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第465話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑨

 二つのハンマーのヘッド部分が正面から打ち合う事で互いが跳ね返る。

 ユウヤは鬱陶しいと思いながらもそれに応じざるを得なかった。

 目の前の敵――ウルツァイトはとにかくしつこく正面からの打ち合いを狙って来る。


 小細工なしでここまで上がって来ただけあって接近戦でのセンスは本物だった。

 ウルツァイトの機体は重量系ではあるが直線加速に優れており、逃げようとしても追いかけてくる。 

 とにかく正面に来て打ち合いをしろとしつこいのだ。 当人にはそんな意図はないが、チームの方針としてはウルツァイトの役割はユウヤの足止め。 


 ベリアルも明らかに足止めを喰らっているので、ヤガミ達が決着を着けるまで粘るつもりだろう。

 ヨシナリが簡単にやられるとは思っていないが、ヤガミはAランクでも手強い部類に入る相手だ。

 やられない保証もない。 


 アルフレッドとのセンサーシステムのリンクで戦況はかなり詳しく把握できている。

 現在、上空ではヨシナリとタヂカラオがヤガミとアベリアを相手に戦闘中。

 どちらも苦戦しているようだ。 ヨシナリはヤガミ相手に良く持ち堪えており、タヂカラオも性能で劣る機体で頑張ってはいるが技量に大きな差がない以上は機体性能差は大きい。


 特にアベリアはバランス重視の機体なので性能差が顕著に現れる。

 谷底ではふわわがラクリマと交戦中。 中央では谷を挟んでマルメルとホーコートが銃撃戦。

 南ではグロウモスがエンジェルタイプに頭を押さえられていて身動きが取れない。


 少し下がった位置――要はここからやや南にシニフィエが居るのだが、今しがた反応が消えた。

 やられたようだ。 普通に考えるなら撃破されたと見るべきなのだが、やられ方に少し違和感があった。 恐らくは何らかの奇襲を受けたと見て間違いない。

 まだ捲れていない奴が居るので恐らくは残ったAランクだろう。 機体の能力的にも間違いない。


 ――タヂカラオの野郎、何が参戦は四人だ。 七人全員来ているじゃねぇか。


 ここは少々無理をしてでも突破を図る必要がある。


 「――ふ、互いに苦戦しているようだな。 我が好敵手よ」


 思考に割り込むようにベリアルからの通信が飛び込んで来た。


 「何だ厨二野郎。 今、忙しい。 つまらねぇ話なら後にしろ」

 「貴様の前に立ちはだかる黒鉄くろがねの鉄槌は突破は簡単ではない。 何故なら奴の鉄槌は煉獄の炎に耐えうる硬度を誇っているからだ」

 「だからなんだ?」

 「貴様の炎は防ぐが、我が闇であるならその堅牢を貫けるだろう」


 それを聞いてユウヤはなるほどとベリアルの言葉の意図を理解した。


 「かの兎は魔弾の射手単独では手に余る。 時間が惜しい」

 「分かった。 タイミングはこっちで取る。 合わせろ」

 「ふ、任せろ」



 カラカラはブレードを振り回す。 

 繰り出した斬撃をベリアルは次々と掻い潜り、カウンターを繰り出そうとするが、ラドンの銃撃で後退。 この繰り返しだ。


 気を抜けばあっさり崩される均衡だが、ベリアルには何度も負けているだけあってカラカラもラドンもしっかりと対策は練ってきていた。

 基本的にベリアルは手数で圧倒してくるタイプだ。 そこに短距離転移と分身を織り交ぜる事で相手の判断を遅らせてくる。 非常に厄介な相手だ。


 何度も負けた相手であって可能であれば叩きのめしてやりたいリストの上位に名を連ねている。 

 ただ、厄介であって無敵ではない。 

 ベリアルの挙動は早いが見えないほどではなく、センサー系を強化したので転移の前兆である空間の歪みも観測できるのでラドンの援護がある状態なら充分に対処は可能。


 問題はこれだけやって抑えるだけで精一杯という事だ。 

 予定としては他を片付けたメンバーがこちらに来て囲んで潰す。

 今回、参戦したランカーはカラカラを含めて七人。 正直、過剰ではないかと思っていた。


 このチームは『思金神』の三軍だ。 つまり一軍、二軍が居る以上、優勝は不可能。

 なら適当に流してしまえばいいというのがカラカラの本音だった。 

 そんな理由もあってあまりやる気がなかったのだ。 


 欠席したかったのだが、ヤガミの意向で全員が強制参加。 

 逆らうなら降格も視野に入れると言われてしまったので従わざるを得なかった。

 カラカラもそうだが、三軍のAランクプレイヤーは全員ユニオンから機体製作の予算を提供されているので四軍以下に落ちるとジェネシスフレームは没収される。


 そうなるとAランクの維持は難しく、普段からRMTで散財しているカラカラに新しくジェネシスフレームを購入する金はなかった。 

 カラカラは現状に満足しているので、これ以上もこれ以下も望んでいない。

 何故ならこのAランク帯で生き残る事は出来ても勝ち上がる事は難しいと思っているからだ。


 ラーガスト。 あの化け物Sランクと一度でも戦えば嫌でも現実という物を思い知らされる。

 文字通りの瞬殺。 絶対的な自信のあった速度で大きく上回られた時点で心が折れてしまったのだ。 

 だからと言ってこのゲームを辞める事も出来なかった。 定期的――週に一回支給されるPがあるからだ。


 1P=一万から二万クレジット。 要はリアルマネーに変換できる事もあって手放せないのだ。

 基本的にどのランクも報酬はランクの固定報酬にプラス勝利数で増額される。

 ただ、Aランクは週間の戦闘回数が決められており、それを達成しなければ問答無用で降格となるのだ。 つまりAランクプレイヤーは地位を維持する為にこのゲームに縛られる形になる。


 カラカラとしても負けすぎなければ既定の戦闘回数を満たすだけで、社会人の平均月収以上の金額が手に入るこのポジションを手放す気はなかった。 上には行けない。 だが、下にも落ちたくない。 


 これがAランクプレイヤーの大半が陥るジレンマだ。

 上に行きたいなら戦闘回数を増やす必要がった。 

 だが、回数を増やせば敗北のリスクが高まり、場合によっては降格の危険が発生する。


 降格したくないなら回数を減らせばいい。 結果、最低限の戦闘だけこなして後は適当。

 それで維持できるのかといった疑問はあるが、残念ながら一定数のプレイヤーはそうなっているので維持するだけならどうにでもなってしまうのだ。 ラドン達がイベントに乗り気ではない理由でもある。


 ――だから――


 このイベントもユニオンからの評価を落とさない程度に成果を出さなければならなかった。

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