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第472話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑯

 アノビィからはさっきまでの余裕は消え失せ、焦りが脳裏を支配する。

 どうする? いや、それ以前にどうやってカラカラの位置を特定した?

 自分の位置も割れているのか? だったら距離を取らないと不味い。


 決してメンタルが強いとは言えないアノビィだが、彼はAランクプレイヤー。

 踏み留まるだけの強さは有していた。 思わず一歩下がったが、改めてふわわを観察。

 見えているのかと思っていたが様子がおかしい。 


 斬ったにも関わらずカラカラの残骸を見もせず、何故か首を傾げていた。

 見えていない? 分からない事だらけだが、時間がない。 

 タヂカラオが十数秒で合流するからだ。 コレに関しては知らせていないので簡単にバレるとは思わないが、アノビィの機体と戦い方は散々見られているので傾向から看破される可能性は高い。


 合流前に叩くしかない。 無策で突っ込むのはリスクが大きいのでまずは検証だ。

 握り拳大の岩を拾って近くへ投擲。 岩は放物線を描いてふわわの近くに落ちる。

 無反応。 見るどころか反応すらしない。 今度は小口径の拳銃――抑制器付きのそれを抜いて発砲。


 空気が抜けるような僅かな銃声と共にふわわの足元に着弾。

 こちらも無反応。 さっきと同様に明らかに気付いている様子がない。

 意味が分からなかった。 カラカラに反応して岩と銃弾に反応しないのは何故だ?


 今度は当てるかと考えたが、当ててしまうと損傷で最低でもいる方角がバレる。

 やるなら仕留めるつもりでやる必要があるのだ。 懸念は大きいが、選択肢がない以上はやるしかないのだ。 腰のダガーを抜いて構える。


 同時にダガーの刃が微かな音を立てて振動。 所謂、高周波ブレードだ。

 切断力を強化されており、大抵の機体はこいつでコックピット部分を一突きすれば終わる。

 後はそっと背後に忍び寄ればいいのだが、背後から行ったカラカラが返り討ちにあった事を踏まえるともしかしたら背後に対しての何かしらの探知手段があるのかもしれない。


 ここは正面から行く。 相手はFランクでソルジャータイプ。

 なのにここまで緊張するのは何故だろうか? 得体の知れない恐怖のような物が沸き上がるが、それを押し殺し意識を研ぎ澄ます。 突き刺すというワンアクションにだけ意識を集約させろ。


 そうするとアノビィの気持ちがすっと落ち着いた。 


 ――よし、行――


 『その辺かな?』


 ふわわがアノビィの方を見てそう呟き、腰の太刀を一閃。

 奇妙な代物だった。 振り切ったと同時に刃が消えたのだから。


 ――あれ? 刃、あったよな? 


 一瞬の事だったので目の錯覚だと思ったのだ。 それが最期。 

 次の瞬間、機体が切り刻まれ、アノビィは自分に何が起こったのか理解する間もなく脱落となった。

 『思金神』は全滅し、試合は終了。 何故か斬ったふわわは不思議そうに首を傾げていたが。



 「ふぃー何とか勝てたねー」

 「いや、ふわわ君。 何をしたんだい?」

 「俺にもさっぱり分からなかったんですけど、マジで何があった??」


 生き残ったふわわ、マルメル、タヂカラオ、グロウモスがユニオンホームに戻るとヨシナリ達が出迎える。

 ふわわはいつも通り、タヂカラオはやや引き気味で、マルメル、グロウモスは首を傾げていた。


 「ありがとうございました! 途中でやられてしまってすいません」


 ヨシナリは心底から安心したといった様子で、ベリアルとユウヤは気まずいといった様子だ。

 シニフィエ、ホーコートも同様に複雑な様子だった。 


 「あっはっは、勝てたしええやん。 気にしなくて大丈夫よー」


 ふわわはバシバシとヨシナリの肩を叩き「感想戦しよ」と促す。


 「はい、今回に関しては割と盲点も多かったので共有していきたいと思います」

 「最後の奴に関しては何か分かるん?」

 「一応、何となくですが理解はできています」


 ヨシナリはふうと一つ大きな呼吸をしてウインドウを可視化して戦闘のリプレイ映像を再生する。


 「時間もあまりないのでサクッと行きましょう」


 戦場を俯瞰。 配置は『星座盤』は南、『思金神』は北だ。

 『星座盤』の動きはヨシナリ、タヂカラオがフィールドの中央付近の上空へと向かう。

 これはヤガミを引っ張り出す為で、タヂカラオ曰く、ヤガミというプレイヤーは正面から来る相手には応じる傾向にあるという事とヨシナリに興味があるという事なので行けば確実に釣れると判断しての事だ。 


 それは正しく、ヤガミ、アベリア、エンジェルタイプと三機も釣れた。

 グロウモスは大きく動かずフィールドの南から中央付近を狙える高所へ移動。

 マルメル、ホーコートは地上からフィールドの中央の渓谷へ向かう。


 中央に陣取る事で敵の反応を引き出す為だ。 

 元々、敵の戦力構成に不透明な部分があった事もあって、相手の手札を全て捲る事を優先した結果だった。 


 ふわわ、シニフィエはそれぞれ西、東側から渓谷を抜けて北側へと向かうべく移動。

 ベリアルとユウヤは遊撃手としてさっさと数を減らすべく、早々に東側から地上を進んで渓谷を越える。 


 本来なら固めるよりは単独で行かせた方がいいような気もしたが、嫌な予感がしたので一緒に動くように指示を出しておいたのだ。

 当初の参戦は四人と見ていたが、タヂカラオが抜けて他所へ行く以上、当たった時に備えて情報を漏らさない可能性も考慮したので警戒していた事もあっての指示だった。


 ――まぁ、結果的には正しかったが。


 流石に全員投入するとは思っていなかったので、これは想定外だった。

 ヨシナリはちらりとシニフィエを一瞥。 


 「あ、あー、お気遣いどうもです」


 察したのかそう言って頷いたので最初は彼女をフォーカス。

 シニフィエは渓谷を降り、北側へと登った直後ぐらいだ。 

 背後から忍び寄った機体にダガーで一突きにされた。 


 明らかに反応できておらず、それ以前に喰らう前の動きがおかしかった。

 何故かいきなり回避行動を取り、何もない場所へ向けて戦闘態勢を取っている。


 映像の中でも動きから明らかに何をされたのか理解できていないといった様子で抵抗しようとしていたが、コックピット部分を破壊されたのでどうしようもなく、そのまま音もなく崩れ落ちた。


 「や、やー、お恥ずかしい所を……」

 「いや、気にしなくていいよ。 これは初見では無理だ」


 ヨシナリは露骨に気落ちしているシニフィエに首を振って気にするなと付け加えた。


 「これって私は何をされたんですか? や、刺されたのは理解しているんですけど刺されるまで気配が全く感じられなかったというかなんというか……」

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