目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第473話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑰

 「一応、ある程度は察しているよ。 まとめて説明するから先に次へ行こうか」


 次は後方のグロウモスだ。 

 彼女はヨシナリとタヂカラオの援護に専念するつもりだったのだが、突っ込んで来たエンジェルタイプがそれを阻む。 彼女の陣取った位置はかなり開けた場所なので隠れる場所がない。


 近寄らせまいとスコーピオン・アンタレスで狙撃を行うが敵機は慣れた挙動でヒラヒラと躱す。

 この時点で当てられないと判断したのか撃つのを止めてドローンを飛ばした。


 相手の射程に入ったら機動性で的を絞らせないようにしてくると読んで光学迷彩で姿を消す。

 同時に変形して移動。 姿を消してはいるが、接地している以上は完全に痕跡を消す事は不可能。

 その証拠に敵機の銃口はグロウモスの移動先を狙っている。 


 移動の感覚を掴んで撃つ――タイミングでグロウモスの足跡が消えた。

 正確には新しい足跡が出なくなったのだ。 敵機は釣られたと判断して回避行動。

 判断自体は早かったが、グロウモスの方が速かった。 エネルギーウイングを噴かす前に胴体を撃ち抜かれて爆発。


 「お見事」


 わざと足跡を残す事で相手に移動先を先読みさせ、目が慣れて仕掛けるタイミングで急停止。

 最後の一歩は踏まずにエネルギーウイングを使用してのホバリング。

 それにより相手を混乱させる判断も素晴らしい。 相手が回避の選択をする一瞬の隙を突いての一射で綺麗に仕留めた。 


 そして彼女の活躍はそれだけにとどまらない。 

 もう一機、シニフィエとすれ違う形で来ている機体が居たのだ。

 グロウモスはすっと地上に降りて狙撃姿勢。 アウトリガーを使用して機体を固定。


 スコーピオン・アンタレスの最大出力を使用するようで銃口にはエネルギーが充填される。

 慎重に狙いを付けて――発射。 かなりの反動なのか固定されているにも関わらず、アウトリガーが地面を削って機体が僅かに下がる。 


 狙った敵機はちょうど渓谷を越えて南側に入った所だったのだが、胸から頭部にかけてを消し飛ばされてそのまま脱落となった。 ヨシナリはそれを見てなるほどと呟く。


 「だからドローンを飛ばしたんですね」

 「う、うん。 流石に二機同時に相手は無理だから索敵も兼ねて飛ばした」


 仕留める瞬間が危険だと判断して事前に保険をかけておいたのか。

 グロウモスは模擬戦等で発射の瞬間を狙われて泣きを見た事が多いので警戒は怠らない。

 首尾よく一機仕留め、案の定というべきか、後衛を排除に来たもう一機を遠距離から狙撃で一発。


 立ち回りとしては完璧に近い。 

 ただ、その頃には他の戦闘もほぼ決着が着いていたのでそれ以上の出番はないが、二機撃破は戦果として非常に大きい。


 「いや、お見事です。 本当に助かりましたよ」

 「そ、そう? 私って頼りになるよね?? ぷ、プヒ、クヒヒヒヒヒ」


 ヨシナリはそろそろ慣れて来たグロウモスの粘着質な笑みに特に反応を示さず「この調子で頼みます。 頼りにしてますよ」と努めて優しい口調でいいつつ凄いと褒める。

 グロウモスはマルメルのようにくねくねと嬉しそうに身をくねらせた。


 「さて、では次に行きましょう」


 次にフォーカスしたのはベリアルとユウヤだ。 映し出された二人はそっと目を逸らした。 


 「気持ちは分からなくもないけど、何でやられたのかの確認作業も兼ねているので我慢してくれ」


 そう言って映像を再生。 二人は先行する形で東側から渓谷を越えて北側へ。

 待ち受けていた敵のジェネシスフレームとの交戦。 相手もベリアルとユウヤの事はよく理解しているようで相性の悪い相手をぶつけてきていた。


 ユウヤ相手には防御に偏った機体を、ベリアルには強みを活かせない立ち回りができるように二機も宛がっているのは早めに数を減らして有利にしたいといった思惑からだろう。


 ――考える事は一緒か。


 アルフレッドは二人からやや離れた位置でシックスセンスによるセンサーリンクでの情報支援。

 相性の悪い相手だけあって当初は二人とも苦戦を強いられていたが、互いにスイッチ――相手を入れ替える事で事態を好転させる。 そもそもあの二人は強みを活かせる状況に持って行けるのなら同格であったとしてもそう簡単に負ける事はない。


 実際、ベリアルはウルツァイトというAランクの重量機体を瞬く間に葬って見せた。


 「すっげ、あの頑丈そうな機体を両断したぞ。 エーテルブレードってあんなに切れ味が良いのかよ」

 「や、それだけやないなー。 多分やけど刃を思いっきりうすーくしとるんちゃう?」


 素直に驚くマルメルにふわわが刃を見て面白いと言わんばかりに頷いていた。


 「ふ、正解だ。 剣の乙女よ。 我が闇の刃は極限まで凝縮する事で魂すらも両断する鋭さを得たのだ」


 プセウドテイのジェネレーターを新しくした事でエーテルの操作精度が大きく向上した事で可能になった。 所謂、単分子ブレードと似た代物で切断力なら他の追随を許さない。

 ウルツァイトをあっさりと葬ったベリアルだったが、その後が問題だった。


 忍び寄った機体が背後からダガーで一突き。 ベリアルが驚いたように振り返っていた。


 「私の時と完全に同じ反応ですね。 明らかに気付いていない」

 「不覚だった。 死の甲中は隠形に長けてはいるが、番犬の監視を掻い潜れるほどではなかったはずだ」


 その後のユウヤも全く同じ流れで攻撃を喰らっている。 

 だが、ユウヤの凄まじい所は喰らいながらも一機を道連れにして、もう一機に大きな損傷を与えている事だ。 


 「あのー、あれって見えてたんですか?」

 「いや、全く見えなかった。 だが、居るのは分かってたから当たりを付けて叩きこんだだけだ」


 シニフィエの質問にユウヤは即答。 ヨシナリとしても驚きだった。

 ベリアルとシニフィエの反応から完全に見えていなかった事は明らかだったからだ。

 その状態であの戦果は凄まじい。 


 「で? ヨシナリ、俺と厨二野郎は何をされたんだ?」

 「……まずは確認します。 センサー類が一切反応していないにも関わらず死角から一撃を貰ったって事ですよね?」


 三人は頷く。


 「私の場合は敵機が現れたと思ったら後ろからグサリですからね。 訳が分かりませんよ」


 しかもリプレイで見るとそんな機体は存在していないときた。

 訳が分からないのも無理もない話だ。


 「俺もはっきりと言い切りませんが、以前に似たような経験がありまして――」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?