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第510話 限定ミッション④

 何やら言い争っているように見えるが、さっぱり聞こえない。


 ――いや、違うのか?


 音声がプツプツと微妙に途切れるのはこいつらの声をカットしているからか?

 ノイズが入るタイミングと連中が喋っているタイミングが重なっている。

 言語を自動検出してフィルタリングしている?


 プレイヤーに聞かれては不味い話でもしているのだろうか?

 運営の意図は不明だが、あいつらが何を話しているのは気になった。 

 どうしたものかと考えていると銃声が響く。 片方が撃って、撃たれた残りが崩れ落ちる。


 体格から撃った方が男、撃たれた方が女だ。 

 男は女に吐き捨てるように何かを告げた後、去っていった。

 女は倒れたまま動かない。 男が完全に居なくなった後、そっと女に近寄る。


 取り落としたであろう拳銃を拾い上げ、女の様子を確認。

 胸が上下しているので死んではないようだ。 腹に小さな穴が開いている。

 ヨシナリは正直、嫌な予感がしていた。 


 音声がフィルタリングされているのなら視覚映像もそうなのではないのだろうか、と。

 女の腹を軽く触ると見えないが、ぬるりとした感触。 間違いなく出血。

 恐らくこいつ等もこちらからはシルエットだけの手抜きデザインに見えるだけで、本当の姿は別なのかもしれない。 


 嫌な想像が脳裏を過ぎるが、努めて無視して冷静に目の前の状況をどう処理するべきかと考える。

 一応は生きているみたいだし、とどめを刺す事に若干の抵抗があったのでできる事をしよう。

 女の持ち物を漁ると医療キットがあったので中に入っていた消毒液を雑にかけて医療用のステープラー――ホッチキスで傷を強引に塞いだ後、包帯を乱暴に巻いて止血。


 血が見えないので処置できているのかさっぱり分からない。

 やれる事はやったので後はこいつの運次第だろう。 離れようとすると足を掴まれる。

 結構な傷に見えるが、もう動けるとは中々に元気だな。


 何か言っているようだが聞こえないので、ヨシナリはアバターの耳辺りを指さして首を振る。

 聞こえないとアピール。 女はならと空いた手で指をさす。

 何だと見るとそこには格納されたボーンヘッド。 見た感じ一番損傷が少ない機体だ。


 ――乗せろって事か?


 これいいのかなぁと思いながらもやる事もないし、まぁいいかと女を背負って階段を上りボーンヘッドへ。 上部にコックピットハッチがあるらしく、女は苦しそうにしながら展開して身振り手振りで入れろと言っているようなのでそっと中に入れるが腕を引っ張られた。


 「……俺も乗れってか」


 ちょっと興味あったしまぁいいかと乗り込む。 

 コックピットの構造は既存機とそこまで変わらない。 

 大きな違いはアバターを接続するのではなく、フットペダルとスティックで操作するようだ。


 女はパチパチと電源を入れるとエンジンが動くような音が響き、機体が起動する。

 モニターが点灯し起動画面が展開。 女が機器を操作するとこの基地のマップのような物が表示され、最下層の一点にマーキングされている。 


 ――流れ的にここに行きたいって事か? 


 女は腹を押さえながら座席の裏にある補助席のような物に座りシートベルトを装着。

 体を固定しながら注射器のような物を腕に突き刺していた。


 「おい、まさかとは思うが俺に操縦しろって言ってんのか?」


 流石にそこまでする義理は――女は震える手で肩を掴み、空いた手で表示されたマップを指差す。

 少し悩んだが、まぁいいかとコックピットに座る。 


 「これ、行けんのかな?」


 軽く操作するとボーンヘッドはゆっくりと動き出した。


 「えぇっと、武装とかはどうなってるんだ?」


 表示されたウインドウに触れるとステータスが表示。

 脚部のフロートシステムは異状なし、両腕のガトリング砲は残弾三割。

 両肩のグレネードランチャーは各、三発ずつ。 推進剤は補給を済ませたばかりなのか満タンだ。


 ――よし、いっちょ行きますか。


 誘導に従って機体を移動させる。 


 「粗製トルーパーとか言われる訳だ」


 少し動かして分かったが、このボーンヘッド。 とにかく扱い難い。

 単純にスペックが低い事もあるが、アバターとの接続ではない手動操縦なのでⅠ型と比べても機体の反応が鈍い。 


 後は内部機構の重たい部分が上に偏っているので下手に前のめりになるとバランスが崩れるのだ。

 その為、姿勢の維持が重要となる。 さっき戦った連中はこんな機体であれだけの動きをしていたのかと考えると大した操縦技能だと感心してしまう。


 ヨシナリは無言で機体を操作して奥へと進む。 

 戦闘の音が聞こえてこない所を見ると、このルートはまだ発見されていないようだ。

 完全に無音という訳ではなく、戦闘の物と思われる衝撃による振動が地面を微かに揺らす。


 それ以外は機体のエンジンの駆動音だけだったのだが、プツプツと音が途切れるので肩越しに振り返ると女が何かを言っているようだ。 

 どちらにせよ聞き取れない上、脇見運転をすると転倒の危険があるので何も言わずに機体の操作に専念する。


 誘導に従って進むと物資の搬入に使うであろうエレベーターに辿り着いた。

 電源が来ているように見えないが、シャフトを降りるのだろうかと首を捻っていると女が持っている端末のような物を操作すると重たい音が響きエレベーターが動き出す。


 ――一応、電気は来ているのか。


 よくよく考えると端末も動いていたので完全に止まっている訳ではないようだ。

 到着したエレベーターに乗り込むと女が端末を更に操作。 ゆっくりと下降を開始。

 少し時間がありそうなので小さく息を吐いてシートに背を預けると、にゅっと端末が差し出される。


 何だと受け取るとメモ帳か何かが開いており、英語で何やら文章が書かれていた。

 読めねぇよ。 ヨシナリは無言でメモ帳に『Japanese』とだけ書いて返す。

 女は端末を操作し、また返って来た。


 『あなたは何者なの?』


 なるほど、端末を経由すればやり取りは可能なのか。

 それにしても何者かと聞かれてもどう答えればいいのかよく分からない。

 取り敢えず『プレイヤー』とだけ返しておいた。 


 『何故、私を助けたの?』

 『好奇心』


 即答。 正直、この女を助けた理由はそれ以上でもそれ以下でもなかった。

 そんな事よりも聞いておきたい事があったので、ヨシナリは端末を寄越せと手を伸ばす。

 女から端末を受け取り、聞くべき事を纏める。


 時間もないので質問は簡潔にするべきだ。 少し考えて質問内容を考えて書き込む。


 ・この先に何があるのか?

 ・そこで何をするのか?


 差し当たってはこの二点でいいだろう。 

 こいつ等が何者なのかにも興味はあるが、そろそろ到着するので目先の事を優先するべきだった。

 末尾に急げと書き足したので女はやや焦ったように端末を操作し何かを書き込み始め――

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