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第469話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑬

 『舐めるな!』


 ヤガミはホーコートの射線に入る前に反転し、足場を作って強引に軌道変更。 

 更に足場を蹴って加速しながら軌道を変更。 こうして見ると凄まじい挙動だ。

 ヨシナリはその隙を利用して左旋回。 左なのはホーコートの右旋回を活かす為だ。


 左右から挟む形に持って行こうとするが、当然ながらヤガミは更に蹴って移動。 

 ヨシナリはそれを追うように上昇しつつ左旋回。 ホーコートが僅かに遅れてヤガミを挟んで反対側を取ろうと加速する。 


 『――っ!?』


 ヤガミが僅かに焦りの混じった声を漏らす。 

 それもそのはずでヤガミが動く前にヨシナリが先回りしようとしているからだ。 

 これには理由があった。 ヤガミ機体が作る足場なのだが形状は平らな板状で、爪先がしっかりと踏める角度で出現するのでよくよく見れば次にどちらに跳ぶかが読めるのだ。


 それにより先回りする事でヤガミの移動先をある程度ではあるが誘導する事ができる。

 ホーコートと挟めば上か、下の二択に絞る事ができて、ヨシナリがやや上を取っておけばヤガミは下に逃げざるを得ない。 


 耐弾性能が低いので被弾は可能な限り避けたいという心理が思考を回避に傾ける。

 ホーコートが右、ヨシナリが左上に居る位置に陣取ればヤガミは右下に向かう。

 何度も使えないので早めに仕掛けなければならない。 


 ヤガミがホーコートの下を抜け、それを追うようにホーコートが銃口を向けるがそのコックピット部分に投擲されたブレードが突き刺さる。 


 ――躱しながら仕留めに行ったのか。


 「く、クソ――」


 ホーコートの機体が爆発。 大きな損失ではあるが、目当ての位置に誘い込めた。

 ヤガミがヨシナリの意図に気付いたが僅かに遅い。 


 「やぁ、ヤガミさん。 いい位置だね」


 タヂカラオがパンツァーファウストをフルスイング。 

 ちょうど目の前に来ていたので躱しようがない。 咄嗟に足場を作って回避行動を取ったが、命中した攻撃は彼女の機体をくの字に折り曲げる。


 「ナイスです! タヂカラオさん!」

 「いや、すまない。 芯を捉えきれなかった。 気をつけたまえ! まだ動くぞ」


 タヂカラオがヤガミにパンツァーファウストを撃ち込みながらアベリアの銃撃を回避。

 応射しつつヨシナリに警告を飛ばす。 同時に爆発音。


 『ヤガミさん! タヂカラオ! お前ぇぇ!』

 「はは、怖い怖い。 ヨシナリ君、すまないが次は通用しなさそうだ」


 連携を警戒してアベリアがタヂカラオを引き離すように動く。

 流石に踏みとどまる事が出来ずにタヂカラオは離脱せざるを得なかった。


 「いえ、充分です」


 下を見るとヤガミが再度突っ込んで来る。 変形して回避。


 『やってくれる。 ここまで読んでたのかい?』

 「さて、どうでしょうね?」


 アシンメトリーを連射しながらバレルロールで回避。 

 完全に入るタイミングだったのだが、インパクトの瞬間に機体を捻って躱した。

 咄嗟であれができるのは凄まじい。 だが、無傷とはいかなかったようだ。


 エネルギーウイングは片方死んでいる上、残りも出力が不安定だ。

 明らかに効いている。 軽量機である以上、純粋な衝撃に対しては脆弱にならざるを得ない。

 可能であればあれで仕留めたかったが、そう簡単には行かないようだ。


 ――だが、これで充分に勝ち目が見えた。


 最大の持ち味である。 空中を蹴っての加速力が低下している。

 エネルギーウイングを用いての加速が使えないからだ。 

 これならホロスコープの機動性で充分に対応できる。 ホーコートが落ちた事で戦力的には更に苦しくなった。 ここで自分がミスる訳には行かないのだ。


 追いつめられたヤガミが何か違う事をしてくるかもしれない可能性を警戒しつつ。

 アシンメトリーを実弾に切り替えて連射。 ヤガミは空中を跳ねるような機動で躱す。

 加速できなくなった事を補う為に小刻みに跳躍を繰り返す事で的を絞らせない。


 流石はAランクプレイヤー。 思った以上にしぶとい。

 大抵の相手ならここまで追い込めたのなら撃墜は秒読みなのだが、中々撃墜まで持って行けない。

 集中しろ。 ヨシナリは自分に落ち着けと言い聞かせる。


 ヤガミの動きは明らかに勝負を捨てていない。 何かを狙っている。

 機体の武装は一通り見た。 エネルギーダガーのみ。 

 攻撃手段は加速を用いての刺突とホーコートを仕留めた投擲。 


 彼女の最大の強みは機体特性を最大に活かした突進攻撃だ。 

 それが死んだ以上、加速に頼らない攻撃手段が必要になる。

 可能性としては斬撃だ。 懐までヨシナリを誘い込んで一撃。


 余裕がないのはヨシナリも同じなのでここで決めてしまいたい。


 ――乗るしかない、か。


 機動力を捥ぎ取ったとはいえ、逃げに徹されるとこちらの攻撃が当たらない以上はどこかで勝負に出る必要がある。 突っ込んで来た所をインメルマンターンで回避。

 縦旋回によりヤガミの背後へ。 露骨に隙だらけだ。 誘われているという自覚はあるが、敢えてその誘いに乗る事にした。


 推力偏向ノズル、エネルギーウイングの両方の推力を全開にして加速。

 アシンメトリーを連射しながらヤガミの背後へと肉薄。 躱す気があるのならヤガミは空中を蹴ってのサイドステップだが、彼女はヨシナリを仕留めに行く。 


 つまり逃げない。 その証拠に体を丸めて小さく跳躍。

 機体を縦に回転させる。 身を縮める事でヨシナリの射撃をやり過ごす。


 ――ここだ。 


 パンドラの出力を150%に引き上げ、機体のパフォーマンスを向上させつつ変形。

 アトルムとクルックスではなく、イラを掴んでスペルビアに変形させてコンパクトにフルスイング。

 完全に相手の想定していたタイミングと挙動を上回ったはずだ。 ヤガミの機体から僅かに息を呑む気配。


 恐らくヤガミはヨシナリが間合いに入ったと同時に予備のエネルギーブレードを展開してさっきまで開いていた腕からの斬撃、または刺突で行く予定だったはずだ。

 ヨシナリの射撃が有効射程ギリギリからでは碌に当たらない以上、当てたいのなら接近するしかない。 だからアトルムとクルックスで来ると読んでいたはず。


 それが予想外の加速と近接武器による強襲。 完全に出し抜いた。

 少なくともヤガミの思考は読み切ったと判断していたのだが、ヨシナリはAランクプレイヤーという存在を少し侮っていたようだ。 攻撃のタイミングは同時、だが手段が想定とは違った。


 ヤガミはブレードではなく足を一閃したのだ。 爪先を尖らせるように伸ばした一閃。

 蹴り方に違和感を覚え、警戒心が持ち上がるが僅かに遅かった。

 ヨシナリのハンマーによる一撃はヤガミの軸足を捉え、ヤガミの振った足の爪先が僅かに光ったように見えたと同時にホロスコープの視界が死んだ。

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