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第466話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⓾

 「ガハハハ! 楽しいなぁユウヤ! 俺は楽しいぞ!」

 『そりゃよかったな』


 ウルツァイトは心からの笑い声をあげる。

 実際、楽しかった。 ユウヤは正面からの殴り合いに応じてくれる数少ない相手だ。

 ランク戦でも当たると少し楽しい気持ちになる。


 手に持つハンマーでただひたすらに殴る。 とにかく殴る。

 ウルツァイトはそうしてここまで来た。 だからと言って相手にそれを強要する気はない。

 ただ、強引に攻め込んで受けざるを得ない状況に持って行くだけだ。


 ユウヤはやや苛立っているが、冷静さを失ったら負けと判断しているのか口数が少ない。

 普段ならもっと煽って来るのだが、それがないのは少し気にはなる。

 上からの振り下ろしをいなす。 ハンマーではなく大剣に変形させてヘッド部分を流したのだ。


 それにより機体が僅かに流される。 

 態勢が崩れた所で散弾砲が撃ち込まれるが、三層のエネルギーフィールドと特殊複合装甲を持つこの機体の防御は簡単に突破できない。 衝撃で僅かに仰け反るが、それだけだ。


 反撃しようとしたがユウヤの機体の胸部から謎の光が放たれる。

 それによりエネルギーフィールドが消失。 再度、散弾砲が飛んでくる。

 これは喰らってやる訳には行かないので腕を差し込んで防御。 


 衝撃が機体に伝わるが、装甲表面に傷を負っただけで内部にダメージはゼロだ。

 その隙にユウヤは距離を取るつもりのようで下がろうとしていた。 


 「ガハハハ、逃げるなんてつれない事をするな!」


 ユウヤは応えずに電磁鞭を一閃。 

 打ち据えられるが、高圧電流は機体の表面を通って地面へと逃げる。


 「分かっているだろうが! 俺を倒したいのならその大剣しかないぞ!」

 『だろうな。 だから、お前の相手は止めだ』

 「うん? どういう事だ?」


 ウルツァイトが僅かに訝しんだと同時に背後から別の機体の反応。

 背後にハンマーをフルスイング。 確かに捉えたが手応えがない。

 これには覚えがあった。 


 「む、ベリアルか」


 カラカラとラドンは何をしているのだとレーダー表示を確認するといつの間にか随分と近くまで来ていた。 

 カラカラが早い段階でベリアルを引き離していたのだが、ユウヤが戦いながら移動していたようだ。

 妙に打ち合いに付き合ってくれるなと思っていたら、誘導が目的だったらしい。


 振り返ると既にユウヤは居なくなっており、少し離れた位置で戦闘音が響く。

 どうやら戦う相手を入れ替えたようだ。 だからと言ってウルツァイトのやる事は変わらない。

 このハンマーで殴り飛ばすのみ。 


 『久しいな黒鉄の鉄槌よ』

 「おう、最後にランク戦で当たったのはいつだったか。 元気そうだな! それにしてもお前とユウヤが手を組むとはなぁ。 初めて会った時から想像もできなかったぞ!」

 『ふ、それは俺とて同じ事。 本来であるならば奴と俺は互いの存在を賭けて戦う宿命。 だが、我が盟友、魔弾の射手によってその運命は書き換えられ、奴と俺は肩を並べて戦場を駆ける戦友となった』

 「ふーむ? よく分からんが、仲良くなったのか? だったらいい事だな!」


 ウルツァイトにはベリアルの言っている言葉の意味がよく分からなかったが、挙動から切っ掛けがあって仲良くなったと解釈した。 

 ハンマーを構えるウルツァイトに対してベリアルはだらりと両手から力を抜いてブラブラと揺らす。


 『ふ、他人の心配をしている場合か? 貴様が対峙するは闇の王。 我がかいなは瞬きの間に命を刈り取り死へと誘うだろう』

 「ふむ。 では、さっさと始めるとしようか」


 ベリアルは短距離転移を多用するので捉えるのが難しい。 

 その為、当てる為には一工夫が必要となる。 ウルツァイトの場合は小細工の類が苦手なので、分かり易く相手の攻撃に合わせてのカウンターがベストだ。


 ウルツァイトは僅かに腰を落とし、ベリアルをかかって来いと待ち構える。

 ベリアルは僅かに機体を揺らし――その姿が掻き消えた。

 センサー系の感度は最大。 傾向的に死角に来る事は読めていたので振り返りながらの横薙ぎで充分に捉えられる。 問題はタイミングだ。


 合わせる事ができるのなら一撃で仕留める事も可能。

 即座ではなく、僅かにタイミングをずらしてくると踏んで一拍置いて一閃。

 振ったと同時に転移の反応。 読みが当たった。


 ハンマーのヘッド部分はベリアルを捉え――られずに半ばからずるりと落下。

 同時に握っていた腕も落ちた。 


 「何だと!?」


 流石にこれにはウルツァイトも目を見開く。 

 彼の機体、ボロンナイトはとにかく防御に重きを置いた機体だ。

 重装甲に防御機構は簡単に突破できる物ではないはずなのだが、ベリアルの斬撃はそれを容易く突破して来た。 


 『闇の深淵にて鍛えられし我が剣は抜けば魂散る氷の刃。 貴様の城壁が如き守りすら物の数ではない』


 武装を失ったウルツァイトだったが、まだ機体は動くと残った腕で殴ろうと拳を固める。


 『遅い』


 ベリアルのブレード化した腕が霞み、ウルツァイトの機体は斜めにズレた。


 「む、何をされたか分からんが見事だ」

 『貴様も臆せずよく戦った。 闇の王と対峙し、倒れた事を誉として語り継ぐがいい』


 ベリアルは闇に呑まれよとブレードを一閃。 

 ウルツァイトの機体は両断され、機能を停止。 脱落となった。



 相性のいい相手だったのであっさりと片が付いた。

 ベリアルは形成したブレードを解除。 

 普通のやり方でウルツァイトの重装甲を切り裂く事は難しいが、強化されたプセウドテイの力なら突破が可能となった。


 内部で脈動している新たな心臓『ウァサ・イニクィタティス』による物だ。

 これはパンドラの完全上位互換で、エネルギー生産量、エーテルの変換効率はパンドラを遥かに上回るだけでなく、最大の目玉はより詳細な形状変化を扱えることにある。


 特にブレードの形成に関しては刃の厚みをナノ単位まで薄くする事で鋭利さを極限まで高める事に成功したのだ。 

 それによりウルツァイトの重装甲の隙間に差し込み、その堅牢を文字通り切り分けた。


 手に入れる為の代償は大きかったが、その為の贄を魔弾の射手が肩代わりしてくれた事で今のプセウドテイは成立している。 この新たな境地に至れた事には感謝しかなかった。

 ベリアルは小さく息を吐くと気持ちを切り替える。 まだ戦いは終わっていないからだ。


 まずはユウヤと戦っている二人を始末して――

 ズンと不意に機体に衝撃が走った。

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