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第509話 限定ミッション③

 扉の近くで膝を付き、コックピットを解放。 アバターで機体の外に出る。

 アバターでも運動能力は生身の比ではないので少し高いがそのまま飛び降りて着地に成功する。 


 こうして視点が変わると見える物も違う。 

 機体からだと敵味方機の残骸ばかり目に入るが、よくよく見てみると歩兵の死体らしきものも転がっていた。 近くに寄って観察すると強化服というよりは黒子のようにシルエットだけの人型だ。


 ただ、個体差を与えているのか男性、女性である事が分かり易く体形がはっきりしている。


 「身長も結構違うな」


 小さく呟き、あちこちに転がっている突撃銃とマガジンを拾って使える事を確認した後、扉の奥へと歩を進めた。

 通路を歩いていると等間隔で扉らしきものが並んでおり、試しにと手近な部屋に入る。

 ベッドに一通りの家具が揃っており、何とも生活感がある誰かの私室といった様子だ。


 机には倒れた写真立てがあり、手に取って確認すると集合写真らしく大勢が笑顔で親指を立てたりピースをしたりと仲の良さが窺える。 


 「死体はあんな雑なデザインなのに写真はちゃんと人間なんだな」


 変な所で手落ちがあるなと呟いて部屋を後にする。 

 念の為にと順番に部屋を確認するがどれも誰かの私室らしく家具などが配置されていた。

 全ての部屋が違っていたので変な所で凝ってるなと思いながら更に奥へ。


 少し進むと大きな扉が目に入り、中に入ると古めかしい端末機器がいくつも並んでいる。


 「このご時世に外部端末かよ」


 なくはないが脳内チップの普及で随分と廃れた代物だ。

 あれこれと弄っていると電源が入るが早々に生体認証を求められる画面に出くわしたので、やっぱり無理かと思っていたのだが――


 「……いや、行けるか?」


 そう呟いて元来た道を戻り、転がっている死体を引きずって端末に。

 見た目が生身だったらもう少し抵抗があったかもしれないが、こんな雑なデザインの死体ならあまり気にもならない。 


 「えーっと? 指紋と網膜か」 


 このシルエットだけのデザインで行けるのだろうか?

 取り敢えず片方の腕を持ち上げて手を広げて端末に当てる。 


 「あ、通った」


 じゃあ網膜も行けるかと頭を持ち上げて表示されたウインドウに押し付けるとこちらもパス。

 マジかと思いながら端末を立ち上げるが――


 「……読めん」


 言語が日本語ではなかったのでさっぱり理解できない。

 そもそも脳内チップしか碌に扱った事がないヨシナリとしてはこの手の旧式の機器は馴染のない物だったのだ。 


 ローカライズぐらいしてくれよと思いつつ、何かないかと探る。

 文章ファイルは読めない上、持ち帰る手段もないので無視。 

 映像ファイルか何かないのだろうか? こう、テロリストの目的とか裏でやっている悪事的な物の証拠映像でもあれば多少はこの状況に対する理解が進み、報酬がなくても満足は出来るかもしれない。


 世界観の説明が薄すぎるゲームなので、製作者の意図は知りたい所ではあった。

 既にヨシナリの意識は撃破報酬は完全に諦め、この端末から何かしらの情報を引き出す事にシフトしていた。 適当にファイルを開いては閉じてを繰り返していると――


 「あ、なんか画像ファイルが入ってるな」


 それっぽい物が見つかったなと開くと意外な物が飛び出した。

 機体の設計図。 これはトルーパーだな。


 「ソルジャー、パンツァー、キマイラ、エンジェルと既存機体の図面だな」


 細かい所は理解できないが形状から何かは読み取れる。

 問題はその次だった。 他に比べるとかなり大型の図面だ。

 全体像を見ると見覚えがありすぎる代物で、防衛イベントで現れたイソギンチャク型エネミーの設計図だった。 訳が分からない。


 あれは異星人の兵器って設定じゃないのか? 

 よくよく見ると内部にトルーパーを格納するスペースが存在し、図を読み取ると恐ろしい事にこれは機動兵器扱いではなく強化装甲と同じ扱いのようだ。


 「このサイズで強化装甲扱いなのか……」


 知れて良かったのか微妙な情報を仕入れつつ、次のファイルを開くと微妙に見慣れない代物が出て来た。 


 「こりゃ英語だな。 えーっと? リベリオンフレーム? 名称が違う割には既視感のある見た目だな」


 軽く確認するとどうやらエンジェルフレームをダウングレードさせた代物らしく、エネルギーウイングや光学兵器を使用せずに一世代前のエンジンやジェネレーターで動力を賄えるようにした代物のようだ。 ぶっちゃけるとスペック的に大した事がない。


 数値的にソルジャータイプ以上のスペックではあるが、キマイラには微妙に届かないのでヨシナリの感想としては「中途半端」だった。

 もしかしてテロリストの次期主力機といった感じなのだろうか?


 「まだあるな。 えーっと? えぇ、開くのに生体認証いるかよ」


 面倒くさいなと思いながら足元の死体を掴んで認証をパス。


 「こっちも英語か。 えーっとなんて読むんだこれ? あ、あべ、アヴェ――」


 ファイル名に首を傾げながら開こうとするとパンと乾いた銃声が響き、表示された画面に銃弾が命中し表示された画面が消える。 振り返ると敵兵が拳銃を構えていた。

 どうも奥の扉から入ってきたようだ。 


 ヨシナリは内心で危ねぇと思いながら近くの机の陰に飛び込む。

 追いかけるように銃声が連続して響くが、命中はしていない。

 ヨシナリは深呼吸して気持ちを落ち着けた後、敵の銃声が途切れたタイミングで顔を出して応射。


 アバターの操作はトルーパーに比べると簡単なので、かなり滑らかに動ける。

 銃の扱いに関してもトルーパーの装備は実銃をスケールアップした代物が多いので問題はない。

 敵兵は扉の奥へと姿を消した。 徐々に遠ざかっていく足音から隠れているのではなくそのまま走り去ったようだ。


 ――どうしたものか。


 追ってもいいが機体を残したままなので、微妙に迷ってしまう。

 行くか戻るか。 耳を澄ますと遠くでは戦闘の物と思われる音が響く。

 戻ってもやる事がなさそうなので進むとしよう。 


 慎重に扉を開けて誰もいない事を確認した後、通路を進む。 

 抜けた先は広い空間で、どうやら格納庫のようだ。 

 ハンガーはほぼ空っぽだが、損傷したボーンヘッドが数機残っていた。


 不意に音がプツプツと途切れる。 何だと首を傾げていると不意に下を見ると何かが居た。

 敵兵が二人。 片方が拳銃を持っている所を見るとさっき撃ってきた奴だろう。

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