丸鋸部分を脇を大きく広げて通し、腕部分を挟む。
ほぼ密着しているような形になった。 これでいい。
明らかにボーンヘッドは軽量化によって機動力に振っている機体だ。
つまり、見た目以上に軽くて脆い。 散弾砲がこちらを向く前に膝を胴体部分に叩きこむ。
メキリと何かを潰すような感触がして敵機から力が抜ける。
どうやらコックピット部分を潰したようだ。 敵機の機能が停止。
「思ったよりも手強いな」
そう呟いて次と周囲を確認すると別機体が今度は二機、こちらに向かって突っ込んで来る。
マウントされている装備が片方が突撃銃、もう片方がガトリング砲だ。
明らかに手数で押してくるタイプだった。 さっきの機体で敵のおおよそのレベルは知れたので、二機相手は少し厄介だ。 ホロスコープが使えるなら物の数ではないが、Ⅰ型では分が悪かった。
二機は左右に散る。 明らかに慣れた動きだ。
挟み撃ちにするつもりだろう。
どちらから崩すか、思考を回すが不意に飛んで来た無数の銃弾に敵機はたたらを踏んだように動きを止める。
飛んで来た方を見ると味方のソルジャータイプが複数来ていた。
敵機はヨシナリと増援を一瞬、見比べた後に背を向けて後退。 最後にヨシナリを一瞥。
まるで目に焼き付けようとしているようだった。
助けに来た機体がヨシナリを見て小さく肩を竦めて見せる。
意図は不明だが、助けてくれたのでペコリと頭を下げると味方機はひらひらと手を振るとそのまま敵機の追撃に移った。
ヨシナリは突撃銃のリロードを済ませ、近くの残骸から短機関銃とブレードを頂いて進む。
戦闘は激化というよりはやや収束に向かっている印象を受ける。
そもそも質も量が違いすぎるので負ける訳がない戦いだ。
――運営は何を考えているのやら。
何かのテスト運用? 機体が重いのも気になるが、意図がさっぱり読めない。
通信を封鎖してプレイヤー同士のコミュニケーションを封じているのも不可解だ。
まるで話をされると不都合があるみたいじゃないか?
余計な事を考えている余裕がある程にこの戦いは味方が優勢だった。
そろそろかとレーダー表示を確認すると砂の向こうに施設らしきものが見える。
あれかと加速しようとしたところで不意に機体の通信機能にノイズが走った。
「おいおい、通信機能は封鎖されてるんじゃなかったのかよ」
もう訳が分からないぞ。
『この施設に攻撃を仕掛けている者達に告ぐ。 我々はこれ以上の戦闘を望んでいない。 直ちに部隊を下げろ。 この基地は一時間後に自爆させる』
ノイズ混じりだがはっきりと声が聞こえる。
翻訳機を噛ませているらしく日本語ではなかったがヨシナリにも内容は理解できた。
声の感じから4、50代の男。 どっしりとした低い声がよく通る。
戦いを止めろと言っているが、ウインドウには敵を殲滅しろと表示されたままだ。
『――君達は何故この場に居る? 何故、銃を手に取り、我らを滅ぼさんと向かって来る?』
戦闘は収まる気配もなかったので聞きながらも足は止めない。
巨大な防御壁や急ぎで用意したと思われるバリケードらしきものは既に破壊されており、次々と友軍機が基地に突入している。
『信念もなく、意志もなく、ただ生きる怠惰な羊達よ。 お前達は気付いていないのか? この行いの本当の意味とその背に光る操り糸の存在を』
ヨシナリは無言で慎重に基地の敷地内に侵入。
『気付け! そして声を上げろ! お前達の脳に秘められた可能性は無限だ。 機械仕掛けの神が齎した呪縛を解き、目を覚ませ!』
あちこちで爆発音。 そのまま基地内へ。
トルーパーで作業などを行っているらしく通路などは非常に大きく広い。
通路を進むとあちこちに敵味方の残骸が転がっている。
『目に見える物を信じるな。 己の意思と魂に従え!』
――さっきからうるさいな。
迂遠な言い回しは適切に使用しないと理解を妨げるだけという話を聞いた事があるがまさにその通りだ。 相手に伝わらなければ妄言と変わらない。
さっきからごちゃごちゃと喚き散らしているおっさんの主張は一応聞いてはいたので、頑張って理解する努力はしていたのだが、今一つ良く分からない。
それっぽいワードを繋ぐと盲目の羊達というのはヨシナリ達プレイヤーで、機械仕掛けの神とやらに操られているだけの哀れな存在?だから目を覚ませと言った所だろうか?
――具 体 性 の 欠 片 も な い!
説得したいならもっと理解しやすい――馬鹿でも分かるように言えと言う話だ。
目を覚ませと言われても具体的にどうすればいいのかさっぱり分からない。
このゲームの世界観を理解する助けにもならなさそうなので、あまり興味を惹かれる内容でもない。
そもそもこのゲームのストーリーは侵略宇宙人から世界を守る話だろうが。
テロリストじゃなくて宇宙人とか宇宙生物を寄越せと言いたい。
正直、以前にやった緊急ミッションで宇宙っぽい場所を見かけたので宙間戦闘ができると期待しているのだが、一体実装はいつですかね?
こんな戦力バランスの狂った雑魚狩りみたいな事やらせてないで、最低でももう少し歯応えのある敵を寄越せと言いたくなる。 他の味方機はこのミッションが歩合制と言う事で報酬目当てに血眼になって敵を探しており、我先にと奥へ奥へと向かっていた。
敵が碌に出てこないので少し萎えかけていたヨシナリだったが、ふとある物が目に留まる。
それは偶然だった。 センサー系の感度が悪いので基本的に目視に頼る形でこの基地は損傷が激しいせいか、元々省エネだったかは不明だが、照明の大半が落ちているので非常に薄暗い。
その為、内蔵されているライトで前方を照らしながら進んでいるのだが、残骸を避ける為に僅かに姿勢を崩し、明かりが下にブレる。 それにより光が地面を舐めるように移動した。
その時、小さな影が横切ったのだ。
――何だ?
ヨシナリは機体を止めてぐるりと見回す。 足元を重点的にだ。
そこである一点が目に入る。 半開きになった小さな扉だ。
恐らくトルーパー用ではなく人間が出入りする為のものだろう。
「……どうしたものか」
敵に歩兵がいるという話だったのでまぁ、不思議ではない。
ただ、トルーパーでは通れないので機体から降りなければならなかったが――
「まぁ、いいか」
どうせ収穫はなさそうなので他がやらないような事を試してみよう。