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第461話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑤

 谷底。 真っすぐに降りたふわわはその場から動かずにいた。

 何故なら彼女には分かっていたかからだ。 自分に向けられる刺すような殺気を。


 「ウチの相手はあんたって事でええの?」


 現れたのは茶色の機体。 

 脇、腰の左右に回転式拳銃、腰裏にも大型の回転式拳銃が交差するように刺さっている。

 ソルジャータイプにも見えるが、骨格の造りが違う。 ジェネシスフレームだ。


 情報も事前に貰っていた相手だったので正体も分かっていた。

 Aランクプレイヤー『ラクリマ』の機体『ロストルム』だ。

 タヂカラオ曰く、ふわわと最も相性の悪い相手との事。 


 見ての通りの拳銃使いで特筆するべきはその抜き撃ちの速さ。

 並のプレイヤーなら碌に反応できずに撃ち抜かれる程だ。

 ラクリマは応えずに無言で腰の拳銃に手をかける。 ふわわはそれを返答と判断して腰の小太刀を抜く。


 僅かの沈黙を経てラクリマの腕が閃いた。 ほぼ同時に金属音。

 ふわわが銃弾を切り払った音だ。 たった一度の攻防だったが、両者の思考には驚きがあった。

 事前に聞いていたので対応は可能ではあったが、思った以上に速い。


 単純に速いだけでなく、こちらの反応を意識して微妙にタイミングをずらしていた。

 実際、抜く時の動きが一瞬加速してイメージよりも早く銃弾が飛んで来たからだ。

 対するラクリマも声には出さないが、驚いていた。


 正面から自分の抜き撃ちを躱された事はあまり記憶にない。 

 これまで千以上の戦闘をこなして来て初見で見切ってきた相手は二十もいないレベルだ。 

 加えて躱したのではなく打ち落とした。 信じられない技量と反応だ。


 銃弾を切り払う化け物が居ると噂はあったが、尾ひれのついた話と思っていたので目の当たりにすると驚きは強い。 だが、反応できたとしても自分よりも強いかはまた別の話。

 彼女・・は元々、ラドンが参戦しなかった場合はベリアルへの対処に動員される予定だった。


 ラクリマはあの思春期特有の病を重く患っているベリアルの難解な言葉は聞いていると頭痛がするので、当たらなくて少しだけほっとしていたのだ。


 彼女は表に出さないだけで好き嫌いの非常に激しいタイプだった。 

 気に入った相手はそうでもないが、気に入らない相手と長時間一緒に居るとイライラするので、ストレスを軽減する為にも友人知人は厳選している。 


 ヤガミはその中でも特にストレスを感じない相手だった。 

 だからこそ彼女は三軍に留まっており、ヤガミの為に戦おうと決めていたのだ。

 ちなみにベリアルは死ぬほど嫌いで、強い言葉でイキってるユウヤは大嫌いだった。


 そしてタヂカラオは訳知り顔のナルシストというのが彼女の印象だったので普通に嫌いだった。

 『星座盤』の他のメンバーは良く知らないのでただの標的程度の認識だ。

 基本的にラクリマにとって戦闘は的当てで、どれだけいい位置に素早く当てられるかでしかない。


 ――だから当たったのにスコアにならない的は中々に新鮮だった。


 彼女は小さく腰を落とし、今しがた抜いた銀色のリボルバーを一瞥。

 二挺一組の回転式拳銃で回転弾倉のみが黒く染まっている『シルヴァー・スピア』。 

 この拳銃の特徴は銃弾に特注の徹甲弾を使用しており、トルーパーに対しての貫通力が極めて高い事。 

 これの利点は人体と違ってコックピット部分か動力を貫通できるなら即死させる事ができるからだ。


 そして機体側からの操作でシングルアクションとダブルアクションを切り替える事ができるのだ。 

 簡単に言うと撃鉄を起こさなくても撃てるのがダブルアクション、起こさないと撃てないのがシングルアクション。 


 さて、そんな機能に何の意味があるのか? 彼女の場合、これは非常に重要だ。

 撃鉄の上で手を滑らせるように動かす。 そうする事により、回転式拳銃とは思えないほどの連射を可能とする所謂『ファニング・ショット』が可能となる。


 シルヴァー・スピアの装弾数は六。 一発撃ったので残りは五。

 その残った銃弾を一瞬で吐き出す。 ふわわは三発を切り払い、残りの二発を回避。 

 間合いを詰めるべく突っ込んで来る。 


 ラクリマは面白い的だと思いながら、素早く弾切れの銃を軽く振って回転弾倉を捨てながらホルスターに戻し、反対側の銃を抜く。  

 彼女は両利きで左右どちらで撃っても命中精度は変わらない。 

 素早く抜き撃ちをした後、シングルアクションに切り替えて残り五発をファニング・ショット。


 片手で捌き切れないと判断したのかふわわは小太刀二本で片端から叩き落す。 

 だが、それは悪手だった。 何故なら、三発目で片方の小太刀が折れたからだ。

 貫通させる事のみを追求した特殊徹甲弾の硬度は通常の銃弾の比ではない。


 弾丸の発射も単に炸薬の爆発ではなく、エネルギー式の電磁誘導とのハイブリッドだ。

 見た目よりも遥かに高い貫通力を叩き出す。 そんな物を馬鹿正直に正面から受ければどうなるのかは分かり切っている。 折れるのだ。 


 さっきと同様に軽く振って回転弾倉を捨ててホルスターに戻し、反対側の銃を抜く。

 何故かさっき排除したはずの回転弾倉が収まっていた。 秘密は専用のホルスターにある。

 短距離転移を用いた給弾システムで回転弾倉を排除した状態でホルスターにセットすると自動で変わりが転送される仕組みになっているのだ。 予備の回転弾倉は機体内部に格納されており、順番に転送される。


 即座に一発撃って残り五発をファニング・ショットで一気に吐き出す。


 「確かに速いけどもう覚えたわ」


 ふわわは初弾を躱し、残りはやや力を入れて小太刀を一閃。 

 一太刀で五発の銃弾を叩き落としたのだ。 流石にこれにはラクリマも驚きを隠せない。 

 どうやら先頭の一発を弾いて他に当てて軌道を変えたようだ。 


 ――だったら!


 ラクリマは撃ち尽くした銃をホルスターに戻すと今度は脇に吊っている銃を抜き打ち。

 回転式拳銃『シルヴァー・フィスト』。 シルヴァー・スピアが装弾数六に対してこちらは四発。

 その代わり口径が大きくなっている。 


 この銃から吐き出される大口径の銃弾は先端が潰れるホローポイント弾だ。 

 そうする事により接触面が大きくなり、対象に与えるダメージが増える仕組みとなっていた。

 シルヴァー・スピアが刺し貫く事を目的としているのに対し、こちらは殴り倒す事を目的としていいる。


 ――どうせ次は太刀で防ぐんだろ?


 ならよりダメージの入り易いこっちを喰らわせてやる。

 ラクリマは内心でそう叫んで素早く抜いて引き金を引いた。

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