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第470話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑭

 何をされたのかは理解している。

 ヤガミは足場に使用している力場を飛ばしたのだ。 

 綺麗な板状をしているので気にはなっていたのだが、こんな使い方をしてくるとは思っていなかった。


 間合いとタイミングを外されたのはヨシナリも同じだ。

 頭部が斜めに両断された。 それによりメインカメラが映像を出力できなくなったが、シックスセンス自体はまだ生きているのでセンサーシステムはヤガミの位置をまだ捉えている。


 視界は死んだが、機体は生きている。 ホロスコープはまだ死んでいない。

 エネルギー流動で片足になったヤガミが勝負を決める為にブレードを抜いて斬りかかって来るのが見えた。 彼女も推進装置が碌に機能しない状態で片足を捨てたのだ。


 もう余裕がない。 ここで勝負に出る。

 そして俺が勝利するのだ。 ヨシナリは視界不良による不安を握り潰して前に出た。

 視界が死んだ以上、距離感が上手く掴めないので空中での接近戦は論外だ。


 そうなると取れる手段は一つしかない。 

 エネルギーウイングを噴かして強引に一回転し、その勢いのままスペルビアを投擲。

 ヤガミは残った足で足場を作るとそれを蹴って斜め下へと躱す。 


 エネルギーウイングで姿勢を制御しつつ再度斬りかかるつもりだ。

 ヨシナリは空いた両手でアトルムとクルックスを抜く。 二挺拳銃でのバースト射撃。

 上下左右どちらに逃げても数発は被弾するようにばら撒くように撃ち込む。


 ――が、ヤガミは正面から突っ込んで来た。


 当然ながら数発被弾するが、即座にヨシナリを間合いに捉える。 

 アトルム、クルックスの順で残弾がなくなった。 リロードは間に合わない。


 ――焦り過ぎだ馬鹿野郎!


 ここはばら撒くのではなく集中して撃ち込む所だろうが!

 自分へ叱責しつつ蹴りでカウンターという選択肢が脳裏に過ぎるが、目測が取れない。


 「クソ」


 諦めてアトルムとクルックスの銃身に取り付けたエネルギー式の銃剣を展開。

 横は無理だ。 当てるには刺突しかない。

 ヤガミはギリギリまで引き付けて突き出された銃剣を躱して懐へ。 

 ブレードがホロスコープの胴体を貫く。


 『危ない所だった。 紙一重の勝負だったが私の――』


 ヤガミの勝利宣言を聞きながら、ヨシナリは最後までとっておいた切り札を切った。

 グシャリ。 ヤガミから驚きの声は漏れる。

 彼女の機体がホロスコープ胸部の給排気口から飛び出した無数のエーテルの杭に貫かれたからだ。 


 胴体を穴だらけにしたので確実に仕留めた手応えはあった。


 『――はは、相打ち、か。 見事だよ。 次は一対一で戦ろう』

 「えぇ、喜んで」


 そう答えながらもヨシナリは内心でこう呟いた。 次は絶対に仕留めてやる、と。

 ホロスコープとヤガミの機体が同時に爆発。 脱落となった。



 『ヤガミさん!?』


 アベリアの悲鳴のような声が響く。 同時にヨシナリの反応も消えたので相打ちだったようだ。

 タヂカラオはあそこで自分が仕留めていればと僅かな後悔を滲ませるが、勝負はまだ着いていない。

 ここからの巻き返しは充分に可能だ。 未だに敵の方が優勢ではあるが、ヤガミを落とせたのは大きい。 


 間違いなく敵は動揺したはずだ。 同時にこちらもヨシナリを失ったので動揺したのは同じだが、彼の活躍を最大限に活かす事こそが報いる唯一事だと信じてタヂカラオはアベリアへ銃撃。


 『この! 鬱陶しいんだよ裏切者がぁ!』

 「はは、そりゃ光栄だね」


 言いながらミサイルポッドのミサイルを全て吐き出し、機体を軽くするためにパージ。

 タヂカラオは軽口こそ叩いているが、かなり追いつめられていた。

 元々、彼のポジションは『星座盤』に足りない部分を補う為にやや遠距離に偏った装備構成だった事もあってアベリアとの正面切っての一騎打ちはスペック差と併せてかなり厳しい。


 ――せめて『トガクシ』が完全な状態であったならなぁ……。


 ジェネシスフレームがあれば充分に勝ち目もあったのだが、ない物ねだりでしかない。

 今ある手札で勝ちに行くしかないのだ。 

 アベリアの武装はエネルギー、実弾の撃ち分けが可能な突撃銃、短機関銃とエネルギーブレードとオーソドックスな物で、これといった特徴こそないが高いレベルでバランスが取れている。


 つまり機体構成、武装面では単純に上位互換なのだ。 その為、単純な力比べではまず敵わない。

 エネルギーウイングによる旋回を多用しての死角の取り合いとなるのだが、馬鹿正直に付き合う気はなかった。 アベリアが旋回を用いて背後を取りに来るが、タヂカラオは急降下で回避。


 追撃に銃弾がばら撒かれるがエネルギーフィールドで防ぎつつ応射。


 『防いでばかりで勝てると思ってるのかよ!』

 「思っていないさ。 ただ、どうしたものかと思ってね」

 『その余裕、腹が立つ。 負け犬は負け犬らしくくたばってろ!』


 その言葉にタヂカラオは苦笑。


 「本音を言えばそうしたい所なんだがね。 こうして君を見ていると自分に何が足りないかが見えてくる上、直球かそうでないかの違いこそあれ、以前の自分を見ているようで少し恥ずかしくなってしまうよ」


 人を見下すのは気持ちがいい。 優越感を得る事は至上の快感だ。

 表にこそ出してはいないつもりだったがそんな考えがなかったかと言われれば嘘になる。

 それが悪い事とはタヂカラオは思わない。 理由はどうあれ目的意識はモチベーションを保つ上で重要だ。 内容がどれだけ下劣であろうとも――


 だが『星座盤』に属してから少しだけ考えが変わったのだ。 

 悪くはない。 ただ、不毛だと感じてしまったのだ。 

 他人を見下している暇があるのなら自己を高める事に使うべきだという考えへと変わっていった。


 自分ありきの戦い方を貫けるのなら最上だ。 少なくとも以前のタヂカラオはそれが出来ればいい。

 いや、自分ならできると思い込んでいた。 だからこそ、ヨシナリ達に足元を掬われたのだ。

 自分を中心に置き、他を添え物として扱う。 できる奴は出来るのだろうが、自分はその器ではなかった。 


 ――少なくとも今は。


 機動性が違うので簡単に追いつかれて次々と銃撃を浴びる。 

 エネルギーフィールドによって致命傷は防げているが、アベリアは突撃銃と短機関銃の二挺持ちで弾種もエネルギーと実弾の両方を使用する事により、防ぎ難くしている。


 ジェネレーターが悲鳴を上げ、フィールドの維持が困難と告げる。


 『さっさとくたばってろ!』

 「そうだね。 そろそろ終わらせようか。 ――所で前々から気になっていたんだが、一ついいかな?」


 アベリアが応える前にタヂカラオはそれを口にした。


 「君みたいな視野の狭いつまらない人間がよくもまぁAランクに収まっていられたね? 僕は気になって夜しか眠れないよ」

 『は、負け惜しみは終わりかよ。 じゃあ死んでろ!』


 銃撃に耐え切れずタヂカラオのエネルギーフィールドが消失した。

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