 「へぇ、随分と買ってるじゃないっスか」

 「当然だ。 貴様ら程度の力で星の輝きを握り潰す事は不可能。 心する事だ。 この星々の輝きは道を照らすだけでなく道を阻む者の視界を焼く事を」


 ベリアルの態度から動揺を感じられなかったらしくカラカラは黙り、ラドンはやや不快と言った様子で鼻を鳴らした。

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